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panda_72:焚き火

 焚き火の効用に関連して、少々長いですが、引用して紹介します。

 中学生から高校生までの無人島キャンプでは、それまで互いに馴染まなかった子どもたちが、焚き火を囲むと一気に和み、中には焚き火の周りで寝袋に入って寝る者も出て来ます。
(中略)
 二百万年前から火を使ってきた人類は、火を囲むとフレンドリーになり、やがてフュージョン(融合)します。進化心理学的には、遺伝子的に方向づけられています。火を囲むとフュージョンする者たちだけが生き残れたということです。だから「焚き火は一番強力」なのですね。
 今は焚き火をすれば通報されます。
(中略)
 生活において火を見る機会はなくなりました。
(中略)
 火事がなくなるのが良いことなのは「見えやすい」。でも、火がなくなることで失われるものは「見えにくい」。つまり、安全・便利・快適は分かりやすいが、孤独になることは分かりにくい。でも、安全・便利・快適を志向することも、孤独で尊厳を失ったり免疫力を失ったりすることも、ゲノムに基づきます。なのに、安全・便利・快適しか目に入らないのです。
 だから、安全・便利・快適になる一方で、どんどん孤独になるのです。
(中略)
 キャンプファイヤーをやったことのある人はわかるけど、大切なのは歌や踊りじゃない。火を囲んで座っているだけで、いつもなら話さないことを友人どころか知らない人にまで話してしまうマジックです。パチパチという木の爆ぜる音を一緒に聞いているだけでも「同じ世界」で「一つになる」。
(中略)
 火は「同じ世界」で「一つになる」貴重な共通体験を与えます。共通前提がないと本音で話せない日本人にとって、火の共通体験は強力なアイスブレイキング機能(初対面の緊張をほぐす機能)を果たします

宮台真司、藤井聡『神なき時代の日本蘇生プラン 「クズになってしまわない」ための処方箋』より

 宮台先生の言うように、社会はどんどん安全・便利・快適になって、一見住みよくなっているはずなのに、どうしてこうも孤独が蔓延するのだろうか。私たちの生活において、「見えにくいけど、大切な何か」を欠いてきたことに思いを馳せる必要があるようだ。

 残念ながら実現していないが、私もずっと「焚き火をしたい」「火を囲みたい」という欲求がある。きっとそれも、誰かと火を囲んで、融合して、一緒になることを遺伝子レベルで欲しているんだと思う。

 焚き火くらい思い立ったらすぐに出来そうなのに、やる場所もなければ、やる道具もない。気軽に「今から焚き火しよう」と誘える人たちを見つけるのも難しい。ここ数十年で私たちが失ったものはあまりにも大きいのかもしれない。

 さて、寒い冬は苦手なのだが、冬は職場に石油ストーブが登場するから好きだ。焚き火とまではいかないが、火を囲む機会ができるのでその点はとても良い。ストーブを囲んでいると、自然に会話が始まる。火の力はすごいなといつも思いながら過ごしている。

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