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もうコストじゃない!?ヒトを投資対象とする人的資本の考え方知っておくべきこと 3選

「人的資本って何?」
「人的資本を開示することには意味がある?」

人的資本という言葉、聞き慣れませんよね。
人的資本の情報開示が義務化されていると言われても、すんなりその重要性を理解することはできません。

実は、人的資本とは、企業が成長をする上で、従業員が重要で不可欠な要素として捉える考え方です。
なぜなら、人的資本に適切な投資と取り組みを進めている企業は、財務指標も良好で、企業価値向上にも貢献していることが確認されているからです。

そこで、ここでは、人的資本のあらましとともに、人的資本の情報開示の内容や人的資本の注目ポイントを順序立ててお伝えします。
そして、この記事を読み終わる頃には、今後の企業の見方や選び方の視野が広がります。

1.人的資本のあらまし

人的資本は、企業が維持・成長をするために社員への投資が重要な要素であるとする考え方です。
実際、企業の市場価値に対して人や知財等が最大で90%程度を構成しており、過去よりも人的資産の重要性が高まっています。
参考:Intangible Asset Market Value Study - Ocean Tomo

そこで、ここでは、人的資本の概要として、考え方、取り巻く動向や、関連情報の義務化の3点をお伝えします。
人的資本のあらましの理解を通じて、人的資本の注目度が高まっている理由や情勢を把握しましょう。

1.1 人的資本の考え方

人材は、教育や研修、日々の業務等を通じて自己の能力や経験、意欲を向上・蓄積することで付加価値創造に資する存在であり、事業環境の変化、経営戦略の転換にともない内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である

引用:内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」を一部改変

人的資本は、企業における社員の能力やスキルが高まれば、製品やサービスの価値も高まり、企業成長に繋がるという考え方です。

これまでの一般的な企業における人材は、「人的資源」と表現され、消費される資源の1つと捉えられていました。
そのため、ヒトは効率よく利用すべき対象であり、企業の利益を圧迫するコストと考えられていました。
しかし、近年、ビジネスを営む元手として、ヒトの重要性が再認識され、ヒトの成長が企業成長になるという考えが広がっています。

企業が世に出す製品・サービスは、いずれもヒトが考え・創り・提供するため、付加価値を加えたり差別化を図ったりする源はヒトです。
いま、企業が成長を継続し続けるために、ヒトの捉え方を大きく変えようとしています。

1.2 人的資本を取り巻く動き

人的資本は、企業成長に寄与する要因であり、企業の価値創造の源泉であることから、関連する情報の開示要求が強まっています。

情報開示が求められる背景には、政治・経済・社会・技術領域の4つの外部動向が強く作用しており、日本でもここ数年で急激に人的資本の重要性が高まっています。

今まで、社員=費用と見られ、正社員から派遣社員への切り替えや、派遣社員の人減らしと言った、費用削減のネタにされるケースが大変でした。
しかし、今や働き手は減少し、人材の流動性も高まっており、企業が社員への取り組みを真剣に進めなければ、事業の継続すらおぼつかなくなります。

日本企業が成長することは元より、ビジネス継続をしていくためにも、社員を人的資本として捉えて、活動しなければならない時代に差し掛かっています。

1.3 人的資本情報開示の義務化

日本では、2023年度以降、上場企業は有価証券報告書にて、人的資本に関する情報を開示することが義務化されました。
国は、企業が人的資本に投資を行い、社会問題の解決を実現するイノベーションを創出できる環境の整備を推進しているためです。

そこで国は、2023年1月末日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正しました。
これにより、約4,000の上場企業は、2023年3月末以降に決算期を迎えた場合、人的資本を含む非財務情報の開示が義務化されました。
日本の多くの企業が3月末に決算期を迎えているものの準備不足もあり、実際に開示にできた企業は全体の半分程度の模様です。
参考:日本経済新聞「人的資本の開示義務化、企業の取り組みは?」

人的資本に関する情報開示の義務化が世界的潮流であるため、市場価値の低下を防ぐためにも、日本企業は情報開示が不可欠です。

2.人的資本で開示される内容

人的資本の情報開示では、様々な利害関係者に対して、将来の成長を実現するために必要な人材の育成・確保方針や状況の明示が求められます。
国も投資家も、人的資本への戦略的投資が 企業の収益性に加え、社会のサステナビリティの確保にも重要な要素と捉えているためです。

それゆえ、国は海外で広まっている人的資本に関する開示情報を元に、国内企業として開示すべき情報の指針を整理しています。

今後開示される人的資本の情報は、財務情報では見えない企業の中長期的な競争力強化や企業戦略の実現可能性を見極めるための重要な情報になります。

2.1 開示対象の7分野19項目

有価証券報告書を通じて、情報開示の推奨対象とされている情報は全部で7分野・19項目です。
この項目は、内閣官房が提示している「人的資本可視化指針」で開示が推奨されている項目です。

参照:内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」

例えば、育成分野では以下のような情報の開示が対象になっています。

  • 研修時間・研修費用・研修参加率

  • 研修と人材開発の効果

  • 人材確保・定着の取組についての説明(育成関連事項含む)

ただし、有価証券報告書では、7分野19項目に関して全てを開示する必要はありません。
必須記載事項は人材育成方針と社内環境整備方針であり、それ以外は、自社の経営戦略との関係性を考慮した内容の積極的な開示が求められています。

2.2 求められる開示内容

人的資本の情報開示で重要なのは、自社の経営戦略と人的資本への取り組みに対する結びつきを示すストーリー性です。
開示された情報を見るステークホルダーの見るポイントは、人的資本への取り組みで当該企業の維持や成長するか否かに尽きるためです。

そこで、企業が情報を開示する上で抑えておくべきポイントは4点に整理されます。

  1. 自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性

  2. 目指すべき姿(=目標)と整合性の取れた測定可能な指標やその進捗状況

  3. 自社の独自性があり、かつ、企業間で比較可能な情報

  4. 開示内容が価値向上、または、リスクマネジメントとの関連性の明確化

人的資本に関する情報開示の目的は、自社の人的資本への投資や人材戦略の状況を、投資家や資本市場へ明確に伝えることです。
そのため、単に情報を開示するのではなく、企業の中長期的な成長を下支える取り組みであることを論理的かつ具体的に示すことが必要です。

3.人的資本の情報開示で注目すべきポイント

人的資本の情報開示義務化は、企業においては成長戦略の見直し、利害関係者にとっては企業成長の多角的分析が可能になる転機です。
その理由は、人的資本の充実が企業成長には不可欠だからです。

ゆえに、人的資本への取り組みは表面的な内容ではなく、適切、かつ、効果的な内容が求められます。
そこで、ここからは、企業の観点と投資家の観点から、人的資本にまつわる注目ポイントを3点紹介します。

3.1 企業は従業員のエンゲージメントを無視できない

人的資本への取り組みの中で、日本企業が無視できないのは、社員のエンゲージメント、社員の組織に対する熱意や心理状況です。
なぜなら、世界を対象とする社員エンゲージメントの調査で日本は世界最低水準が続いているからです。

引用:日本経済新聞「日本の「熱意ある社員」5% 世界は最高、広がる差」

前述の調査では、過去10年間で社員エンゲージメントの世界平均は上昇が継続しています
しかし、日本は過去10年間低迷しており、直近調査では調査対象145カ国の中で最下位の5%です。
つまり、日本は全世界の中で熱意を持って会社の仕事に取り組んでいる人が最も少ない国なのです。

人的資本を成長エンジンにするためには、そのエンジンである社員のエンゲージメントを高めなければなりません。
エンゲージメント向上には、開示項目の他分野・項目が作用することは間違いなく、企業は網羅的に人的資本への働きかけが不可欠です。

3.2 人的資本への取り組みと財務指標との関係性

人的資本が充実すると、財務指標にプラス効果が生じることが学術的に示されています。
参照:Academy of Management Journal「How Does Human Resource Management Influence Organizational Outcomes? A Meta-Analytic Investigation of Mediating Mechanisms」

例えば、事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標(投下資本利益率:ROIC)で見てみましょう。
ROICの元になる個別指標を改善・成長させるための戦略や施策には、人的資本に関連する取り組みが考えられます。
人的資本に関する取り組みを具体化すると、人的資本への取り組みのKPI(重要業績評価指標)が明確になります。
このKPIこそ、情報開示の対象とすべき人的資本への取り組みにおける指標です。


参照:内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」

企業がヒトを経営戦略を推進するための資本として捉え、投資を適切に行えば、企業の持続的な成長の実現性を高められます。

3.3 人的資本への取り組みと企業価値の関係性

人的資本への適切な投資は、株式市場からも評価され、企業価値の向上に効果的です。
人的資本と企業価値を示す指標との関係性に関する研究で、人的資本への投資がなされて強固だと、企業価値も高まると結論付けられているからです。

例えば、実際の企業情報に基づいた研究により、人的資本への投資と企業価値を示すPBRには正の相関関係があることが示されています。
また、人的資本の指標の1つである、管理者の能力が高い企業の株式利回りは、TOPIX平均よりも2.5%高いことが報告されています。
参照:柳 良平「人的資本・知的資本と企業価値(PBR)の関係性の考察」
参照:人的資本理論の実証化研究会 2022年度研究成果

つまり、市場は人的資本への取り組みが進んでいる企業ならば、中長期的な成長が見込めると考え、高い評価をつけていると判断してもおかしくありません。

2024年から個人が更に投資しやすくなる制度(新NISA)が始まり、個人による株式投資が活性化することも十分に考えられます。
もし、あなたが企業の株式投資を検討しているならば、財務情報や中期計画だけでなく、人的資本に関する情報も確認しましょう。

まとめ:人的資本の情報開示は企業に成長を促すターニングポイントに

この記事では、人的資本の概要とともに、開示対象の情報、情報開示に関連する注目ポイントを紹介しました。

  • 人的資本は、企業成長に社員への投資の重要性を示す考え方であり、2023年3月末から関連情報の開示が義務化

  • 人的資本の情報開示をする上で、企業戦略に基づいた社員への取り組みについて具体的かつ定量的な情報が必要

  • 人的資本の情報開示で、人的資本が担う企業価値や成長における役割見直しの転機に

人的資本の考え方の広がりは、企業における社員への取り組みを改める絶好のチャンスです。

人的資本が開示されるようになれば、社員への取り組みが可視化されるため、労働者は自分に合った企業選びがしやすくなります。
企業からすると、働き手不足の中でも魅力的な人材を引き寄せるための情報としても活用できます。
そのため、人的資本への適切な取り組みと開示が、今まで以上に将来のビジネスに影響する要素だと、企業は理解しなくてはなりません。

人的資本に適切な投資が実行されれば、企業は成長し、財務指標が良くなり、企業価値が高まります。
今後、企業選びや分析をする際には、人的資本に関する情報も欠かさずチェックしましょう。

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本記事にて、皆様の理解、そして行動のお役に立てていました幸いです。

以上、Shuntaroでした!

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