個人客など眼中にないメガバンク。
人の褌で相撲を取る銀行。
早期退職を迎えた日、振り込み依頼書を渡された。金額にして数百円。何やら清算が必要らしい。わざわざ銀行の窓口で支払わなければならないようで、よりにもよってIT業界のサグラダファミリアと揶揄される、某システム障害のデパート銀行に限り無手数料の嫌がらせっぷりである。
数百円くらい源泉徴収しやがれと思うものの、基本給が安すぎるが故に、退職月の給与から徴収できる源泉がなく、お金を払って辞める体たらくは今回で2回目だ。
都市部の窓口だと人口の絶対数からして長時間待たされると思い、地方移住前に賃貸を引き払い、実家に立ち寄る際の郊外にある支店の窓口で納付手続きを行ったが、それでも1時間以上待たされた。
昼休みに済ませようと思ったら、それだけで昼休みが終わるどころか、午後の業務に間に合わないレベルで、兎にも角にもイライラするのは想像に難くない。それくらい待たされるのが嫌いな性分で、メガバンク、地銀全般に良い印象はなく、投資対象にもなり得ない。
そもそも、銀行は誰かからお金を預かり、それを必要な人に利子を付けて融資することで利鞘を得る仕組み上、銀行の業務そのもので、直接的に利益を生み出している訳ではない。
ことわざで表現するなら、「人の褌で相撲を取る」状態に等しい。お金を融通する観点で、必要な存在ではあるものの、わざわざ株式会社として営利目的でやる必要性を感じず、非営利目的の信用金庫や、信用組合で十分に代替可能だと考えている。
そんな思想から、高卒で就いた鉄道会社で、メガバンクの口座を作らされたものの、転職時に解約して以来、公金受け取り口座に対応しているネット銀行のみで生活しているが、メガバンクの口座がなくて困ったことは一度もない。
他行宛振込手数料990円の衝撃。
メガバンクのひとつが、10月2日から振込手数料を大幅に引き上げる発表が話題となっている。別のメガバンクで預金通帳の発行を有料にすることも数年前に話題となったが、個人的に通帳は相応のコストが掛かっているから、今まで無料だったことが不思議なくらいだった。
しかし、今回の振り込み手数料の大幅値上げは、完全に手数料ビジネスに走っているとしか思えず、大した預金額ではない個人客など、端から眼中にないことを、ここまで露骨に表出すれば、ただでさえ悪い銀行のイメージそのものが余計に悪化しかねない。バブル崩壊前の就職先で、銀行員が持て囃されたのは何だったのかと思う変容っぷりである。
その一端となっているのが、ゼロ金利及びマイナス金利政策だろう。利鞘が殆ど取れなくなる以上、単価を上げるか、数量を増やすかで売上を確保するか、コストを削減するか、もしくはその両方に取り組む他ない。
コストに関しては、後発の実店舗を持たないネット銀行に太刀打ちできないが、それでも都心の一等地のご立派なビル内に、窓口を有する様な支店は閉鎖したり、窓口を予約制にして人員を削減している。通帳発行料の徴収もその一環だろう。しかし、それがサービス悪化につながり、顧客離れに繋がる側面もあるため、諸刃の剣的な部分は否めない。
そして、経営の鉄則である単価×数量の、数量は人口減少や、デジタル技術の発達でネット銀行やクラウドファンディングなどに資金が流れているため期待できず、単価を引き上げる他ない。それが振込手数料990円に繋がったと思われる。
銀行の本分。
4月に給与のデジタル払いが解禁されたばかりの時期に、手数料引き上げの発表は、株主にとってはグッドだが、一般消費者にとってはバッドニュースだろう。
マネーリテラシーの高い人から、銀行離れに拍車を掛けるだけだろう。手数料の引き上げ程度では、銀行離れには繋がらないとあぐらをかいていると、近い将来に手痛いしっぺ返しを食らうかも知れない。
そもそも、手数料ビジネスや、サービスレベルを引き下げてのコストカットは、銀行の本分からかけ離れていないだろうか。
かつて米国の大銀行が、不動産バブルで住宅価格が上昇し続ける前提のもと、返済能力に乏しい人にもイケイケドンドンで、サブプライムローンを組ませ、その債権を証券化して市場にばら撒いた。
サブプライムローンの債権単体だと、利回りが高くても、格付けが投資的確にならないから、投資適格となるように金融工学を駆使して、巧妙に複数の金融商品に組み入れられた。
これにより、サブプライムローンの債権者は銀行ではなく、金融機関や投資家に移った。いや、中身をよく分からない金融商品に組み換えて、貸し倒れのリスクを押し付けたと表現した方が正しいかもしれない。
貸したお金を回収するのが銀行の本分にも関わらず、大銀行はそれを野放図にした。やがて膨らみに膨らんだ不動産バブルは弾け、貸し倒れが続出。
金融商品のリターンが悪化したことで格付けが下がり、巧妙に組み込んだが故に、市場参加者はどのファンドにザブプライムローンが含まれているのか疑心暗鬼になり、パニック売りを誘発した。この波紋により、リーマンブラザーズが破綻した。言わずもがな、リーマンショックである。
銀行はお金を融通する本分に、今一度立ち返るべきなのかも知れない。