見出し画像

猛暑でも不要不急な外出を迫られる社会


経済的な余裕は、身を守るためにもなる

 今年の夏は昨年以上に連日の猛暑日を記録しており、熱中症警戒アラートたる不要不急の外出を避ける注意喚起が、毎日のように行われているが、日本社会は平常通り、社畜は茹だるような暑さの中、死んだ魚の目をしながら出勤している。

 私は関東平野のどこかで育ち、夏休みの帰省先が盆地だったことも相まって、暑さは嫌いだが、ヒートアイランド東京民よりも耐性があった。

 そのため、西の方角に移住しても、昨年までは冷房の出番はシーズンを通して、両手で数えられる程度で済んでいたが、今年は7月時点で既に寝苦しさを感じて、ほぼ毎日利用している。

 冷房を丸一日稼働させたとて、電気代など300円程度なもので、熱中症により、脳みそがゆで卵状態となるリスクや、高温多湿による不快さを天秤に掛けたら、しみったれた私でも躊躇せずボタンを押せるレベルで、今年の夏は暑い。そう言えばあの憎たらしい蚊も、7月が終わった段階で1〜2回程度しか刺されていない。

 最近は専ら、開館から閉館まで図書館に退避しているか、休館日なら初電から18きっぷでひたすら移動しているため、最も暑い日中は自宅の冷房を稼働させておらず、昨今のエネルギー価格の高騰を以てしても、天文学的な電気代が請求されることは恐らくない。

 そんな悠々自適な生活が営めているのは、紛れもなく金融資産の後ろ盾があることで、無理に就労する必要がないからに他ならない。

 鉄道員時代は、直射日光をお見舞いされる先頭車両の運転台に拘束され、窓を開けても入る風は、じめっと暖かい。客室と繋がっている、天井のダクトからのお零れと表現して差し支えない、気休めレベルの冷気と、扇風機を頼りに汗ばみながら運転していた頃に比べれば雲泥の差である。

 英語圏のF○ck You Moneyではないが、こんな猛暑で出勤や外回りを指示する方が狂っているのだから、気に食わないことがあればいつでもF○ck Youと言って辞められるくらいの、経済的な余裕は身を守るためにも欲しいものである。

緊急事態宣言で街中から人が消えたコロナ禍

 2020年のコロナ禍では、最初の緊急事態宣言が発令された際、東京都特別区でも街中から人が消え、薄給激務な鉄道員の心の拠り所であった、世の中に必要な仕事をして、社会を支えているアイデンティティが木っ端微塵に砕け散った瞬間だった。

 無論、連日の空気輸送に虚しさを感じたのは想像に難くないが、政府が必要な対策を講じ、強いメッセージを発すれば、あの時のように不要不急な外出を控えさせることが、ここぞと言う時に出来るはずである。

 ご存知の通り、コロナ禍の外出自粛を目的とする緊急事態宣言も、回数を重ねる毎に効果が薄れたとはいえ、企業側にもリモートを促進する同調圧力が生まれて、一定程度の社会的意義はあった筈だ。

 しかし、猛暑如きでは緊急事態宣言をするつもりがない政府の姿勢は、本気で国民(現役世代)を熱中症から守る気がないことの、裏返しのような気がしてならない。

 これは戦時中に掲げられた「一億玉砕」に、人命軽視だと反論した国民に対して、「軍は軍(国体)を守るのであって、国民を守るのではない」と言い返したとされる、お偉いさんの発想に実に似ている。

 この国の権力者は、往々にして権力や既得権益を守るために権力を行使することはあっても、国民を守るために権力を行使することはない。

 その証拠が、住民税非課税世帯へのバラマキ。事務負担の大きい定額減税。プライマリーバランスの健全化を掲げては、「モノは少なくカネは多く」のスタグフレーション路線を突き進み、実質賃金が2年以上下がり続ける体たらくではないだろうか。結局のところ、国民や暮らしを守る大義名分を利用する形で、国体を保持しているに過ぎない。

大抵の物事は不要不急、自分の身は自分で守る

 人生が死ぬまでの暇つぶしだとすれば、世の中の大抵の物事は不要不急だろう。フランス(パリ)で夏の同時期に、3〜4割が集中して3週間前後のバカンスを取っても社会が回るのは、一時的に供給が減る不便さを、社会全体で受容しているからだろう。

 日本社会なら、鶏が先か卵が先か論争に終始しそうな気もするが、みんな長期休暇を取りたいから、警察と軍人を除き、一斉に休む。そのため、チェーン店のスーパーマーケットを除き、多くの店が閉まる。公共施設は時短営業。交通機関も減便。

 労働力の供給が減ることで、不便にはなるが、そもそもバカンスで3〜4割が外に出ているため需要も減り、需給バランスは概ね均衡する。裏を返せば、バカンス中のパリは不便だからこそ、休める人は市外に出る。実によくできた仕組みで、大いに参考になると考えるが、いかがだろうか。

 煎じ詰めれば、人が生きていくのに必要な衣食住のうち、衣類をわざわざ猛暑の中、作ったり売ったりする必要はない。住宅もわざわざ猛暑の中、建てたり売ったりする必要もない。

 食品が手に入れられるスーパーマーケットが営業して、商品が十分に陳列されてさえいれば、それ以外の仕事は、別に今日やらなくても、人が生きていく上で大きな問題は生じない筈であり、私が世の中の大抵の物事は不要不急と考える所以でもある。

 ジョブズ氏の名言でもある「もし今日が最後の日だとしても、いまからやろうとしていたことをするだろうか?」で、YESと言い切れない仕事如きで、会社の言う通り働いて熱中症で倒れた結果、後遺症を患っても、責任を取ってくれるわけではないどころか、雇用契約を切られるのがオチだろう。

 だからこそ、自分の身体は自分で守らなければならない。これは、かつて会社の指示通りに仕事をした結果、20代の若さで内臓を悪くして、ドロップアウトした私からの警告でもある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?