日本の国の借金1000兆円は少な過ぎる!~日本の経済学者は他国の債務残高を知らない~
私は新経世済民新聞チャンネル上で「打倒!緊縮財政」というコーナーを担当しており、毎週木曜日夜8時より、動画を公開している。さすがに、1年4ヶ月もやっていると、緊縮財政派の「手口」も良く分かって来ており、だいたいいくつかのパターンに分類されるものだ。
今週取り上げた、小林慶一郎氏は、現在新型コロナウイルスの分科会のメンバーも務めており、政府の経済財政政策への影響力も大きい人物とも言える。こうした政府の有識者である人物が、「日本の国の借金は多過ぎる」「このまま増え続けると円の信認が失われ、日本もワイマール憲法下のドイツみたいにハイパーインフレになる!」と対談で述べている。
こうして、円の信認が失われることを過剰に恐れる余りに、日本国政府はコロナ対策にも、昨今のエネルギー価格上昇対策にも、大したお金を出さないのである。まさしく、「ドケチ国家No.1」である。日本は、かつては「ドケン国家」と言われていたが、今や「ドケチ国家」となってしまった。
さて、今回の記事では、この小林慶一郎氏の「日本の国の借金は多過ぎる!」発言について検証してみたいと思う。先に結論から言うと、日本の国の借金は大して多くない。そして、恐らく小林慶一郎氏は他国の債務金額やその増加率に関しては全く知らないであろうと推察する。もっと言うと、他国の国の借金も増え続けていることすら知らないのかもしれない。日本一国だけが増え続けているイメージだ。つまりは、彼はあくまでも自分の「主観」だけで持って、日本の国の借金1000兆円は多過ぎると言っていると予測する。この辺りは以前、文藝春秋で彼と対談のしたことのある中野剛志氏に、再びの対談の機会の際に、ツッコんで欲しいところではある。
しかし、この金額が多いか少ないかは、他国と比較してみないと分からないのではないだろうか。例えば、私は身長が160cmに満たず、背が小さい人間ではあるが、これは日本の中の成人男性の平均身長と比較するから小さいと言えるのである。誰とも比較せずには、私の背が小さいとは言い切れないはずだ。ちなみに、私の身長は日本の成人「女性」の平均身長と、ほぼ同じである。
このように、経済や財政の指標も他国と比較して初めて、日本の国の借金が多過ぎるのか少な過ぎるのかが分かると言えるだろう。
それでは、実際に日本の国の借金について、他国と比較して行こう。
これは、世界一の経済大国であるアメリカと国の借金額を比較したグラフだ。アメリカは世界一の経済大国なのだから、比較対象にはならないだろうという声もあるかもしれない。しかし、21世紀がスタートした2001年には、その世界一の経済大国であるアメリカよりも、日本の方が国の借金は多かったのである。2001年当初はアメリカが5.6兆ドルに対して、日本は6.3兆ドルと、国の借金ではアメリカをも上回っていた、文字通り日本は「世界一の借金大国」であったのだ(厳密に言えば政府の負債額が世界一)。この20年前の印象で、そのまま今日においても、日本は世界一の借金大国と言い続けているのではないだろうか。
しかし、そうしたフレーズは2005年にアメリカに奪われ、日米の政府負債総額はこの時に逆転したのである。だから、2005年当時に「日本は世界一の借金国家から転落!」と大手マスコミ、新聞社は大々的に報じるべきであった。
その後は日本よりもアメリカの方が国の借金額は増え続けて、更に日本は2013年からのアベノミクスによる円安政策も手伝って、ドル建てでの国の借金額は一時期減少し、2019年では12兆ドル程度となっている。18年間のスパンで見ると、6.3兆ドルから12兆ドルだから、2倍にもなっていない。
対するアメリカは日本を抜いて、世界一の借金大国になってからも、借金大国らしく増加の一途を辿り、2019年時には23兆ドルとなっている。2001年時の5.6兆ドルと比較すると約4倍にも増え、今の日本円に換算すると、3000兆円に迫る金額となっている。だから、日本のマスコミは「日本の国の借金1000兆円!対するアメリカの国の借金は3000兆円!」と報じるべきなのである。国の借金1000兆円とだけ聞くと「そんなにあるのか!」と思った読者も、こう並列して聞けば「アメリカに比べて少なっ!」と思うはずである。
それは、私だけを見ては小さいかは分からない(見ている人自身との比較になるだろう)が、私の横にボブ・サップ氏でも連れて来たら、一目で「池戸万作、小さっ!」と気付くようなものである(まあ、いくらなんでもボブ・サップ氏はデカすぎるだろうというツッコミはさておき)。
いずれにせよ、世界一の借金大国はアメリカであり、日本は17年前に既に国の借金世界一からは陥落していたのである。
さらに言うと、小林慶一郎氏は「このまま国の借金が増え続けると円の信認が失われてハイパーインフレになる」と言うが、そのセリフはアメリカにこそ吐くべきセリフなのである。アメリカの方が増加率も多いのだから、それこそドルの信認が失われてハイパーインフレになってしまう。だが、小林慶一郎氏はこうした反論に対しては、アメリカは基軸通貨国であるから大丈夫とか、かこつけた理屈で返すであろう。
というか、元々のセリフの理屈だと、国の借金が増え続けている国は、世界中どこの国でも通貨の信認が失われてハイパーインフレになる危険性があると言えてしまう。もはや日本に限定せず、「世界中の国々で国の借金が増え続けたら、世界中でハイパーインフレが起きる!」と言うべきであろう。何故、この理屈で日本一国だけがハイパーインフレになるのか、全く分からない。
そうなると、恐らく「いや、国の借金の総額ではなく、債務対GDP比率が世界最悪なのだ!」と反論して来るであろうが、それは前回の論稿で、既に論破済みである。分母の名目GDPがこの25年間全く増えないから、債務対GDP比率が世界最悪なだけである。名目GDPを増やせば改善する話だ。
最後にもう1ヶ国、中国の政府総負債額も示しておこうと思う。
中国の国の借金は、2001年当初は3280億ドルと日本の1/20程度の金額しかなかったが、この18年間で約25倍にも増加して、2019年には8.1兆ドルと、12兆ドルの日本の2/3程度の金額まで増えた。恐らく、こうした中国の政府債務残高の総額を知っている経済学者は、中国経済論が専門の経済学者を除いては、全く知られていないのではないだろうか。当然、小林慶一郎氏も知らないであろう。こんなに猛スピードで増え続けている中国に対してこそ、「このままでは人民元の信認が失われてハイパーインフレになる!中国経済大崩壊!」とでも、日本の経済学者は言って欲しいものである。そうすれば、中国経済崩壊を望む人達に対して著書も売れて一石二鳥だ。
しかし、恐らく彼らは「中国は高度経済成長を遂げたから、国の借金が増えても問題ない!」と言うであろう。だが、これは因果関係が逆で、中国は国の借金を増やした、すなわち政府支出の金額を莫大に増やし続けたから、高度経済成長を成し遂げたのである。もし、中国の国の借金の増加率が日本と同じ18年間で2倍程度であったならば、21世紀に入ってからの中国の目覚ましい経済発展は有り得なかったと断言する。その辺りに関しては、また日を改めて述べるとしよう。
いずれにせよ、中国の国の借金は猛スピードで増え続けており、今や毎年1兆ドルのペースで増え続けている。対する日本は毎年3000億ドルのペースなので、1年間に7000億ドルずつ国の借金額レースで差を詰められている。2019年の地点で4兆ドル差なので、このままだと2025年には中国にも国の借金額で抜かれることになる。
かつては栄光の「国の借金、世界一」だった日本も今や落日となり、いよいよ「日本の国の借金額、世界第3位に転落!」となる日まで、刻々とカウントダウンが進んでいる。日本の国の借金額が世界3位に転落した暁には、今度こそ日本の大手マスコミ、新聞社は「日本3位転落」と大々的に報じて欲しいものである。
こうして、国の借金が少な過ぎて大して増えもしない日本は、ハイパーインフレとは真逆の25年間にも及ぶデフレ(低インフレ)、「ハイパーデフレ」になった国として、人類史に刻まれるであろう。
なお本日の論稿も参考文献として、下記の書籍をご紹介しておく。興味があれば、ご購入頂くか、図書館などにリクエストして頂ければ幸いである。
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