〇〇するほどの給料はもらっていない
リスクと賃金が見合わない生活必須職従事者
先日、辺野古のダンプ事故で40代の男性警備員が死亡したとの報道があった。詳しい内容は出ていないため、確定事項ではないものの、抗議活動者を抑止して巻き込まれた線が濃厚と見られている。
かつて鉄道員だった私からすれば、真面目すぎる。一般的な警備員なら、年収にして300〜400万円のレンジであり、命を掛けるのに見合うだけの給料など貰っていないのだから、相手が未来のある子どもとかでもない限り、自らを危険に晒してまで、他人を守ろうとする必要など、本来であれば無い筈である。
抗議活動者が大型車両の進路を妨害した結果、轢かれたところで誰もその場に居た警備員を咎めたりはしないだろう。
私がホーム監視を行なっていた時、電車賃の支払いから逃れるために、線路上に降りて、軌道上を歩いて踏切から出ようとするキセルの現行犯を目撃してしまったため、保安上、仕方なく非常停止ボタンを操作して周辺の列車を停めた。
しかし、JRのように線路上で追いかけっこして、捕まえるだけの給料はもらっていないため、「見失ったが、少なくとも軌道上には居ない」として、運転再開した。
一部では「キセル乗車に死を。それが私の仕事です」並みの熱意で捕まえようとする社員も居るが、そもそも支払うべき対価をブッチするような輩ほど、往々にして常識など通用しないのだから、説得している間に突然殴られたり、刃物でも出されたら一溜りもない。
そのリスクを考えたら、別に見逃したところで私の懐が痛むわけでもなければ、罰則があるわけでもないので、社員としてこの手の規則に忠実だった試しはない。大事なところさえ抑えておけば、あとは適当にそれっぽい対応をすれば良いのである。
そもそもシフトワーカーで手取り13万円みたいな待遇だと、時給換算したら駅前の牛丼屋でバイトした方が稼げる、ギャグみたいな現象が起きる。現に警備員の賃金よりも抗議活動者の日当の方が高い社会構造の歪みがあるのだから、そこまでするほどの給料は貰っていないと怠惰に勤める位のメンタリティでなければ、エッセンシャルワーカーなど命がいくつあっても足りない。
リスクとリターンは表裏一体
投資の世界に長く居ると、リスクとリターンは表裏一体というバランス感覚が身についているため、投資商品でローリスク・ハイリターンと謳われればサギだと思うし、ハイリスク・ローリターンならカモにされていると直感で思えるだろう。
では、この感覚を賃金労働に置き換えると如何だろうか。総合商社で年収2,000万円の窓際族、通称Windows 2000みたいな存在を除けば、多くのフルタイム労働者は年収にして300〜400万円台で働き、人生の1/3以上を労働に費やしている。
しばしば、インデックス投資の4%ルールを引き合いに、毎年400万円のキャッシュフローを4%ルールで得ようとすると、1億円必要なのだから、年収400万円の労働には1億円の価値があるのと同義。
みたいな内容が、意識高い系自己啓発書で散見されるが、冒頭の警備員のような、時に命懸けとなるようなリスクを負う職種において、このロジックを適用すると、命の値段が1億円だと説いているようなもので、1億円で命を賭けるなら誰もが安すぎると思うだろう。
今から半世紀前に無人となった端島(通称:軍艦島)では、炭鉱夫の賃金は、日給とはいえ、当時の巡査の初任給の3倍、大卒ホワイトカラーの初任給と比べても2倍以上の水準となっていた。
しかも、家賃は三菱鉱業持ちだったため、事実上の給与=可処分所得と額面以上に厚遇で、サウナ状態の穴倉で8時間近い肉体労働を行う劣悪な環境と、情勢に応じて解雇されたり、時に命を落とすようなリスクに見合うだけの賃金が支払われていたとされている。
身体さえ丈夫なら、誰でも高給取りになれたからこそ、東京ドーム1個分強しかない島に、5000人以上の人がひしめき合って生活し、ひと足早いベビーブームが起きていたとも捉えられる。
労働力の安売りが加速する社会構造
しかし、悲しきかな。平成不況と言われ続けて早30年。世界的な経済危機もあったことや、解雇規制もあって企業は正規雇用の採用に慎重となった結果、学歴至上主義に。
若者は奨学金という名の借金を背負って社会に出るようになり、無論、卒業後から借金の返済が始まる以上、就業しない選択はあり得ず、それにより労働力の安売りが加速する社会構造となった。
結果として、責任ばかり取らされる割に低賃金と、普通に働くことが罰ゲーム化し、コミュ力や容姿に恵まれた若者ほど、夜職に吸い込まれていく。
私のように、容姿やコミュ力がチー牛レベルだと、身の程を弁えている弱者男性からすれば、夜職という選択肢は存在しない。
そうして仕方なしに薄給激務なシフトワークを選び、身体を壊した結果、新卒ほど若くもない。単純作業以外の職務経歴(=スキル)も持ち合わせておらず、即戦力としては使えない。かといって肉体労働もできない。みたいな、労働者としては恐らく誰も欲しがらない哀れなオッサンと化す前に、コミュ力や容姿を武器にできる若さの特権を駆使して、夜職で稼げるだけ稼ぐのは経済的には合理的だし、そのオプションがある人に羨ましさすら感じるまである。
そんなことを考えると、持たざる者に唯一与えられた手段は、薄給をダシに「〇〇するほどの給料はもらっていない」と、サボタージュすること位なもので、労働生産性が一向に上がる気配がなかったり、「静かな退職」「FIRE」が持て囃されるのは、多くのパンピーがそのような境遇に身を置いているからではないかと考えるが、いかがだろうか。
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