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「終わり」を意識した意思決定。


本人が関知していない名義の恐怖。

 私はネット銀行の口座だけを保有し、何不自由のない生活を営んでいた筈だった。しかし、諸事情あって送金が必要になった際に、Pay-easyに対応している金融機関が、IT業界のサグラダ・ファミリア銀行とJPマークでお馴染みの貯金箱のみと言う、時代錯誤も甚だしい対応にうんざりした末、貯金口座を開設しようと窓口に出向いた。

 手数料さえ目を瞑れば、Pay-easyに固執せず大人しく窓口で現金を渡した方が圧倒的に楽ではあるが、無駄金を何百円も支払うくらいなら、この際に口座開設するか仕方ない的な、毎度お馴染みのしみったれマインドが発動した。根性論は嫌いだが、お金が絡むと途轍もない根性を発揮する嫌いがあることは自覚している。

 どうでも良い蛇足だが、「貯金」と「預金」は日常会話の中で、同じ意味として使われがちだが、厳密には金融機関によって使い分けられているため、私は普段「預金」の言葉以外、使わないよう心がけている。

 そんな預金口座しか保有していない私が、貯金口座を開設するために、窓口に出向いたまでは良かったものの、「既に口座をお持ちのようですので、新規開設はできません」と断られた。

 契約の類は、内容を自分で把握しているし、使わないと判断したものは潔く解約して、管理を煩雑にしないよう努めているため、生きている口座の存在そのものを忘れるほど、ガバガバな管理で放置する訳がない。

 そんなことを内心思いながらも、自分が100%正しいとも考えていないため、記憶違いの可能性も含めて、いつ作られた口座なのか尋ねところ、生年月日からそう遠くない頃合いだった。

 客観的に提示した本人確認書類の生年月日から逆算して、どう考えても自分の意思で開設していない口座なのは明らかだった。カードや通帳の再発行手続きには、送金よりも高い手数料が取られるため、一旦、話を持ち帰って開設したであろう当事者に問い糺した。

 結果として、本人の関知しないところで、通帳もカードも存在していることが判明した。いい迷惑である。

幕引きを想定しないと、時限爆弾化する。

 高卒で社会に出た時は薄給激務で、いわゆる子供部屋おじさんだった時期はあった。しかし、それも同世代の大学生が卒業する頃には解消している訳で、こどおじの時期が特段長かったわけではない。

 それにも関わらず、子ども名義の貯金口座の存在そのものを忘れていて、名義人本人が成人した際に、権限を移譲せず放置したまま何年も経過して、本人の行動によって偶然発覚したと思うと、相続が発生した際にパンドラの箱がありそうで先が思いやられる。

 登録情報が名義と生年月日を除いて、なんら一致しない口座が生きているだけでもややこしいが、それを本人が使える口座に変更する手続きのも一苦労だ。

 相続弁護士あるあると思われるケースだが、自分の先祖が相続時に揉めごとを避けたり、代償分割の手続きや資金が用意できないなどの理由で、不動産を相続人間の共有名義にしたが、当事者は既に亡くなっている。

 そうして、共有名義がねずみ算式に増えてしまった状態で、自分が相続者となり、売却しようにも共有名義人全員と連絡が取れる訳もなく、書類が揃えられないが故にどうしようもなく、固定資産税だけを支払い続ける罰ゲームを親族間で押し付け合う地獄絵図と化す。

 面倒ごとを先送りしたくなるのは、人間の性だろう。しかし、解決できる者が、解決可能なうちに片付けておかないと、末裔で時限爆弾となりかねない。少なくとも親になって子ども名義で何か作るなら、幕引きを想定しないと私のような面倒ごとが発覚する時限爆弾化し、関係に亀裂が生じかねない。

人生を俯瞰する広い視野を持つ。

 だからこそ、「終わり」を意識した意思決定が重要と考える。突然の病気や事故などで、いつ死ぬのか分からないのだから、遺された側が整理に困るような諸々は、極力持たずに身軽で居た方が気持ちとして楽ではないだろうか。

 何かを契約するにしても、買うにしても、最初に出口をイメージしておくことで、管理が煩雑なものを抱え込むのは得策ではないと思い至れば、選択肢から除外されるわけで、たとえ想定した通りの未来が到来しなかったとしても、処分に困る事態になることはないだろう。

 建物などで用いられるライフサイクルコストのコスト部分を、なにも金銭的なものだけでなく、時間や労力の切り口まで広げて捉えることで、新しく取り込む入口だけで判断するのではなく、使用中のことや出口戦略まで踏まえた上で判断できると、昨今持て囃されている太陽光発電やEVの見方が変わってくるかも知れない。

 我々は往々にして今の状態が永続するものだと、若い時ほど思い込みがちだが、人生はいつか終わりを迎える。老衰して健康な状態が想像よりも長くは続かない可能性もある。

 人生を俯瞰する広い視野を持つことで、今、手に入れようとしている「何か」は、人生にとってどれくらい有用なものと思われるか。一歩引くことで、衝動に駆られた意思決定の大部分は回避できるだろう。それを良いことと捉えるか、悪いことと捉えるかは自分次第だ。


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