譲渡制限株式での報酬
証券取引所に流れる適時開示情報をみていると、「譲渡制限株式報酬としての自己株式処分」というリリースが数多く見つかる。大型株式から小型株式まで、本当に数多い。
この内容は、一定の期間、取締役や役員といった職務を続けてくれたら自由に処分できるようになる株式を報酬として会社から支給する、というものだ。
そして「一定の期間」については、ごく稀に3年や5年というものもあるが、ほとんどが30年や「取締役会が正当と認める退任まで」と、転職を防ぐようなスキームになっている。
ここで、投資家の視点から考えることが2つあると思う。
1つは本当に企業の業績にとってプラスになるのかというものだ。確かに株主の視点に立ってくれるという効果はあるのだろう。純利益と株価の相関については古くから認められている(大投資家の1人ピーターリンチの本でも検証されている)。働いて利益を出したら、貰える報酬も大きくなるのだからやりがいがあるだろう。
あと数年で辞める高齢の取締役はやる気が出ると思う。しかし逆に、終身雇用で働く気のないプロ経営者にとっては、入りたくないと思わせる要因にならないか。合理的かどうかはともかく、「同僚の高齢取締役だけが得する制度」がある会社とそうでない会社があるなら、後者で頑張りたいと思ってしまうのが素直な感情だろう。
凄腕の取締役に経営して欲しい株主にとって本当にプラスなのだろうか。
そもそも株主と同じ立場を取ってほしいなら「自分の現金給与で自社の株を買う取締役」を高く評価し、好んで選任するという意思表示をすれば良いのではないかと思う。
2つ目は訴訟リスクだ。最近の東芝のように、株主の不信任で辞めることになる取締役は「取締役会が正当と認める退任事由」なのか。報酬は数千万円〜数億円である。
譲渡制限株式報酬を設定していた場合、仮に取締役会が認めなければ、退任者は会社を訴えるだろう。もし同僚意識から認めれば、理由があって不信任にしている以上、株主が取締役会のメンバーを忠実義務違反で訴えるだろう。
業績へのモチベーションを高めたいなら、業績連動のボーナスでも良い。訴訟リスクを増やすよりも、金銭ボーナスの設計を納得いくように行えば(長期業績にモチベーションを持って欲しいなら3年間の平均利益に連動させるなど)良いのではないか。
(この譲渡制限株式報酬制度は弁護士がお薦めしているのか?と思ってしまう)
なるべくリスクを抱えずに良い業績を目指して欲しいと思う。
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