投資格言は大損しない代わり、大勝ちもしない。
チューリッヒの公理は投資の本質を突いている。
マネーの公理という本をご存知だろうか。スイスの銀行家がお金儲けをするための暗黙の了解を名文化した内容となっているのだが、儲けることに特化し過ぎていることから、投資の教科書的な内容とかけ離れた、一風変わった独特な理念が記されている。
最近話題の全世界株式や米国株式の優良インデックスファンドへの投資手法は、「卵はひとつのカゴに盛るな」、「長期・分散・積立」といった内容を耳にタコが出来る程に聞き飽きていたり、インデックス投資に物足りなさを感じている方は、個別株などのアクティブ運用に手を出す前に、本書を一読すると発見があって面白いと思う。
卵はひとつのカゴに盛るな。
説明するまでもないかも知れないが卵がお金で、カゴが投資商品に見立てられている。
例えば、高配当株投資として日本たばこ産業(2914)に全資金を投入することで、日経平均の配当利回りよりも高い、6%前後の配当を受け取ることができるため、少ない元手で経済的な独立を達成することができることから、早期リタイアを目論む一部の個人投資家が実際に行なっている手法である。
タバコ産業は専売公社だから、競合他社にシェアを奪われる心配もなければ、ニコチンは依存度が高いことから、値上げしても消費者が離れづらく、上場してから増配続きで減配されたことなどない。実際にタバコの値段は40〜50年の間に5倍、配当も5倍になっている。
そうしてセオリーであれば、税引き前に3,000万円の資産を年利4%で運用して、月当たり10万円の配当所得を得るところを、日本たばこ産業(2914)の株式を7,800株保有することで、1株154円の配当によって月当たり10万円の配当所得が得られるのである。
2022年4月時点での株価を、キリよく2,200円としても1,716万円で実現可能と、実に1,284万円も元本が少なくて済む。1日でも早くリタイアしたい身からすれば、同じインカムを得るための元本が1,000万円単位で違ってくると、確かに魅力的であった。2020年までは。
2021年、日本たばこ産業(2914)は上場来初の減配を発表した。主な要因は疫病と思われるが、以前から配当性向がギリギリで、いつか利益が出せなくなって減配されると危惧されていたのが現実となってしまったのである。
株価はおよそ8%下落。得られるインカムも一瞬にして9%超の下落。7,800株保有して月に10万円の配当を受け取っていたのが、翌年は9.1万円になる計算である。卵(=お金)をひとつのカゴ(=JT)に盛るから、カゴが落ちた際に卵が割れてしまった。
だから分散投資が重要だと、「卵はひとつのカゴに盛るな」の格言が持てはやされているのである。
卵はひとつのカゴに入れろ。
しかし、マネーの公理では、以下のように記されている。
先ほどの例の場合、日本たばこ産業(2914)の動向を注視して、連続増配が止まる発表があった2019年の段階で、不穏な空気を察して他の銘柄に移すことがカゴを見守れに繋がるのだろう。
当時のチャートを見ると、やはり不穏な空気を察して投げ売りされている感が強く、株価は緩やかに下落していた。仮に1株3,000円から2,200円の段階で7,800株を損切りすると、実に624万円の損失が出ることになる。
しかし、現実逃避をして長期で持ち続けると、時に悲惨な結末を迎えることとなるが、その具体例は本書の最後に記される副公理16のフォード株に投資したポウラさんの話に譲ることとする。
未来は誰にも分からないから、決して日本たばこ産業(2914)に集中投資した方が、悲惨な結末を迎えると主張したい訳ではないことを、この場を借りて弁明させて頂く。現に私も保有している銘柄のひとつである。
「卵はひとつのカゴに入れろ」の本質は、多くの銘柄に分散投資していると、各社の動向を事細かに把握するのは困難であり、重要な投資判断が遅れるリスクを指摘している。この状態を本書ではジャグリングと表現している。
それに、銘柄を幅広く分散していると、利益が出る銘柄と、損失が出る銘柄が発生した結果、理屈上の損益はプラスマイナスゼロになってしまう。それでは大きく負けることはないが、大きく勝つこともない。
投資の神様ウォーレン・バフフェットさんも、「分散投資は無知を保護する手段だ。投資を理解している人にとって、分散投資は理にかなっていない。」と、同じニュアンスの名言を残している。
利益を得ることが投資の目的なのだから、目的を最大化するのなら、集中投資が理にかなっていると言った具合で本書には、「長期投資を避けよ」など、一般的なセオリーとは異なる理論が載っており、クリティカルシンキングを鍛える感覚で読むことができる。
ロングセラー本のため、図書館に所蔵されていることもあるから、気になった方は是非、手に取ってみてはいかがだろうか。