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まるでスパイ組織!? 〜 インテリジェンスとは何ぞや

 こんにちは。危機管理情報センターRIC-WESTの松浦です。

 レスキューナウのnote読者の方々はすでにご存知の通り、弊社では「危機管理情報」というものを事業の中心に据えています。
 この「危機管理情報」は読んで字の如く、危機管理の情報危機を管理するための情報であり、私の所属する「危機管理情報センター」の由来にもなっていることは以前触れた通りです。

 となると、お次は「危機を管理するための情報って何?」「危機を管理するってどういうこと?」という当然の疑問も浮かび上がってくるわけですが、その解決は次の機会に譲るとして、今回はその前にもっと重要な「そもそも情報とは何だ」という部分に焦点を当ててみましょう。


インフォメーションとインテリジェンス

 さて、「情報」の語を英訳すると2種類あることに気づきます。

・Information: インフォメーション
・Intelligence: インテリジェンス

 よく耳にするのは前者でしょう。
 たとえば案内所であるとか、たとえば掲示板であるとか、高度情報化社会と呼ばれる今よりずっと前から、我々の生活に根付いてきた言葉です。
 かく言うレスキューナウでも、社内で「リック」と呼ばれる危機管理情報センター〈RIC24〉の由来は、Rescuenow Information Centerの頭文字だったりします。

インフォメーションセンターのいらすと

 そんな身近な「インフォメーション」に対し、聞き慣れない印象を持つのが「インテリジェンス」の語でしょう。
 このインテリジェンス、「インテリ」という省略語が表す通り、知性や知恵などの意味を持つのですが、殊実際の使用場面にあっては「情報活動」あるいは「諜報活動」の意味を持ちます。

「――!」

 ……何やらいきなりきな臭くなりましたが、そもそも我々にとって馴染みが深い「情報」の語も、国内で扱われた当初は軍事的な用語であったという事実はご存知でしょうか?
 実はこの「情報」の語、古来より存在した漢語由来の熟語ではありません。幕末明治期、欧米諸国から流入した概念を表すために翻訳借用語としてつくられた、和製漢語の一つになります。

 由来は諸説あり、一般にはフォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』が訳されて、明治36年に『大戦学理』として刊行される際、小説『舞姫』で知られる文豪、森鴎外(のち軍医総監)がその巻一「戦争の本性について」第六章「戦争における情報」で、ドイツ語のNachrichtに対して充てた例が始まりとされるほか、それより遡ること27年の明治9年に、同じ陸軍の酒井忠恕が少佐時代に訳した『佛國歩兵陣中要務實地演習軌典』でフランス語Renseignementの訳として用いられて以降、陸軍内部で一般化したとする説も有力です。
 いずれにしても、日本における「情報」の語の由緒は旧軍に求めることができ、その用法も「敵知する」ということで、軍事的な文脈であったことがわかります。

 では、軍事的な意味で使われ出したという「情報」、現代では「インテリジェンス」と称されるそれらの実態はどのようなものでしょうか。


「インテリジェンス」は基本、地味

 一口に「インテリジェンス」といっても、その内容は多岐にわたります。

・文字通り人と接触して情報を得るヒューミント
(HUMINT: HUMan INTelligence)
・通信、電磁波、信号などの情報を傍受するシギント
(SIGINT: SIGnal INTelligence)
・センサーやレーダーで電子情報を得るエリント
(ELINT: ELectronic INTelligence)
・メディアやSNSなど世間一般の公刊情報を分析するオシント
(OSINT: Open Source INTelligence)

 などなど、軍事インテリジェンスの分野は大別するだけでも数種類あり、組織の活動する領域や任務の差異、求める情報の違いから、日本でも防衛省情報本部、警察庁警備局を筆頭に、内閣府、外務省、法務省の各省庁に大小様々な情報機関が存在します。
 ただ、それらに共通して言えるのは、「007」は言うに及ばず、「ミッション・インポッシブル」や「ボーン・シリーズ」の華々しいアクション映画のイメージに反して、情報活動の現実は非常に地味だということでしょう。

 それもそのはず、上で述べた通り、多岐にわたるインテリジェンス活動において、情報入手の中心となるのは、メディアやSNSなど世間一般にあふれる公刊情報を分析するオシントです。初代内閣情報調査室長を務めた大森義夫氏の『日本のインテリジェンス機関』によれば、情報活動で得られる内容の9割はオシントに基づくんだとか。

<●><●>「お前を見ているぞ」

 言うなれば、デスクワークこそが情報活動の中心となるわけで、インテリジェンスを真正面から扱ってしまったが最後、トム・クルーズもマット・デイモンも映画の尺の間ずっと、机の前に座りっぱなしということになってしまうのかもしれませんね。

ハリウッドスターも形無し

 このようにオシントは情報活動の典型ですが、その性質を示すものとして、戦中・戦後にかけて旧軍、自衛隊で情報担当官として活躍し、晩年は奈良県西吉野村(現・五條市西吉野町)で村長を務めた堀栄三氏が著書『情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記』において、養父・堀威夫陸軍中将に聞いた「情報活動は相手の仕草(兆候)を見ること」という言葉を遺しています。

 これを表す好例として、山崎豊子の小説『不毛地帯』にこんな場面があります。

 大本営作戦参謀であった主人公が、戦後、中東の石油採掘を巡って自社の苦境を切り抜ける選択を迫られ、キーマンとなる人物の動向を新聞の切り抜きに得る――作品のターニングポイントとなる印象的な場面ですが、対象の「仕草」を得るという意味では、これもオシントの一種だったでしょう。
 昨今のコロナ禍では各国の感染・死者数をとりまとめ、リアルタイムで更新し続けた米ジョンズ・ホプキンス大をはじめとして、国内外で多くの組織が同様の取り組みを行い、注目を集めました。これらも行政や保健所といったソースの情報を収集・分析するという点で、れっきとしたオシントにあたります。

 ウクライナ情勢においては、戦況を損耗兵器の数という形で伝え、各国公的機関からも一目置かれるOryxが、メンバーの「趣味」で運営されているという、なかなかに衝撃の記事もありました。

 このように情報社会のウラで暗躍(?)するオシントですが、レスキューナウにとっても他人事ではありません。
 なんせ危機管理情報センター〈RIC24〉の日々の業務内容は「多種多様な情報ソースを24時間365日、常時監視して、スタッフ一人一人の持つスキルで加工、提供する」というオシントの本質そのものなのですから。

 ということで、ここからは日本にもオシントでご飯食べてる会社があるんよ、という話をします。


危機管理情報センター、日々のオシント

 レスキューナウの提供する各種危機管理サービス、その根幹を成す配信情報は危機管理情報センター〈RIC24〉から届けられているというのは以前お話ししましたね。

 台風や大雪など災害の情報は言うに及ばず、停電や断水、インターネットの障害といったライフラインの情報、はたまた事故や感染症の情報に、果ては交通・鉄道の運行情報などなど――膨大な、それはもう本当にたくさんの情報ソースを24時間365日、休みなく監視して、レスキューナウの危機管理情報はお届けしています。

「はい、人の手で、です」

 危機管理情報センターは、これらを概ね一般危機管理担当、鉄道・交通担当の二手に分かれて日夜さばくわけですが、情報の取得から配信までを完全自動化している一部を除き、ほぼ全てのカテゴリで人の手を介しお届けしています。

 一例を挙げましょう。

 レスキューナウは自動車交通の重大事故に対して速報をお届けする業務を請け負っています。これはお客様が事故に対して迅速な行動を必要とするためですが、ここで出番となるのが当センター交通チーム・バス班です。
 具体的には、事故に関するニュース報道やSNSの画像から、車体の艤装、塗装などを判別し、「どこそこの交通局だね」「あの電鉄のバスだね」という具合に事業者を特定するわけです。そうしてお客様へ届けられた情報をもとに一早い指示が本店から支店へ飛び、驚かれることもしばしばだとか。

 これこそが当センターの特異性、配信「職人」たる専門員の磨かれた妙技が光る瞬間です。
 無論、全ての配信業務で常に職人技が求められるわけではありません。属人的な業務を避け、専門性の平準化に腐心してもいます。とはいえ、情報稼業なるものが、こうした熟練の技で支えられていることもまた事実なのです。

 以上、今や身近な概念である「情報」の持つ意味、その一側面である「インテリジェンス」と、民間企業である我々レスキューナウでの実態についてご紹介しました。
 百年前、軍事的な用語から始まった国内の「情報」が今日、どのような場面で立ち表れているか、その一端を垣間見ることが出来るのではないでしょうか。

 冒頭で述べた通り、情報活動の実態は地味な日々の連続です。しかしながら、その鈍く光るいぶし銀こそ、知的な生産活動であるこの稼業の醍醐味でもあるのです。
 社会を支える「縁の下の力持ち」として、レスキューナウはこれからもそこにある危機に備えます。


最後に

 レスキューナウは、日本唯一の危機管理情報の専門会社として、防災分野で様々なサービスを提供しています。防災・危機管理の重要性が叫ばれるなか、当社も事業拡大につきメンバーを積極採用しています。
 災害や危険から安心な暮らしを守る事業をやってみたい、自分の価値観と共感できる部分がある、ちょっと興味が沸いたので話を聞いてみたい、ぜひ応募したいなど、弊社に少しでもご興味を持っていただけましたら、ぜひ弊社のリクルートサイトをご覧ください。


参考文献

  • 大森義夫.日本のインテリジェンス機関.文藝春秋,2005,192p.

  • 堀栄三.情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記.文藝春秋,1996,352p.


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