平均について。
平均と比較しがちな日本人。
我々は日常生活で「平均」を目にする機会が多い。ニュース番組の日経平均株価をはじめとして、平均年収、平均貯蓄額、資格マニアや学生なら模試の平均点など、例を挙げればキリがない。
それら平均と心の中で目標値に置き換え、自分を比べた時の高低で一喜一憂しがちである。FPに家計相談をすれば、平均的な家計の支出額と見比べて、平均よりも高額な項目は見直して、低廉に抑えられている項目はキープするように勧められる。
しかしながら、果たして平均と比較すること自体にどれだけの意義があるのかを、そもそも論で考える人は少ない。
例えば、先ほどのFP相談に関して、平均的な家計だと映画は年に1回観るらしいが、映画なんて観ない人は観ないし、趣味が映画鑑賞の人は年1回で満たされるとは到底思えない。本当に毎年コンスタントに1回だけ映画を観る人を探し出す方が難しいのは感覚で理解できるだろう。
それこそ、優待名人の桐谷さんは株主優待で年間数十本の映画を仕方なしに観ているものの、全部優待で賄っていて身銭を切っていないため、家計簿的にはゼロとカウントするのが妥当だが、どう考えても実態と乖離しすぎている。
平均年収や平均貯蓄額然り、ごく一部の数値が大きい人が存在することで、その少数が平均値を大幅に押し上げる性質があることから、これらの平均は中央値よりも大きくなる傾向にある。
平均と標準は似て非なるもの。
年代別の平均年収や金融資産保有額と比較して、それよりも少ないとがっかりする人は多いが、半数以上の人がその平均に到達していないことを考えると、まだ中央値の方が実態を表していると感じてしまう。
日本人の平均年収はおよそ445万円と言われているが、半分以上の人はその水準に達していない。中央値はおよそ396万円と真ん中よりも49万円程度の開きがある。貯蓄額も同様で、20代単身者の平均は100万円を超えているが、中央値は10万円に満たない。
平均とは、母集団の合計を母集団の数で除して求めた数字であり、それ以外の意味はなく、その数字をもとに標準像を作ってしまうと、かえって苦しめられるばかりであるから、平均が上がっている=全体の総量が上がった程度の感覚でいる方が健全に数字と向き合えるだろう。
日経平均株価も同様で、日本経済を表すひとつの指標として、経済ニュースで用いられているが、日経5と揶揄されている、たった5つの銘柄が日経平均に3割もの影響を与えているのが現状で、日経平均が数十年振りの高値水準と報道されていた時も、ほんの数銘柄が好調だっただけであり、実態としては、機関投資家に見向きもされない中小型銘柄はボロボロであった。
平均的な人間なんて実在しない。
理想の女性像として彫刻されたノーマをご存知だろうか。これは著名な産婦人科医が、1.5万人の女性の身体を測定して割り出した平均を元にノーマが制作された。
理想の女性像を彫刻によって具現化した後、理想の女性像コンテストを開催し、3,864人の女性が応募してきたが、驚くことに9つの項目全てがノーマに近い女性は一人として存在しなかった。比較する項目を5つに妥協しても、その平均水準を満たす女性は全体の1%強の40人ほどであった。
このことから、全てにおいて平均的な人間が存在しないだけでなく、それなりに平均的な人間ですら、全体の1%程度しかいないのだから、平均を元に判断すると本質を見失うのは想像に難くない。
過去にその過ちを犯したのが、意外にも米軍である。彼らは戦闘機の操縦席を設計する際に、寸法を男性の平均で導いたのである。結果として、墜落事故が1日で17件も発生した日もあり、とてもパイロットの練度不足や操縦ミスでは説明がつかなかった。
そこで1926年に測定した平均値を現状の数値に更新すれば、問題が解決すると平均の求め直しを行ったが、その際にノーマ同様、全ての項目で平均的なパイロットは一人も居ないどころか、項目を3つに妥協しても3.5%のパイロットしか適合しなかった。
このことから、平均的な寸法を求めて操縦席を設計するよりも、個人が調整可能な操縦席を開発するべきと言う結論に辿り着き、その後はパイロットの成績が飛躍的に向上したとのこと。やはり平均を元に判断すると本質を見失うのである。
そもそも比較対象が、フェアでないかも。
統計全般に言えることだが、そもそも論で何を母集団とするかによって、その後に弾き出される数字も変わるし、比較する数字同士が、同じ母集団でフェアな比較対象なのか否かで判断を誤る可能性も大いにある。
養老孟司さんの「タバコを吸っている人は健康である」が典型で、喫煙者で健康被害が出た人は、治療によって禁煙を強制されるのだから喫煙者の母集団には入らない。
裏を返すと、健康被害の出ていない人が喫煙しているのだから、健康被害が出た人は、喫煙が原因なのか、生まれ持った性質なのかのグラデーションでしかなく、何%の確率で健康被害が出ると言うデータも、そもそも喫煙して健康被害が出ていない人のサンプルが母集団に入っていないのだから、どれほどの信憑性があるかは疑問である。
実際に、人類史上最長寿とされているフランス人女性のジャンヌ・カルマンさんは、20歳から117歳までの97年間タバコを吸っていたが、122歳まで生きている。仮に相続税逃れを目的に娘が成りすまして、すり替わった説が本当だとしても、94歳で禁煙して99歳まで生きたのだから、喫煙による健康被害のデータを疑問視するには十分だろう。
じゃあ何故、箱には国が定めたガイドラインの基準よりも大きい、派手な警告表示をしているのかと言うと、マーケティングの一環として心理学のカリギュラ効果を狙い購買欲を掻き立てるために、警告が一役買っているからである。つくづく世の中は上手くできていると感心させられる。
そんなこんなで嫌煙家ながらタバコ株を保有して、喫煙者を傍観するのも悪趣味だと分かってはいるが、それなりに楽しいのでやめられないのが人の性でもある。
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