副業人材で広めるUXリサーチ【RESEARCH Conference 2023 合同イベントレポート】
2023年5月27日、デザインリサーチやUXリサーチをテーマとした日本発のカンファレンス「RESEARCH Conference 2023」が開催されました。
第2回目の開催である今回のテーマは「SPREAD 広げる」。リサーチの領域を広げる、取り組みを周囲に広げる、実践者同士のつながりを広げるなど、リサーチを組織内に広めるためにどうすればいいのか、さまざまな視点から知の共有が行われました。
リサーチを文化として組織内に広めるうえで、副業やフリーランスの人材を受け入れるという手段もあるはずです。しかしエンジニアやプロダクトマネージャーの副業は一般的になっていきた一方で、リサーチャーとしての副業の始め方や、副業人材に何を依頼すべきかという情報は、まだ十分には普及していません。
6月7日に行われた、RESEARCH Conference 2023のアフターイベントである「RESEARCH Conference 2023 合同イベント〜副業人材で広めるUXリサーチ〜」では、どうやって副業としてリサーチャーを始めるべきか、そして受け入れ側の企業はどういったことを意識するべきなのかが、双方の視点で語られました。
本記事では、その模様をお届けいたします。
副業では自分の「強み」を示すべき
副業としてリサーチャーを行っていくためには、どういったことを心がければいいのでしょうか?今回のイベントでは、受け入れ側とリサーチャー側の両方の視点から、さまざまな意見が出てきました。
まず前提として、「リサーチャーのニーズの高まりは年々増えている」と語ってくださったのが、スマートバンクの瀧本はろかさん。そのうえで、採用側の立場から、「強みを示すこと」の大切さを指摘しました。その人にどういう強みがあるかがわかれば、会社のバリューやミッションとのつながりもわかりやすくなりますし、結果的にキャリアにもいい影響が与えられるようになるからです。
実際に、副業としてリサーチャーを始め、現在は株式会社groovesでUXデザイナー・リサーチャーとして活躍している濱谷曉太さんも、自分の得意なことと不得意なことを明確に伝えることが、仕事を得るうえでは重要だったと振り返ります。
「よく転職サイトとかに出ている、『UXデザイン募集』みたいなものは、 上流からUIの部分までできる人みたいなところが条件なので、大体ハマらなかったんです。なので、最初から『私はUIは作りません』と宣言していました」と濱谷さんは当時を振り返ります。
もともとPM(プロジェクトマネージャー)やディレクターとして活躍されていた濱谷さんは、はじめからUIデザインはできないことを明言し、それが上流部分を担当してほしいgroovesの方針とうまくマッチし、「ぜひ来てほしい」という流れになったとのこと。このことからも、無理をして副業を始めるのではなく、自分のできること、できないことを明確にすることが、副業を成功させるうえでは大切だといえそうです。
濱谷さんはTwitterで、趣味と仕事の両方の話をする実名アカウントを持っています。そこから、濱谷さんに興味を持たれた方が「どんな人だろう?」となったときに閲覧できたり、こちらからコンタクトを取れたりする状態にしているそうです。また、以前にポッドキャストで喋った内容を共有することで、「こういう人なのだ」と伝えやすくなっているとも語ります。
単にぐいぐいと絡むだけでなく、SNSなどのメディアを通して自分の実績や考え方、大切にしていることを共有することで、「自分は何ができるのか」「自分の強みはどこにあるのか」を深く伝えられるといいます。
勇気を出してコミュニティにジョインしてみる
ここで興味深かったのが、副業リサーチャーとして働くきっかけとして、読書会やコミュニティの役割が挙げられていたことです。
今回のRESEARCH Conferenceのようなイベント運営のように、1つの大きな目的に向かって、自分の役割を理解しながら協業していく経験を一緒にすることで、その人の強みや人柄が見えてくるのではと瀧本さんはいいます。
「ポートフォリオだけにとどまらない、その方の良さを感じられるチャンスに多く出逢えるのが、勉強会とかイベント運営だなと。そこで積極的に自分からギブしていくことが大切になる」と瀧本さんが語ります。
デザインやリサーチ関係のコミュニティに関わっていくことも、副業としてリサーチャーを始めるきっかけになるそうです。モデレーターを務めた草野孔希さんは、「まず働いてみてから正社員で雇うか決める」のもう1つ前のステップとして、「コミュニティで何かしらのアウトプットをしてみる」があるのではないかとし、そういう場所に機会が転がっているのでないかと語りました。
コミュニティの良さは、普通の転職市場やマッチングサービスではコミュニケーションコストが高すぎてできないことも、気軽にできることです。たとえばコミュニティ内の活動のなかで、「自分はあまり得意ではないな」ということがあったら、得意な人を連れてくるということが簡単に試せます。こうしたネットワークを大事にすることも、副業としてリサーチャーを始めるうえで大切になってきそうです。
UXリサーチャーの副業のよさとは
では、リサーチャーを副業でやることの良さとはどこにあるのでしょうか。
企業側の立場からは「集合知が得られることが最大の良さ」と語るのは、エルボーズの椿原ばっきーさん。副業の方が増えることによるコミュニケーションコストの高まりよりも、多種多様な人が参画していることの集合知のほうが、企業としての価値として大きいといいます。
「コミュニケーションコストがかかるのではないかという話はありますが、うちは多種多様な人の集合知を強みにすると決めています。そのほうが企業としての価値がある」
リサーチャーの視点からは、リサーチャー同士でこれまでのよい事例についての情報を交換しあい、取り入れられるものは取り入れることができるのが、とても有意義だという指摘がありました。瀧本さんは実際に、複数人のリサーチャーが入ることによって、第三者の目が入り、リサーチ結果のクオリティの向上につながっていると実感しているそうです。
濱谷さんも、外部の視点が入ることに価値があるといいます。長年スクラップ&ビルドを繰り返してきたプロダクトやサービスを提供している企業側は、どうしても今までの歴史があるぶん、社内の状況が混沌としがちです。そうしたとき、外の立場から、そもそもの部分を問い直すことができるのが、副業のリサーチャーとして関わることの意義であり、それがチームの勢いにつながることがあると言います。
副業としてリサーチャーをされている方は、「サービスの立ち上げに関わりたい」となったとき、応募されることが多いそうです。本業だと、やはりやれることにはどうしても限界があるもの。本業のキャリアは維持しつつも、0から1を生み出す経験を積むうえで、副業リサーチャーとしてジョインすることは、大きな価値を持っているようです。
このように、副業としてのリサーチャーという働き方には、企業側としてもリサーチャー側としても、十分にポテンシャルがあるといえます。
副業だからこそ「小さく始める」
一方で、副業で関わるからこその難しさも存在します。
その一つに、「時間をどうやって確保するか」という問題があります。川勝さんは、本業が終わったあとの平日と土日で副業としてのリサーチャー活動を行いつつ、本業が難しくなってきたときは、その旨を正直に伝え、調整してもらうようにしていると明かしました。こうしたコミュニケーションを円滑に取れるかどうかというところも、副業として関わるうえでは重要になるでしょう。
「いざという時に調整できる余白をちゃんと持っておくことは、企業にとってもリサーチャーにとっても大事」とは、モデレーターを務めた草野さんのお言葉。120%でやってしまうと、どこかで破綻してしまうもの。また、その人に責任のすべてがかかってしまうような状態では、副業として関わる方への負担も高くなってしまいます。双方が積極的にコミュニケーションを取っていくことが、副業人材としてのリサーチャーに活躍してもらうための必要条件といえます。
会社側の視点から見ると、そのあたりの塩梅をよく理解している副業経験者のほうが、安心して仕事を任せられるという側面もありそうです。椿原さんが執行役員を務める株式会社エルボーズでは副業の方が多数活躍されていますが、やはり副業経験のある人のほうが、時間配分や切り替えができているという感覚があるといいます。いずれにせよ副業のリサーチャーとしてジョインする場合は、自分の限界がどこにあるのか、一度しっかり見つめ直す時間を取っておいたほうがいいでしょう。
そういう意味で、椿原さんが仰った「小さく入ってきてもらうことが重要」という言葉は重要です。たとえリサーチャーが「100%の力でやります!」と言ってきたとしても、「まあ、8割ぐらいに抑えておきましょう」とアドバイスする方がよいかもしれません。なにか予想外なことが起きたときに、余裕をもって対処できるようになるからです。
「情報の非対称性」と「属人化」という課題をどう乗り越える?
副業としてジョインする場合に立ちはだかるのが、「情報の非対称性が生まれる」という課題です。副業リサーチャーの場合、かならずしもプロジェクトの立ち上げ段階から参加できているわけでもなく、コミットできる時間も限られているため、どうしてもプロジェクトの全貌を理解するのに手こずります。そうしたなかで、どうやってパフォーマンスを発揮するべきなのでしょうか。
まず考えられるのが、密にコミュニケーションを取っていくことです。スマートバンクの瀧本さんは、どういう関わり方だとしても「1つのチームとして動く」という認識を強く持ちながら、ときには川勝さんがお住まいである名古屋での合宿を持ちかけるなど、緊密にコミュニケーションをしていたと語ります。どれくらいのコミュニケーション頻度がいいのか、どういう状態だと不安がないか、お互いに言語化できる状態まで会話をしながら、チームをプロトタイピングしていったそうです。
川勝さんも、全社集会に参加するため東京に赴き、現場の空気感も含め、キャッチアップする努力を欠かさず行っているとのこと。自分から情報を取りにいくという姿勢を示すことで、情報のギャップを可能な限り小さくしようという意志を感じます。
こうしたコミュニケーションと同時に進めていきたいのが、「仕組み化」の部分です。属人的すぎるコミュニケーションを取り続けていると、どうしてもマネージャーが疲弊していってしまいます。
株式会社エルボーズの椿原さんは「属人的に1on1でなんとかしているところが多い」と打ち明けつつも、Notionでを活用してプロジェクト管理ツールをつくったり、SlackでBotをつくったりしながら、プロトタイピング的にうまくいくやり方を進めていると語りました。
コミュニケーションのように、属人的なものを最初からすべて仕組み化することは現実的ではないでしょう。しかし属人的な判断をやりやすくするためのツールを用意し、そこからうまく落とし所を見つけていく作業も、情報の非対称性を小さくし、副業として働くリサーチャーの方々のパフォーマンスを最大化することにつながりそうです。
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今回はリサーチャー側と企業側の視点から、副業リサーチャーとして働きはじめるきっかけやおもしろさ、そして難しさと乗り越え方について、ご登壇いただいた4名に話し合っていただきました。
今後ますます副業という働き方が一般的になり、それに応じて副業としてリサーチャーを始める方も増えていくことが予想されます。リサーチャー側にとっても企業側にとってもポジティブな結果になるように、試行錯誤を続けていくことが今後も求められるのではないでしょうか。
当日のアーカイブ動画も公開しているので、ぜひあわせてお楽しみください!
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[編集]若旅 多喜恵[文章]石渡 翔
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