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凡人は模倣し、天才は盗む'e


パブロ・ピカソの名言

 タイトルはパブロ・ピカソの名言であり、ピカソと聞くと子どもみたいな絵の印象が強いが、実はその気になれば、めちゃくちゃ上手く描ける人であることは、一般にあまり知られていない。

 「初聖体拝領」をはじめとする10代の作品を見るとそれがよく分かるが、他人を気にする大人特有の、上手く描きたい、綺麗に描きたい、快く描きたい的な願望を捨て去り、あえて子どもの様に、純粋に自分が表現したいものを描けているのが、印象派の凄みなのだと私は思う。

アクティブファンドの9割は市場平均に勝てない?

 話は財テクに変わり、投資信託は一般論で、アクティブファンドの9割は市場平均、すなわちインデックスファンドに勝てない通説があり、投資初心者にはインデックスファンドを勧めている具合である。

 このカラクリは、アクティブファンドの運用手数料の高さにある。市場平均を超えるリターンを出すには、時間と労力をかけて銘柄を選定し、リスクを取って運用しなければならない。それらのコストは運用会社の手数料に転嫁される。

 一方で、市場平均のインデックスファンドであれば、構成銘柄や比率と言う名のレシピが決まっているわけで、その黄金比に極力近づけるように売買すれば良い。

 この差から、優良なインデックスファンドの運用手数料が0.1%以下なのに対して、アクティブファンドの運用手数料は1%超と10倍以上の差が出ている。

 仮にインデックス運用で年率6%のリターンが出るようであれば、アクティブファンドではそれより1%程度高いリターンを出し続けることが出来なければ手数料負けしてしまう。それ位、不確実なリターンに対して、確実に出ていくコストの大きさが、コンマ数%という数字以上に、複利運用の観点で重要な意味を持つのである。

市場平均にゾンビ企業が含まれている日本株

 さて、ここまで投資信託を買うなら手数料の観点から、市場平均を狙うインデックスが良いことを散々記してきた。しかし、インデックスファンドとして勧められるのは全世界株式や米国株式であって、つい最近まで市場平均が30年以上の長期に渡り横ばいだった、日本株のインデックスファンドはあまり勧めらていない。

 つまり過去の統計上、日本株は市場平均に投資しても、資産が目減りする可能性が海外株よりも高かったことを案に示しており、指標にゾンビ企業が組み込まれていることからも、成長性に懐疑的なのが正直な感想だろう。

 しかし、日本企業全てがオワコンかと言えばそんなことはなく、ニッチな分野で世界的にトップシェアを誇る日本企業は、世間に知られていないだけで数多く存在する。

 これは裏を返すと、ゾンビ起業が含まれる市場平均を丸々買うのではなく、多少リスクを取って、個別銘柄を選定しなければ、日本株でそれなりのリターンを得ることができないことを意味する。

 しかし、投資初心者が3800社超の上場企業の中から、個別銘柄を選定するのは難しい。そこで役立つのがピカソの名言である「凡人は模倣し、天才は盗む」だ。

天才は盗む

 実は投資信託は、投資家保護の観点もあって程度の差はあるものの、ざっくりどの銘柄に多く投資しているのかが月次で開示されている。

 つまり、アクティブファンドの月報(運用レポート)に記載されている個別銘柄を参考に、それを自前で買い付けた場合、売買タイミングは1ヶ月遅れかも知れないが、運用コストは売買手数料(ネット証券なら大体ゼロ)で済むので、割高な運用手数料を取られることなく、市場平均を超えるリターンが得られる可能性がある。これをコバンザメ投資という。

 運用のプロが、個人投資家には出来ない芸当の企業訪問や、代表へのインタビューをした上で、将来有望だと判断した銘柄を選定しているだけあって、大きくは外さない印象があり、下手なマネー雑誌に掲載される銘柄よりも、まともなチョイスだと思える程度に、私も大いに参考にしている。

 それなりの頻度で、自身の選定手法では辿り着かないような銘柄が掲載されていることもあり、なぜその銘柄が選定されているのかを含めて考察すると発見や学びがある。

 流行りのロボアドバイザーなども似たようなことが言えるが、それぞれのリスク許容度に応じて金融資産の割合を設定し、その黄金率となるように自動で買い付け、リバランスを行なっているのが実態である。

 それに対して運用手数料として1%程度取っているところが多いが、目論見書などを通じて、最適な資産比率が分かるようであれば、自分で買い集めた方が、運用コストが8割以上カットできることも珍しくなく、WealthNaviは黄金比を開示している点で良心的だと思う。

 投資の世界に限った話ではないが、要領の悪い人は独自色を出そうとして失敗する可能性が高い。コアとなる「型」がない状態で、あれこれ手を加えても、それは単なる「形なし」であって、「型破り」をしたいなら、まずは「型」を身に付けるのが定石だろう。

 だからこそ、上手くいっている人のノウハウを盗む。まずは騙されたと思いながら模倣に努め、型を身につけた段階で独自性を出せば、模倣から盗んだ状態となり、オリジナルよりも大きな成果が得られる可能性はそれなりにあると考える。

不遇なゼロイチ

 蒸気機関を発明したのはトーマス・ニューコメンで、改良したのがジェームズ・ワットと言うのはあまり知られていない。義務教育の社会科でも、あたかもジェームズ・ワットが発明したかのように教えられるが、彼はニューコメンの蒸気機関を改良したに過ぎない。

 しかし現実は、画期的な0→1の発明家よりも、それを改良して広く普及させた1→100の天才が持て囃されるのは、PCのGUIやマウスを開発したのはゼロックスだが、それに目をつけ、Macに実装する判断をしたのはジョブズと、歴史を振り返っても明らかだろう。

 つまり、往々にしてゼロイチは不遇で、まだ誰も真価に気付いていないイチを盗む天才の方が、イノベーションを起こすという、発明家には胸糞悪いエピソードである。

 それに、インデックスファンドにも欠点はある。構成銘柄が入れ替わる時、各ファンドが一斉に除外銘柄を売っては、新たな組入銘柄を一斉に買うため、取得価格がどうしても高くなりやすい。

 運良く公表前に新規組入銘柄を保有していた個人投資家であれば、高値で運用会社に売りつけて儲けることもできてしまう。そのコストは運用手数料として転嫁されている訳で、市場平均を模倣するのが必ずしも盤石とは言い難い。

[増補]巨人の肩の上に立つ

 為替相場で1ドル160円を超えた時、日本円は紙屑になるオジサンがネット上で大量に湧き出てきたが、最近になってあまり見かけなくなったのは記憶に新しい。きっとフルレバロングで追証やロスカットでも食らって淘汰されたのだろう。

 過ぎたことなので、後からなら何とでも言えるが、私は長期的には日本の国力が低下しているため、円安方向に動くと思いながらも、1年以内の短期では1ドル145円前後まで円高方向に振れる可能性が、それなりにあると踏んでいた。

 勘の良い読者なら既にお分かりだと思うが、上場企業各社の本決算の来期業績予想で、想定為替レートは概ね143〜145円で出揃っていた集合知を参考にしていた。

 私は今でこそ通信で大卒資格は取ったものの、社会に出た時は取るに足らない工業高卒で、経験職種も鉄道現業のみ。別に経済学部を出た訳でもなければ、職業柄、市場経済と深く関わるようなバックグラウンドも皆無で、為替に関しては所詮素人。

 一方で、就職人気ランキング上位に位置する、日本を代表する自動車メーカーや、5大総合商社など、超が付くほどの大企業の中でも、市況の分析に長けたエリート中のエリートが、様々な条件を加味した上で導き出したであろう想定為替レート。

 どちらの方が確度の高い推論となっているかなど、火を見るよりも明らかで、我々凡人よりも遥かに頭の良い方々が、1社だけならともかく、円安メリットの輸出企業から、円高メリットの企業まで、概ね143〜145円が妥当だと導き出した集合知を甘く見てはいけない。

 こうした巨人の肩の上に立つことで、新たな視点や発見に繋がり、そこで独自性を出すことで、初めて模倣する凡人から、盗む天才に変化するのかも知れない。


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