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地方大学で研究者として働く困難 研究設備や学生教育の現実

東京大学や京都大学、早稲田大学や慶応義塾大学など、テレビなどで聞いたことがあるような大学はたくさんありますよね。

一方で、地方にある大学って知っていますか?住んだことのない地域の大学はなかなか知らないのではないでしょうか?

地方大学と都市部の大学への進学率は大きく異なり、地方大学への進学率がどんどん減少すると予想されています。
それにともない、各研究室に支給される資金も削減されており、地方大学で働く研究者はますます大変な環境で研究しなければなりません。

実際に地方大学で働く研究者の現実を聞くことができましたので、この記事では地方大学で働く研究者の困難について紹介していきます。

地方大学の研究者は大変?

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私は都市部にある大学の研究者として働いており、地方大学で働く先生から現状を聞いた際は、都市部といろいろな面で違いがありました。

特に、
・研究を進めるうえでの困難
・学生教育における困難

に関して大変さを感じました。

お世話になった先生も今まで所属していた研究室の環境と大きく変わり、苦労していると聞きました。
それでは、それぞれの困難について詳しく説明していきますね。

地方大学の研究環境は過酷!?研究設備や研究費は?

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大学に勤める研究者の一番の仕事は研究です。
日々、文献の調査や実験、論文の執筆などを行っています。
フィールドワークを除き、基本的には大学の中で作業を行っていますが、どのような環境で研究をしているのでしょうか。
都市部にある大学と地方大学の違いを表にまとめました。

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このように見てみると、都市部にある大学と地方大学の違いがわかります。
それぞれの項目について詳しく説明していきます。

<設備の状態>
都市部にある大学は、レンガ造りの校舎や緑の芝生などきれいなイメージがありますよね。
地方大学にはどのようなイメージがありますか?
ネットで検索してみても、「暗くてぼろい」など、あまりいいイメージは持たれていません。

実際のところどうなのでしょうか。

地方大学で働く研究者に聞いてみると、「実験室の床がめくれている」「雨漏りがしてくる」など、修繕が追いついていないそうです。
また、学生部屋の椅子がない、実験で使う机がないなど備品もそろっていないことも多々あるそうです。

<研究室・ゼミあたりの運営費>
研究室やゼミを管理するために使われるお金として、運営費が国から支給されます。
運営費を用いて、実験室の修繕をしたり学生が使用する椅子を購入したりするのですが、各研究室に支給される運営費が大幅に削減されています。
都市部にある大学に支給される運営費は、研究室あたり年間に約100万円と言われていますが、地方大学では研究室あたり年間に50万円程度だそう。
化学系や機械系の実験をする研究室では、試験管やゴム手袋など消耗品の購入、実験装置の保守、学会への参加費と移動にかかる旅費、印刷代など年間に数百万円ほど必要となります。
それに加え、床や天井の修繕には数十万円から数百万円必要とです。
しかし、年間に50万円程度の運営費だけでは、研究に必要な金額にも至らず、施設の修繕に手が回りません。

<1大学あたりの平均科研費受入額>
運営費だけでは研究室の管理が満足にできないため、科研費などの外部資金へ応募します。
競争的研究費は研究実績が審査に大きく影響するのです。
研究設備が卑劣な状況、運営費が少ない中では、研究実績をコンスタントに出すことが難しくなります。

実際、文部科学省の調査によると、都市部の大学に比べて地方大学の受入額は5分の1程度のようです。
そして、「研究設備が整わない→研究実績が出ない→外部資金が取れない→研究設備が整わない→…」の負のループに陥ります。

地方大学の学生教育 都市部の大学との違いは?

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<大学における学生教育とは?>
大学に勤める研究者は、研究だけでなく学生の教育も仕事の一つに含まれます。大学における学生教育は、主に「講義」と「研究室やゼミに所属する学生の指導」です。

教育環境が整っているかを表す一つの指標として「ST (Student to Teacher) 比」があります。
これは、1人の教員に対する学生数を意味し、この数字が大きいほど1人の教員が指導する学生が多くなるため、教育の負担が大きくなります。
数字だけ見ると、私立大学と国公立大学の間には2倍程度の大きな差がありますが、都市部の大学と地方大学ではさほど違いがありません。
では、学生教育に関して地方大学と都市部の大学では変わらないかというとそうではありません。

<地方大学での実態は?>
私がお世話になった先生に話を伺ってみたところ、地方大学では教員の新規採用が凍結されることもあり、教員数が減少しているため、担当する講義の数がこれまでと比べると大幅に増えたそうです。
これまでは、前期に3コマ、後期に2コマ担当してところが、地方大学に異動してからは、前期に6コマ、後期に5コマになったそうです。
講義に使用する資料の準備や試験の採点、成績の入力など作業が倍になり、研究に割ける時間がかなり削られていると聞きました。

また、都市部の大学では、海外や全国からのアクセスに恵まれているため、留学生を含む入学志望者をある程度確保することができています。
一方で、地方大学では地域における人材育成や地域経済の基盤になることが求められ、高校訪問やオープンキャンパス、公開講座や講習会など学生を獲得するための業務が多くあります。

若手の研究者であれば今後の経歴を考えると、研究実績に加えてコネクションも重要。
教員数の減少と共に優秀な上司と出会う可能性も低くなるため、都市部の大学に比べるとキャリアアップの難易度は難しくなるかもしれません。
研究資金だけでなく研究時間もどんどん減っており、研究者の労働環境としては過酷なものと言えるのではないでしょうか。

<今後の地方大学はどうなる?>
2019年度には、18歳の人口が約120万人に対して、2040年には約90万人まで減少すると言われています。
地方大学に進学する学生が減ると、支給される運営費も一層削減され、研究を行う環境としては困難を極めると思います。
大学を中心として地域活性化を進めることで、地元産業と連携した地方大学の機能強化に取り組み、持続可能な研究環境の整備が必要かもしれません。

まとめ

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この記事では、地方大学で研究者として働く困難について紹介しました。

・地方大学の設備は老朽化しているところもあり、修繕が追いつかない
・地方大学では運営費が削減され、外部資金も獲得しにくい
・1人の教員に対する学生数は都市部と変わらない
・地域密着型の取り組みが多く、高校訪問や講習会の準備がある
・教員数が減少しており、担当する講義が多くなる

地方大学の現状はつらいものですが、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智教授やノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授は、地方大学と呼ばれる山梨大学や埼玉大学の出身です。
優秀な研究者の中には、複線的な経歴を歩む人も存在し、外部資金をたくさん得られていない環境でも洗練された教育が行われていることも事実です。
都市部や地方に関係なく、技術と個性が十分に活かせる研究環境が整うことを願っています。

最後までお読みくださりありがとうございました!

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