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【連載小説】#03 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。
電話営業は全滅。
どうするべきかー。
自分に信頼度がないのだから、誰かの信頼度を借りるしかない。
これが私の出した結論だった。
「横田社長、お力を貸して頂けないでしょうか?」
「何をすればいいの?」
「社長の知り合いの方々に、私を紹介してほしいんです。もちろん、社長の会社の広告物は安く作りますので! 何卒宜しくお願い致します」
私は深々と頭を下げた。
「他ならぬ阪尾君のためなら紹介するよ。私の知り合いでよければね」
横田社長はいつものやさしい笑顔で快諾してくれた。
虎の威を借る、とは本当である。
横田社長の紹介というだけで、多くの会社が会ってくれた。そして、3分の1ほどの会社から仕事が出たのだ。
信頼度とはここまですごいものなのか。
私はもっと深く知りたいと思った。
ここでレスポンス(売上げや集客)を高める広告の話をしたいと思う。広告というものは、作り方次第で結果が大きく変わってしまう。
効果の高い広告には、4つのパーツを入れることが重要である。
4つのパーツとは、結果、実証、信頼、安心のことを言う。
というか、私の経験を通して私が勝手に決めた広告要素のことだ。
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結果とは、ベネフィットのこと。
例えば1万円のダイエットサプリを買ったら、
2カ月で3キロ痩せられるのか、
2カ月で8キロ痩せられるのか、
ということである。
もちろん消費者は後者を望むだろう。
ベネフィットが魅力的であればあるほど商品は売れる。
実証とは、ベネフィットが実現できる理由である。ダイエットサプリの例で言えば、痩せる理由を成分表やグラフなどを用いて詳しく説明するパーツである。
信頼とは、第三者による評価のこと。
権威ある専門家からの評価の高いコメントや、テレビや新聞などで紹介されることがそれに当たる。
賞なども効果的である。
安心とは、お客様の声のこと。いわゆるユーザーボイスである。
この4つのパーツを入れた広告とそうではない広告では、売上げや集客に大きな差が生まれる。
横田社長が言った信頼度とは、まさにこの信頼パーツのことだったのだ。権威ある第三者からの評価というものは、それほど効果があるということを身をもって感じさせられた出来事だった。
レスポンス広告における4つのパーツ理論。
今では多くの方々が自然とこの方法を使っている。しかし、この理論が生まれるには、いくつもの戦いがあったのも事実だ。
これを説明するには、時計の針を25年ほど前に戻さなければならない。
私は大学を卒業後、大手サービス企業に就職した。しかし、ある理由から、コピーライターを志すことになった。
時はバブル崩壊の直後、転職には向かない時期だった。20社ほどに履歴書を郵送したが、会ってくれる会社は皆無だった。しかし、銀座にある広告プロダクションがアルバイトとしてなら、ということで私を採用してくれた。
私は懸命に働いた。使いパシリみたいな仕事がほとんどだったが、毎日夜遅くまで働いた。
そして同時にコピーライターとしての小さな実績も積むことができた。
この実績のおかげで、私は広告代理店に転職することができた。広告代理店とはいっても世の中には数多くあり、50名ほどの中堅に位置する会社だ。しかしこの会社には特殊な技術があった。それが、通信販売の広告を作る技術である。
転職当初、私はこの通信販売の広告作りに苦しんだ。私が作った広告は商品が売れないのである。
「阪尾君、君の広告は全然ダメだね。今回も売れなかったじゃないか」
広告の結果を言い渡される会議は、出るのが辛かった。自分の無力さをひしひしと感じる時間だからだ。
私は何とかしたい気持ちと逃げ出したい気持ちの狭間で、いつも心が揺れていた。
入社して3カ月くらいたった頃、先輩の日村さんと飲みに行く機会があった。
会社から少し離れた日村さん行きつけの小さなバーだった。
「日村さん、俺、通信販売の広告って、何か違うと思うんですよ」
「違うって、何が?」
「いや、通販広告って、広告としての美しさがないし、泥臭くて何かメチャクチャっていうか…」
「そうね。まあ、泥臭さのオンパレードだよね」
「ですよね。俺がコピーライターの学校で学んで来た広告とは全く違うんですよね。こんなもの作っていて本当にいいのかなって、いつも思ってるんですよ」
「阪尾ちゃんの言うことはよく分かるよ。でもさ、だからと言ってどうする? 泥臭い通販広告を作る。それが俺たちの仕事じゃん。それで給料をもらってるんだから。悔しかったら結果を出すしかない、俺はそう思うよ」
日村さんは俺の心を見抜いていた。
結果の出ない日々から逃げようとしているダサい後輩の心を。
何かのせいにして、自分の心が傷つかないようにする。情けないが、それが俺の毎日だ。
日村さんは帰り際に言った。
「レスポンスが取れなかったって、別に殺されるわけじゃない。まあ、気楽にやんなよ」
家への帰り道、転職して初めて俺は自分と向かい合った。
このまま逃げたらダセェだろうな。
何の結果も出せなくて。
ショボイ野郎だったと思われるな。
しかも逃げたところに何がある?
俺には他に行けるところなどないじゃないかー。
やるしかない。
生暖かい風が吹いていたその夜、小さな覚悟が決まった。
つづく