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安定は高くつく。

リスクを負うか、保険を掛けるか。

 先日、日銀が10年物国債の利率をこれまでの0.25%から、0.5%に引き上げる、事実上の利上げに踏み切ったことで一気に円高方向に振れたのと同時に日経平均全体は下落した。

 利上げと聞いて穏やかではないのは住宅ローンを変動金利で組んだ人だろう。低金利であることを見越して、利率の低い変動を選択しているのに、これが上昇してしまったらたまった物ではないからだ。

 しかし、今回は関係ない。SNS界隈では「変動金利勢ざまぁ」的なクソリプが散見されたが、己の金融リテラシーの低さを露呈させているだけである。変動金利が影響するのは短期プライムレートであり、今回の10年物国債の金利に影響するのは固定金利の方である。

 とは言え、これまで固定金利でローンを組んだ人には影響なく、これから住宅ローンを固定で組もうとしている人の利率がこれまでよりも上昇するので、利率が高ければ住宅を割賦購入しなければ良いだけの話である。

 これによって割を食うのはローンを組んだ個人というよりは、ローンを組んで住宅を購入してくれることをアテにしている不動産業や、フラット35のような固定金利のローンを取り扱う金融機関であり、先述の下落した日本株のセクターは不動産が中心だった印象である。

 ここで学ぶべきポイントは、バブル期以降の変動金利は安定した低空飛行で固定的なのに対して、固定金利の方がむしろ変動している点である。

 なぜこんなことが起きるのかと言うと、変動金利は金利変動リスクを個人で負うのに対して、固定金利はこれを金融機関が負う形となるため、固定金利には金融機関側が保険として、利率を盛ることで個人に対して一定の利率でローンを組むことができるのである。

 つまり、業者が金利変動リスクを負う分だけ、固定金利の利率を引き上げてリスクヘッジを行っており、その保険料を個人に支払わせる仕組みだから、構造上、先行きが不透明になればなるほど、利率が変動金利比で高くつく。

知識武装で保険要らずに。

 万が一に備えて高く付く可能性の高い保険を掛けるのは国民性で、日本人の生命保険契約率は8割を超えていることからも間違いないだろう。しかし、世界では保険はできるだけ掛けないのが常識となっている。

 私はグローバルスタンダードに則り、職場で強制加入となっている全労災のセット共済以外の保険を掛けていない。公的な保険の知識と、保険の掛け金分の貯蓄さえあれば、基本的には民間企業の保険を契約した時よりも、トータルでお釣りがくる可能性が高い。

 実際に、およそ1ヶ月間の入院手術で保険適用前に100万円程度、3割負担でも30万円規模の料金が請求されるところを、高額療養費制度の限度額適用認定証を退院前に発行したことで、食事代などの保険適用外部分を除いた請求は57,600円で済み、公的保障の知識を不本意ながら身を挺して実践した。

 退院証明書が出てから、全労災も権利としてきっちり請求したため、保険適用外の部分も込み込みで、退院時に精算した金額の全額が還付されたものの、鉄道員になってからこれまでセット共済に50口2,550円/月で掛けた累計額の方が大きいため、支払った保険料の一部が戻ってきた程度に過ぎなかった。

 保険など加入せずに貯蓄で備えた方が、金銭的には得をしていた計算である。私は早期リタイアに踏み切れば全労災ともおさらばだが、人によっては一度も請求する機会がないのに、組合の都合で定年まで加入している人達が結構な割合で居るのも事実で、何だか哀れに思えてしまった。

 民間の保険は構造上、全体で支払った保険料より、支払われる保険金の方が少なくないと商売にならないため、期待値としては払い損になる。個人的には宝くじと同等なものと捉えており、知識さえあれば、まやかしの安心感に割高な保険料を支払わずに済む。

正規雇用もある種の保険。

 金利の保険、生命の保険、何かと保険を掛けている日本人だが、私が思うに最大の保険は賃金労働である。正規と非正規の雇用があれば、正規の方に就きたがるのが多数派だろう。私も学生時代にそのような先入観を持っていたから、高校を出た直後に鉄道員となって今に至る。

 これは非正規雇用だと雇い止めのリスクがあるが、正規雇用は判例を見る限り、刑事罰など余程のことがないと、会社が従業員を解雇させることはできないからで、毎月一定の給与所得が定年まで得られることが、生活設計において重要だと思われているからである。

 しかし、ここで先述の住宅ローンに当てはめてみよう。正規雇用による給与所得は固定金利で、正規雇用以外の、副業やフリーランス、起業で得られる所得は変動金利的な考え方となる。

 前者はいつも一定した水準だが、売上が減少して所得が減少するリスクを企業に負わせている分、個人で同額稼いだ時よりも不利な単価になる構造である。要するに大なり小なり企業にピンハネされているわけだ。

 会社が業績変動リスクを負う分だけ、賃金を安く抑えてリスクヘッジを行っており、その保険料を労働者に支払わせる仕組みだから、構造上、先行きが不透明になればなるほど、賃金が上がらない。

 こう考えると、安定にしがみ付くことが必ずしも良いとは思えない。自分の人生くらい、自分でリスクを取るべきで、一見不安定に見える正規雇用以外の方が変動金利と同様に、自活している分だけ却って安定して生きられる時代なのかも知れない。


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