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140字小説+あとがき集(有料版)

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140字小説をまとめたものです。無料版との違いは、目次+あとがきの有無です。
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2014年4月の記事一覧

井の中の

大喧嘩した夜に「あんたなんか汲むんじゃなかった」と母に言われる。

汲む?

「あんた、井戸から汲まれてきたのよ。水と一緒に」

からかわれているのか本気なのかわからないまま、庭にある井戸のことを考える。

泳ぎは苦手だし、水かきもついていないし、海ぐらい知っている。

でも、歌うのは好きだった。

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強盗

これで最後と決めていた。

自転車で追い抜きざまに、老婆が大事そうに抱え込んでいた手荷物を奪い取る。

バッグの中には硬貨の一枚もなく、真っ白な卵が一個だけ。

どうしたものかと悩んでいると、殻が割れてピアノが出てきた。

小さすぎて鍵盤が押せない。

太く歪に育った自分の指をじっと見る。

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仕事

落ちこぼれを拾う仕事をしている。

今にも落ちこぼれそうな人を見つけ、監視し、落ちこぼれた瞬間にさっとすくい上げて混乱させる仕事だ。

落ちこぼれたはずだったのに、折りよくおさまっている事に気付いたときのあの顔!

頼むから落ちこぼれさせて下さいなんて頼んできた奴もいたが、俺は容赦しない。

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魔女の魔法

自分の気持ちを分かってもらえず、泣いてばかりいる娘がいました。

娘を憐れんだ魔女は、魔法をかけてあげました。

するとどうした事でしょう。娘が流す涙に、感情が宿ったのです。

「お腹がすいたよ!」

「眠たいよ!」

「寂しいよ!」

一粒ごとに、娘の感情を呟く涙たち。

娘は思いました。

正直すごく邪魔。

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世界一

ママのご飯が世界一おいしい、と息子は言った。

「パパもそう思うよね?」

何気ない息子の呟きに、私は答えられなかった。

翌日、私は長い休暇を取り、息子を連れて世界中を回る旅に出た。

ありとあらゆるご飯を食べ、記憶する。

帰国後、自宅に妻の姿はなく、私は息子の言葉を証明できないことに涙した。

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間違い

「間違い電話だった」
「そう」
「電話じゃなかったの、これ」
「え」
「今までの全部、念話だったんだって」
「え、誰が?」
「だから電話は間違いで、念話だったの」
「誰と念話してたの?」
「彼氏だけど、もう別れるって」
「念話で別れ話?」
「うん。もう念話するのもやめるって」
「私もそれは勧めるけど」

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告白

大胆な告白をされる。

「この世で一番、貴方が嫌いです。だから絶対に生き続けて下さい。大嫌いな貴方が生きていることで、私は貴方を憎んだり恨んだり見下したり蔑んだり嘲笑ったりしながら、充実した人生を送ることができます」

そこまで依存されてしまうと、まだ死ぬ訳にはいかないと思えるのだった。

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親子

散歩中に水たまりを覗いた息子が「これどこから来たの?」と聞くので、

お空から降ってきた雨が水たまりになったの、

と答えると、

「じゃあ水たまりの親は雨なんだ」なんて言う。

それ以来、水たまりを見るたびに「子雨、子雨」とはしゃぐ。

長靴でばしゃばしゃ飛ばされる水滴を見て、孫雨? と私は思う。

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迷子

「人は迷ってる動物に優しすぎ」
「そう?」
「迷い犬とか、迷いアザラシとか、迷いクジラとか、とにかく迷ってたらすぐ助けにかかるでしょ人って」
「まあ可哀想だし」
「なのに、同じ人である私が迷ってても誰も見向きもしない」
「そりゃ仕方ないよ」
「なんで」
「迷うのが好きなのって人間ぐらいだもん」

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黒猫

今日は妙に黒猫と遭遇する日だ。

「馴染みの友猫が死んだ日には、猫たちは毛の色を黒く変える。喪服がわりだ」

「かつて人間だった頃の名残で、そういう風になっている」

「それが巡りめぐって、不吉の象徴とされてるのさ」

と、僕の頭上に浮かぶ黒猫は語った。

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朝ご飯

朝に眠って夜に起きると、同居人が「朝ご飯どうする?」と聞いてくる。

そう聞かれると世界はぜんぜん朝らしくないのに、朝食の気分になってトーストとか焼いてしまう。

朝も昼もほんとは夜食で、夜が明けたら夕ご飯。

世界が私を照らさないから、私も世界を照らさない。

今日も朝は真っ暗だ。

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ペット

ドッグフードを飼っている友人がいる。

水槽の中のドッグフード(ドライタイプ)を見つめて彼は語る。

「世間のこいつらは犬に食われてばかりで、誰にも飼われないまま一生を終えてくんだよ。たまには飼われたって、いいだろ?」

そんな友人は交際中の女性に生活費を支給されているが、俺は彼が羨ましい。

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クッション係​

本日のクッション係に任命す、と前任者から通達があり、俺はリビングのソファーに仰向けに転がりクッション完了。

酩酊しながら帰宅した父と、食器を洗っていた母が口論を始める。

まあまあまあと間に入って、俺は柔らかさアピール。

家族継続の方向で、どうかひとつ。

明日のクッション係は、弟に任命す。

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おいだき

猫と遊んでいたらドアホンが鳴る。

扉を開くと、別居中の夫が真剣な眼差しで立っていた。

「うちの風呂に、おいだきってあったじゃないか」
「は?」
「あれの意味が分かった」

夫は両手を広げ

「追いかけて、抱きしめるって事だ!」

と満面の笑み。

私は無言で彼を追いだして錠を掛け、足元の猫を抱きあげる。

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