20代のうちは「無理がきく」の罠。
ぬるま湯上等。無理なものは無理。
無理がきくのは若いうちだけ。30過ぎたらガクッと来る。かつて勤めていた鉄道の現場では割と話のネタになるが、いかんせん抽象的な内容故に、捉え方は人によって異なる。
無理がきくうちにしこたま残業で稼いでおけ的なメタファーとも捉えられるし、身体を壊す前に現場から離れるキャリアに進め的なメタファーとも捉えられる。個人的には後者側で、30になる前に業界から足を洗うつもりでいた。
しかし、実際には20代半ばで限界突破して大病を患い、現在もなおその影響を引き摺る形の、健常とは言い難い、20代らしからぬ腑抜けた隠居生活を営んでいる。
馬車馬より働かされているブラック企業やら、人手不足もとい奴隷が集まらなくなりつつあり、やれコンプライアンスやらハラスメントやらが声高に叫ばれて久しい時代である。
それ故に資本力のある大手企業ほど、ホワイトを通り過ぎてぬるま湯化しているらしく、いわゆる高学歴エリートほどホワイトすぎて離職する現象が発生しているらしいが、自由に働き方を選択できている大卒ホワイトカラーの、ぬるま湯で堕落する。キャリア形成にネガティブな影響がある的な悩みは、漆黒のブルーカラーで潰れた身からすれば、本当に同じ国なのか疑うレベルである。
片や正規雇用のシフト勤務にも関わらず、手取り13万円なのはおまえが終わってんだよwwと馬鹿にされ、高校を出た直後に大学に行かない選択をした結果、非大卒で転職にも窮するのは自己責任です。みたいな仕打ちを社会から受けて来た側からすれば、非大卒の奴隷労働によって、大卒が自由に働き方を選択できる現状が成り立っている訳で、ぬるま湯上等である。
所詮、自由に働き方を選択できているホワイトカラーもとい頭脳労働の「無理がきく」と、ブルーカラーもとい肉体労働の「無理がきく」は限界突破した際のリスクに天と地ほどの差があるわけで、意識高い系の限界まで追い込め的な自己啓発書を鵜呑みにせず、無理なものは無理と線引きすべきである。
20代で身体を壊して自戒する。
自分自身を霊長類ヒト科の一個体として捉えた時、もちろん同じ人間であっても個体差はあるわけで、体力に自信がないなら、体力お化けみたいな人間と同じフィールドで闘うのは部が悪く、先に根負けするのが関の山だろう。
タチが悪いのは、一時的な無理のはずが、いつの間にか慢性的な無理に変化した場合で、気付かぬ間に無理を重ねている状態に、人間は環境適応能力を発揮して慣れてしまう。
しかし、慣れてしまうと正常な感覚が削がれ、異常を異常だと気付けなくなり、何かの拍子に大事に至る可能性が高く、私のように20代で身体を壊して自戒するのでは手遅れである。
病に倒れて入院したことでしばらくの間、職場に行くことが出来なくな理、そのまま退職にシフトしたが、ロッカー整理の際に、おびただしい量の漢方薬がストックされていた状況を、異常だと思わない程度に感覚が麻痺していた辺りから、当時の自分がどれほど病んでいたのかを初めて客観視した。
鉄道員というよりは運転作業に従事する者として、医薬品の殆どは副作用が事故に繋がる恐れから使用が禁じられている。そのため、有効成分が曖昧で医学的な根拠に乏しい漢方薬を、具合が悪い時の抜道的に利用していた。
ただこれも、そもそも具合が悪かったら、体調不良を理由に休めば良いだけの話であり、漢方薬を服用してでも決められたシフトを死守し、休むのは以ての外的な職場風土が異常なのは明白で、そんな環境下で管理職が安全輸送とか抜かしているのだから、悪い冗談でしかない。
まともではない人間の相手をまともにすることはない。
そんな組織内で指示する側の人間が、現場でどうにかしろ的な無茶苦茶な要求ばかり突きつけて振り回しては、責任を一切負わない悪しき日本文化の歪みによって生じる不祥事の犠牲となるのは、決まって何の罪もないエンドユーザーなのだから、結構な数の組織が本質を見失っている気がしてならない。
会議室で意思決定している層がクソ味噌であるとするならば、現場がまともに取り合う意義はなく、むしろ自分の頭で判断しなければ、指示に従っただけにも関わらず、自分の手を汚しかねない。
分業することで責任の所在が不明瞭となると、人はどれほどグロテスクで、非人道的な行為であっても、良心が痛むことなく実行できてしまうことは、ホロコーストや、大企業の不祥事を歴史を振り返っても明らかである。
だからこそ、伊達政宗の名言でもある「まともではない人間の相手をまともにすることはない。」を信条に、相手がマジキチなら、こちらもマジキチ対応をするだけである。
文字通り「毒を以て毒を制する」作戦で対応した方が、良識ある人間としての大事なものを失わずに済む可能性が高いが、代わりに社会的地位を失う可能性がイエスマンより高くなることは、経験則として感じる部分がある。
そのため、ヤバいやつにヤバいと思わせるマジキチ対応は、普段は使わずに、ここぞと言う時のために温存しておき、宗教やマルチの勧誘とか、N◯Kの集金を練習台にするくらいの温度感がちょうど良いのではないだろうか。いずれにしても、無理をするのは良くない。