自己投資にいくら投じるか'e
リターンは青天井だが、死に金にもなり得る
成功者が執筆した自己啓発書などを読むと、往々にして若い頃は資産運用なんて行わず、全額自己投資に充てた方が、将来のリターンが大きくなる旨を記載しているように感じる。
無論、私が全ての自己啓発書に目を通して、全体の何割に記載されていたなどの具体的な数値的根拠があるわけではなく、あくまでも体感であり、私が選ぶ本や著者にそういった傾向や偏りがあるだけで、自己啓発書全体で見れば少数派の部類の可能性も捨てきれず、何かしらのバイアスが掛かっている可能性は否めない。
しかし、私はまだ20代であるものの、若い頃から蓄財と運用に徹し、身銭を切る形での自己投資は一貫して行って来なかった。
それは、高配当株への投資であれば、年間のリターンの目処がある程度立つものの、自己投資の場合、リターンが青天井な反面、株式投資よりも高い成果が出るとは限らず、結果として死に金となる可能性も大いにあるからだ。
平均余命から金融資産の将来価値を逆算すれば、富が富を生むスピードよりも有用な自分への投資など、取るに足らない自身の能力を加味すれば、そんなに多くはないと思うのが正直な感想である。
だからこそ、自分に投資して人的資本を高めようと努めるよりも、高学歴で優秀な人材が集まるような、優良企業に対して出資した権利を小口化した株式を保有し、自分よりも遥かに優秀な人材が生み出した利益のお零れを頂く方が、どう考えても期待値が高いと考え、それを実行しているまでである。
分配金再投資の投資先を人的資本に
とはいえ、自己投資を全く行わないのも極端であるから、金融資産からの利子、配当所得の範囲で自己投資を行うように心掛けてきた。
配当金によって生み出されたキャッシュフローの再投資先を人的資本に組み込むことで、ペニー・ファージング並にバランスが悪いものの、一応は人的資本と金融資本の両輪で投資を行っている具合である。
これは、投資元本が小さい時ほど、複利のパワーが効きづらく、ある程度まとまった元本にならなければ、加速度的に資産が増加しないことから、投資初期の複利は期待値が決して高くないことも関係している。
不労所得として、金融資本から生み出されたキャッシュ程度は、一般的に余命が長いとされている若い頃の自分に、経験や知識を買って人的資本を向上させた方が、時間の切り売りである労働でも単価が上がったり、本業以外でもキャッシュフローを生み出せる可能性が増やせる可能性が高い。
それらを加味して、分配金は金融資産で再投資するよりも、自己投資に充てて置く方が、リターンが見込めると判断しているが、一番は身銭を切っているようで切っていない気軽さに助けられている側面が大きい。
実際に本を読んだり、疫病が流行する前に全国各地を巡った経験から視野が広がり、高卒で入社した薄給ブラック企業のまま定年を迎える未来に、ハッピーエンドがあるとは到底思えなかった。
そこから、自己分析で価値観を可視化して、将来どうありたいか、マクロの目標を定め、倹約、持ち物や人脈の整理、現状を変えるための転職活動に励み、漆黒企業からブラック企業に転職したことで、年収は300万円台から400万円台と、金融資産(年率4%)に換算すると2,500万円相当の価値に相当する人的資本の向上に成功した。
20代で2,500万円を蓄財、運用することで年間100万円の所得を得るのは容易ではないが、転職で年収が100万円上がれば、可処分所得の観点では同等の効果となる。
これは倹約に関しても同様で、月1万円の固定費削減を行うだけで、300万円相当の金融資産を運用したのと同等の効果が得られる。しかも、倹約に関しては転職や資産運用と異なり、所得が増えた訳ではないため、税金が取られない分、労力対効果は高い。
その意味で、利子や配当所得という、最悪なくなっても身銭ではないため、惜しくないと思える範囲で自己投資するのは、我ながら名案だと考えている。
お金を賭けないと人は本気になれない
そうして今では通信制大学で自身の最終学歴をアップデートしたが、年間20万円ちょっとの学費も、金融資産運用から得られる配当所得だけで賄えている。
仮に挫折して卒業出来なくても、既に社会人で職に就けず困る訳でもなく、学歴給がある会社でもないため昇給も見込めず、今の環境で学士を取得してキャッシュフローがプラスとなる要素は正直言って見当たらない。
それでいて身銭も切っていないため、挫折して卒業出来なくてもノーダメージではあるものの、半年毎に10万円単位で学費を支払うのだから、いくら不労所得が原資と思っていても、無駄にしたくないと思うのが人間の心理である。
本来であれば学費の分だけ遊んだり、再投資して雪だるまを大きくしても良かった年間20万円、毎月1.7万円弱である。一般的なサラリーマンのお小遣いにプラスで使える金額としては、決して無視できない額であることに異論はないだろう。
そこから更に自分の時間と労力を投じて、学士取得を目指すのだから、学費を支払っている感覚もなく、人生の夏休みを謳歌している世間一般の大学生よりも真剣に学ぶのは当然である。
一旦高卒で社会に出て、働く中で自身が他人よりも資産運用に興味関心が強かったこと。実際に運用してみると、体系的な知識がない中での独学では限界を感じたことから、金融や経済分野を学び直しながら、あわよくば学歴コンプを解消することを目的に、大学で学び直そうとお金、時間、労力を投じるに至った。
これだけのリソースを投じて金融、経済、会計、心理と実学を学び、資産運用で活かそうと思って入学したのだから、否応にも本気にならざるを得ない。
その甲斐もあって20代単身者の上位0.8%に位置する保有資産を築きつつ、学士も通学部と同じ4年で取得したのだから、意義のある自己投資だったと思っている。
恐らく成功者の方が自己啓発本を通じて、金融資産投資などせずに、全額自己投資せよ!と過激な内容になりがちなのは、日系企業の生ぬるい環境で茹でガエルになる前に、自分に発破をかける意味合いで、大金を賭けることで目を覚ませ。本気になれと言いたいのではないだろうか。
本気になることが目的であれば、有り金全部を賭けなくても、自分のスイッチの入れ方は、自分が一番分かっている筈である。
私は運用益という実利を得ることがモチベーションとなっているため、最低限の金銭コストと限りある時間、労力を費やして、利益を最大化するために今日も本気で学び、本気で運用する。
[増補]自分の腕と頭で生きた方が良い時代?
あの船井電機が破産か…。2021年まで上場企業だっただけあって、上場廃止から3年で無惨な結末を迎えた意味で、個人的にはJAL以来の衝撃だった。
2024年10月4日放送のガイアの夜明けが、「企業買収に潜む"詐欺師"」だっただけに、典型的な事業承継の失敗によってM&A詐欺の食い物にされた結果、2,000人もの従業員が一夜にして露頭に迷う結末を迎えたと考えると、世間では安定を信じて疑わない正規雇用ですら、盲信すると隠れたリスクを見落とす意味で、VUCAの時代に安泰などないのだとつくづく思う。
団塊世代の名付け親でもある元通産官僚の故堺屋太一氏も自著で、少子化に苦しむことが人口動態で明らかな、これからの日本社会の構造上、「安泰と思えた地位も今は簡単になくなってしまう」と、安定雇用と引き換えに低賃金を甘んじて受け入れながら、組織にぶら下がっている賃金労働者に警鐘を鳴らしているようにも取れる内容を記している。
バブル崩壊後の失われた30年に生まれ育った世代からすれば、JALや夕張市の経営(財政)破綻や、大手企業の早期希望退職という名のリストラを何度も目にしているため、新卒で入社した所で定年まで勤めることが無理ゲーなことくらい、当たり前の認識であり、それが出世欲のなさに繋がるのは必然とも言える。
だからこそ、早期のキャリア形成とポータブルスキルを身につけられるかが何より重要であり、それに応えられていない(というよりも中堅〜ベテラン社員にその危機意識がない)会社が、”ゆるブラック”、”ホワイト離職”につながっている側面がある。
とはいえ、ポータブルスキルは組織を渡り歩く上で重要となるに過ぎず、もっとマクロな視点で捉えると、キャッシュフロー・クワドラントの考え方に倣い、従業員、自営業者、起業・経営者、投資家のうち、どこで使えるスキルを身につけるのかという視点も重要ではないだろうか。
VUCAの時代で会社組織の寿命が短くなっているなら、雇用主の経営が傾く度に転職する手間を考えると、自己投資で組織人に最適化したスキルだけを身につけるよりも、非組織人としても使えるスキルを身につけた方が、自分の腕や頭で食い扶持を確保する分、労働者の枠組みに捉われない人生を送れる可能性がある。
その観点では、少なくとも法人の経営状況を分析する上で役立つ、簿記の知識は身につけておくと、自営業者、起業・経営者、投資家のいずれを選んでも活かされるテクニカルスキルであり、自分の腕や頭で生きるための第一歩となるだろう。