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老後はお金が思うように使えない'e


世の中は不平等なもの

 学生時代は時間はあるけど、お金がない。社会人はお金はあるけど、時間がない。老後は時間もお金もあるけど体力がない。並の家庭に生まれて、人並みの人生を歩めば、人生で時間・お金・体力の全部が揃うことはない。皮肉である。揃うのは大富豪の家に生まれた子供だけだ。

 親ガチャなんて言葉が流行するのも、人は生まれながらにして平等と言う建前だけの民主主義と、金持ちはより一層金持ちに、貧乏人はより一層貧乏になると言う、経済学者のピケティ氏がr<gの不等式で証明した本音の資本主義という、相反する2つの主義がせめぎ合うことによる歪みがもたらしているものと推察している。とかくこの世は不平等だ。

 時間は誰しも平等に与えられるが、体力は生まれ持った性質、お金も生まれた家庭で大枠が決まるため、本人の努力でどうにかできる要素は少ない。

 しかし、労働で得た賃金を 金融資本に投下することが可能となった現代社会では、r>gの不等式を最大限活用することにより、平民の出でも一代で財を成せるようになった。

 それにより20代〜30代という体力のある時期に、金融資産所得だけで生活を賄える、経済的に独立した状態を資産運用で構築することにより、早期リタイアの実現に漕ぎ着け、若くて体力のある時期に、生きるのに困らない程度のお金と、フルタイムの雇用に縛られない自由な時間の全てを手に出来るFIRE思想が持て囃されているのが昨今である。

早期リタイアしたら老後が心配?

 しかし、今まで良い大学を出て、良い会社に就職して、定年まで勤めれば相応に報われると言う、労働を美徳とするプロテスタント思想が染み付いている日本人が、働かずに好きなことだけやって生きていくなんて、夢のような新しい思想が大衆に受け入れられる筈もない。

 中には実質ニートやフリーターを正当化しているに過ぎないとか、下流老人や老後破産一直線と言う、ルサンチマンから来るであろう否定的な反応を示す人が一定数存在する。

 自分には関係ない、興味がないと思うなら、無視していればそれで終わりなのに、わざわざマイナスのストロークを返す辺りが、嫉妬心むき出しで滑稽に思えてしまう。

 ライブドア事件や日産ゴーンさんの件、阿武町の4630万円誤振込問題然り、この国はどこまでも、同調圧力と言う名の突き抜けようとする人間を引き摺り下ろす、ムラ社会特有の一人勝ちを許さない社会主義だと感じさせられる。民主主義は建前でしかない。

 別に早期リタイアした人がフリーターになろうが、ホームレスになろうが、ナマポになろうが、所詮赤の他人なのだから、その後を知る術も興味もないだろう。他人の不幸は蜜の味的な感覚が見切り発車してマイナスのストロークを返しているのであれば、そもそもの人格を疑う。

 許されるのは、身内や親族がFIREに失敗し、おスネかじり虫になるのを心配して止める時くらいなものだろう。

 そんなこんなで私が真っ当な大人の意見など聞かずに、自由の世界を追い求めて質素倹約な生活と資産運用に励み、蓄財を加速させている理由として大きいのは、医療費以外に大して使いみちもないであろう老後に、お金持ちになったところで仕方がない真理に気付いてしまったからだ。

人生のやりたいことリストを作る

 若い人ほど一度、時間のある時に騙されたと思って人生のやりたいことを100個くらい箇条書きしてみると良い。

 別に100個にこだわらなくても良いし、近い将来に出来そうな、気になっているお店へ行くような小さなことから、宇宙旅行のような壮大な夢まで、予算や可能性は無視して構わない。とにかく本心が思うままに書き出してみる。

 欲張りさんなら大小合わせて100個以上はあるだろうし、私のように自由を得るために質素倹約な生活を心掛けるようになると、呼吸する感覚で節約してしまい、お金を使わないバイアスが生じて、1日掛かりでも100個は挙げられない。

 社会人になると忙しさに感けて、やりたいことを100個もリストアップする暇があるなら違うことをやりたいだろうから、出来れば学生時代の長期休暇中が望ましい。社会人でチャンスに恵まれるときは、転職時の有給消化や、病気による入院時位なものである。組織人は時間がないのだ。

 私は、幸いなことに病気に伴う入院・休暇と言う、何もすることがない超絶暇な時間を20代半ばで経験したため、高卒で社会人となってから足掛け数年掛かりで、ようやく100のやりたいことリストが完成した。

 その時に大切にしたいのは、それらを何歳までに実現したいかを併記しておき、スプレッドシートなどで数字が小さな順に並び替え、俯瞰して見ることである。中には既に実現していた項目もあったので、目標を達成した都度、加筆するのも楽しいかも知れない。

 目標年齢は20代、30代と10年刻みでも、20歳、25歳、30歳と5年刻みでも、FPのキャッシュフロー表のように、1年刻みでも構わない。私は基本的に5年刻みで、直近の5年間だけは優先順位を付けるために1年刻みで目標を再設定するようにしている。

 そこで気付くのは、やりたいことは若い時、具体的には25〜35歳位までに集中していて、老後になってからやりたいようなことは、そう多くない。

 一般論として、転職、移住、パートナー探し、結婚、子育て、旅行、学び直しなど、中には老後に出来ることもあるが、わざわざ老後に先延ばしする理由がない。それは若ければ若いほど体力や適応能力が高いためでもある。

 老後不安から今を犠牲にして、楽しみを将来に先送りしていると、気付いたときには体力と時間があまり残っておらず、お金だけがある状態となる。そのお金で時間と体力が買い戻せる訳もなく、大抵は医療や介護に費やされていく…。こんなに虚しいことはない。

 幸せに生きることを人生の目的とするなら、やりたくない事をやらずに済むための環境を構築して、やりたいことに集中した方が目的が果たせる可能性が高い。その手段のひとつが経済的に独立する昨今のFIRE思想なのだろう。

[増補]一定程度蓄えたら、意識的に「貯める」から「使う」段階へ移行する

 運用総額が日本円にして8桁の大台に乗った頃から、複利効果を実感し始め、瞬く間に倍々ゲーム化した。無論、2020年以降、コロナショックと22年の軟調な相場を除けば、概ね地合いが良かったことによる影響も大きい。

 この倍々ゲームの渦中で身体を壊してドロップアウトしており、大して入金できていないにも関わらず、長期で見ると資産は右肩上がりで増殖しており、賃金労働者としての取るに足らない入金力よりも、複利効果の方が大きいピケティ氏のr>gを痛感する。

 おそらくこのまま入金せずに複利運用し続ければ、30代、40代、50代…と10年ごとに資産が倍になる可能性が高い。とはいえ、死に際で一番のお金持ちになるつもりもないことから、意識的に「貯める」から「使う」段階へ移行している。

 そもそも、20代でゼロから8桁の大台に漕ぎ着けることは容易ではない。稼ぎが多少良くとも年400万円程度の所得水準で、種銭として1年間に100万円を拠出できる習慣が身に付いていれば蓄財優等生だが、それでも8桁の大台までは10年掛かりだ。

 つまり、若くして日本円にして8桁の大台に乗れた方は、相当優秀な貯蓄習慣が染み付いているため、意識的に使おうとしなければ、時間経過とともにお金が増える一方になりやすく、死に際に一番お金持ちとなるコース一直線とも言える。

 老後資金不足問題への不安から蓄財の習慣を身につけるのは、入り口として悪くないが、お金の不安をお金を貯めることで解消することは、構造的な矛盾を抱えているため、2,000万円貯めたところで不確実な未来に対する不安は拭えない。

 だからこそ、2,000万円蓄財できる習慣を過小評価せず、その気になれば計画的に蓄財できる自信を持つことで、お金への不安を小さくしていく。

 老後資金が確保できたら、それ以降はキープに留め、貯蓄モードのコスパ至上主義からは距離を置く。確実な今を犠牲にする形での蓄財はやめて、有り金と運用益くらいは、本心から価値を感じるものには、惜しみなくお金を使える程度のリミッター解除ができると、人生に彩りをもたらしてくれるだろう。


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