未来を構想するためのデザインリサーチ。ソニーグループ クリエイティブセンターの視点【#ResearchConf 2023 レポート】
RESEARCH Conferenceは、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。
2023年のテーマは「SPREAD」です。リサーチの領域を広げる、取り組みを周囲に広げる、実践者同士のつながりを広げる…そういった意味を込めています。小さく始めたリサーチを、私たちはどのように広げていけるのでしょうか?
日本を代表する企業の一つであるソニーグループ株式会社(以下、ソニーグループ)から、クリエイティブセンターの取り組みについて、『未来を構想するためのデザインリサーチ』と題し、前川徹郎さん、大野茂幹さん、尾崎史享さんよりお話しいただきました。
■登壇者
ソニーグループのデザインの歩み
冒頭、前川さんから、現在のソニーグループの事業領域、クリエイティブセンターの設立経緯が説明されました。
ソニーはゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス、イメージング&センシング・ソリューション、金融などの事業を展開しています。
2021年に「ソニー株式会社」※の商号を「ソニーグループ株式会社」に変更し、グループ本社機能に特化した会社となっています。
前川さんら3名が所属するクリエイティブセンターは、そのソニーグループ株式会社にあり、グループ全体のデザイン領域を担っています。
そんなクリエイティブセンターですが、設立は1961年に遡ります。ソニー元会長 兼 CEOの大賀典雄氏がデザイン室を設立、初代室長となりました。
以降、デザイン室はクリエイティブセンターと名称変更し、ウォークマン®やVAIOなど、時代の流行を作ってきた様々なソニー製品のデザインを手掛けてきました。
※「ソニー株式会社」の商号はエンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)事業を担う会社へ継承されています。
これらのラインナップを見ると、クリエイティブセンターの業務は前川さんも言うように、エレクトロニクス領域のデザインが中心でした。
しかし前述したように、ソニーグループでは今やハードウェア・エレクトロニクス領域のみならず、エンタテイメントや金融など、ソフトウェア・サービスを含めた幅広い領域に事業を展開しています。このような実態に合わせ、クリエイティブセンターが対象とするデザインも、エンドユーザー向けアプリやインターフェースをはじめ、ソニービルのリニューアル、あるいはモビリティの新規開発など、これまでとは全く違う新しい領域へその幅を広げていると言います。
ユニークな事例としては、環境に配慮した紙素材の開発があります。環境負荷を抑え、あらゆるパッケージに最適化できる素材として、クリエイティブセンターのデザイナーが開発に関わったそうです。クリエイティブセンターの領域の広さが伺えます。
広がるデザイン領域、未来から逆算したリサーチで今の課題を見つめる
広がり続けるデザイン領域でのクリエーションのために、クリエイティブセンターではどのようなリサーチを行っているのでしょうか。大野さんが解説しました。
クリエイティブセンターでは、プロジェクトを6つのプロセスに分けています。
プロジェクトは、様々なものがありますが、目的別に大きく3つの種類わけることができ、プロジェクトにあったリサーチが、各ステップで実施されています。
それを示したのが次のスライドです。
コロナ禍前は、世界の様々な地域でフィールドリサーチを行い、トレンドの発掘やデザインのためのリサーチを実施していました。本講演のテーマである「未来を構想するためのデザインリサーチ」は、この中のルーチンワークのデザインリサーチを目的とし、ある一つのプロジェクトとして生まれました。それがSci-Fiプロトタイピングという手法を用いた、2050年の未来を予想する「ONE DAY, 2050」です。
Sci-Fiプロトタイピングでは、SFの世界のナラティブを用い、そこから逆算して今何をすべきかを検討します。未来が予測不可能であり、不確実性は高まっていると言われる昨今ですが、SF作家の大胆な想像力と現実の課題を接続することで解決の糸口を探ります。
本プロジェクトを通じて、4つの短編小説と4つのデザインプロトタイプが生まれました。
詳細についてはこちらをご参照ください。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/design/oneday2050/
マクロデザインリサーチで未来のトレンドを先取りする
クリエイティブセンターではもうひとつ、マクロトレンドを捉えるプロジェクトを実施していました。それが「DESIGN VISION」です。
「DESIGN VISION」はマクロトレンドをリサーチし、社内にそのレポートを公開するプロジェクトです。そのプロセスは以下のステップに分けられます。
直近で実施した「DESIGN VISION」で特筆すべきは、フィールドリサーチです。現実の都市だけではなく、なんとメタバースもフィールドに追加されたとのこと。
コロナ前の2019年は世界18都市を回ったそうですが、コロナ禍で海外のフィールドに出られないなか、Sci-Fiプロトタイピングなど従来とは異なるアプローチを加えて未来予測にチャレンジしたと、尾崎さんは話します。
様々なリサーチを経て制作されたのが、こちらの未来年表です。
「DESIGN VISION」のレポートや年表は ソニーグループ全社で、様々な場面で活用されていると言います。
先行事例提案のベースになったり、各展示会のテーマ設定の参考になったりなど、クリエイティブセンターから生み出される様々な成果に貢献しているとのこと。
モバイルモーションキャプチャー「mocopi」も、販売に結実した成果の一つです。トレンドレポートのCMFフレームワークをもとに、デザインされました。
▼「DESIGN VISION」について
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/design/stories/designvision2021/
人間の生活の視点でデザインを考える
発表を終え、参加者からの質問への回答で、二つのプロジェクトを通してナラティブの作り方を学んだと大野さんは話します。
「デザイナーは箇条書きで利点や弱点、問題点を書き出しがちです。しかし本当に重要なのは人間と人間の関わりの中でどういった感情が生まれるのか、幸せとは何かということを考えることです。そこに重点を置くのがナラティブを使う意味だと思います」(大野さん)
また、尾崎さんは「DESIGN VISION」のレポートについて「よくレポートのトレンドは当たっているのかと聞かれることがありますが、未来を当てるのが目的ではなく、未来を思索し、その未来を実現するためにデザインで何を作ればよいかを検討するためのもの」だと付け加えました。
「リサーチをした結果、直接何かの結果を生み出すということも重要ですが、プロセスを踏むこと自体も大事だと考えています。リサーチを進める中でデザイナー自身の経験が拡大され、そこから新しいものが創出されると思って取り組んでいます」(尾崎さん)
リサーチの時間軸を未来に広げたソニーグループ株式会社クリエイティブセンターの発表でした。今後もクリエイティブセンターの生み出すデザインに注目です。
▼さらに詳しくはこちらから
クリエイティブセンターについて | Sony Design(ソニーデザイン)
本セッションはアーカイブ動画と資料を公開しております。
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■RESEARCH Conference Pop-up in KYOTO
2023/06/30(金) 19:00 〜 21:00 京都会場・オンライン同時開催
オンラインでの参加はまだお申込み受け付けております。ぜひご参加お待ちしております!
[編集]若旅 多喜恵[文章]北川 真央 [写真] リサーチカンファレンススタッフ
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