広島帰省だより①
先週の木曜日から今日まで、広島に帰省していた。
マツダスタジアムで、カープの試合を観るという、たったそれだけのために。
贅沢な機会なので、今回の帰省の日記のようなものを何回かに分けて書きたいと思う。
1日目:ニッポンいいもんうまいもん(きしめん、揚げかま)
木曜日は海の日を含む3連休前の最後の平日。
テカりの少ない、高そうなスーツに身を包んだサラリーマンたちが忙しそうに駅を往来していた。
vansのスニーカーにゆったりとしたYシャツで行くと、まるでパジャマのまま出てきてしまったような気持ちになった。彼らに私の姿はどう写っているだろう。前に読んだ吉本ばななの作品に(たしか『白河夜船』、不倫ものの作品)、「平日の昼間からデパートでぼんやりしている女の子はだいたい学生か、不倫中で彼の連絡がいつ来てもいいように待機している子だ」みたいなことが書かれてあった。
会社をやめてからはよくその一節を思い出す。私も学生か、待機中の女に見えているのかなぁと。
特に、平日の昼間からちょっと綺麗なスカートを履いて街をぶらぶらしているときには、「仕事が平日休みなんですよ」という顔で堂々と歩くようにしている。
時間だけはたっぷりあるので、今回は広島までの道を在来線を使いながら帰ろうかと考えてみた。といっても東京〜広島をすべて電車で移動するとさすがに腰が砕けてしまう。名古屋まで在来線に乗って途中から新幹線に切り替えるか、新大阪まで新幹線、あとは在来線に乗るか、いずれにせよ半分は在来線で移動してみようと色々考えてみた。
しかし青春18きっぷがはじまる前なので、在来線を使っていくと新幹線の倍くらいの時間がかかるうえ、まさかの飛行機よりも金額が高くなることが判明。仕方なく、新幹線の自由席でのんびり帰ることにした。
自由席であれば区間内は途中下車が可能。
2月のお伊勢参りのときに名古屋で食べたきしめんの味が忘れられず、今回は名古屋で途中下車をして、ホーム上にあるきしめん「住よし」を食べて広島に向かうことにした。
東京駅発の自由席は、11時ぴったりの便でほぼ満席。
驚くことに、客の6割が外国人旅行客だった。英語、中国語、スペイン語など、車内のあちらこちらから異国の言葉が聞こえてきた。すこし遅れて入ってきた中華系と見られる家族連れは子どもと親がバラバラになって座っていた。私は3列シートの通路側に座り、窓側に私とそう年の離れていなさそうな女性が座っている。その真ん中を、その中華系と見られる小学生の女の子が座った。近くに親が座っているとはいえ、異国の地で見知らぬお姉さんたちに囲まれて、心細くはないだろうかと少し心配になった。彼女は、スマホで通路を挟んで向こうに座っている兄弟らしき人とチャットをしながら、たまに寝るなどして静かに過ごしていた。小さい子どもを何人も引き連れて海外旅行をしている、車内の大人たちのタフさに感服する。
それから本を読んでウトウトしていたらあっというまに名古屋へ到着。東京からは1.5時間で着いてしまう。毎回4時間かけて広島に帰っている身としては拍子抜けするほど近く感じられる。
ホームに降り立つと、雨が降ったあとなのか少しだけひんやりしていた。
きしめんのお店はホームの両端、2箇所にある。どちらも立ち食い形式で回転もかなり速いはずだが、さすがにお昼どきにもなるとお店の外まで列がはみ出ていた。より少ない方を選び、券売機で食券を購入。みそきしめんにもそそられたが、体がだしを欲している気がしたので、汁は普通で上にイカ天が乗っているイカ天きしめんにした。
食券を買い、列に並ぶ。入り口の手前で食べている人はさぞかし気まずいだろう。食券を握って唾をゴクリと飲み込む客たちに、じろじろと見られながら麺を啜るのだから。でも、その人だってつい数分前にはここで食券を握って待っていたはずだ。見る・見られる関係は常に持ち回りなんだなぁ、と思いながらぼーっとしていると、3分ほどで席が空いた。列から1番遠い、店奥の席になった。
イカ天は私とうしろの二人ほどでもう完売だという。小さな喜びを噛み締めていると、1分ほどできしめんが到着。アイライナーを太く引きすぎてまぶたの半分が黒くなっている中年の女性がひとりで店を切り盛りしていた。厨房は機械音が大きく、先ほどから「ごちそうさまでした」と言って出ているサラリーマンたちの声に気づいていないようだった。
クーラーで冷えた体をあたためるべく、熱い麺をすすった。
薄くも濃くもない、甘くもしょっぱくもない、完璧な出汁につけられたきしめん。透き通ったつゆからは、鰹節のゆたかな香りが舞い上がってくる。
めんは平たく、平麺のパスタよりもすこしだけ薄いような気がする。これが箸で掴みやすいので、個人的にはうどんよりも食べやすい。正直、うどんや蕎麦、ラーメンよりもこのきしめんが、麺類の中では一番好きかもしれない。ラーメンはうどんは「小麦粉を食っている」という感覚が拭えないのだが、このきしめんは出汁の旨みがそうさせているのか、粉物を食べていることをついつい忘れてしまう。いけない、書いていたらまた食べたくなってきた。
店を出る時、私も大きな声で「ごちそうさまでした!」と言って出たのだが、やはり聞こえていないようだった。店も店主も誰もしゃべらず、ただ目をすする音と厨房の換気扇や麺をゆでる機械のボコボコした音だけが鳴り響く。
私の近くにいた人には聴こえているはずなので、彼らからすると「あいつ気づかれてないな」と思われているだろう。よくあることだが、やはり気まずかった。
店を出るとまだ胃にゆとりがあったので、売店で「尾張名物」と銘打った揚げかまと、これもまた名物らしき、見たことのない饅頭を購入した。
こちらは川上弘美の小説に、主人公の女性がかつて好意を抱いていた女性に会うべく、電車を乗り継いで向かう場面がある。
その車内で、主人公がかまぼこをおいしそうに頬張る描写があるのだ。新幹線で、かまぼこかい!という衝撃と、食べることにまつわるいやらしさのない丁寧な描写で、こんど新幹線に乗る時にはかまぼこを食べてみよう、と思ったのだ。
ちなみに主人公はかまぼこを口にしながら、いとしい彼女の食べ方や、食に目がないところや、一口あげるとたいそう喜んでいたエピソードなどを思い出す。頭の中をこれから会いに行く人のことでいっぱいに満たしていく様子は、せつなくもほほえましかった。
で、この揚げかまだが、他の売店を見てみるとイカや紅生姜など味にいろんなバリエーションがあるようだった。たまたま手に取ったのがイカで、これを書いている今、ようやくイカ天にイカの揚げかまを食べていることに気づいた。揚げかまは平たく、硬めに焼かれていた。程よく塩が効いていて、イカの独特な匂いはそこまでしない。酒のツマミにぴったりだと思った(さすがに飲んではいないです!)。
そして安永餅(やすながもち)は調べてみると愛知ではなく、三重・桑名の銘菓だった。縦長で、長さは10cmほどあるだろうか。「牛の舌もち」とも言われていたらしい。
あまり見かけない饅頭を見ると、ついつい買ってしまいたくなるこの私、おやつに食べようかと思って買ったが、腹が膨れてきたので家族へのお土産にすることにした。
土産にはこのほかにも、うなぎパイを購入。
名古屋駅ホームの階段に「夜のお菓子」というキャッチコピーを発見してしまい、これもまたついつい気になってしまったのだ。うなぎパイ自体は前から知っていたものの、その売り文句がまさか「夜のお菓子」だったとは。
どことなくいやらしい響きだなぁと思い調べてみると、そのような意味は一切こめられておらず、いたって誠実な願いが込められていた。
夜の団欒のおともに、ということらしい。
とはいえうなぎパイ6本は蒲焼100gのそれと同じくらいのビタミンAが含まれているとのこと。へぇ〜と思いながら本を読んだり寝たりしていると、あっというまに広島に到着した。
実家で名古屋のお菓子だ、と言って渡すと「それ静岡土産よ」と言われた。パッケージをみると、「浜名湖名産」と書かれてある。なんと。名古屋駅に広告まで出ていたものだから、てっきり名古屋銘菓だと思っていた。
東京から帰ってくるのに、静岡と三重のお土産を名古屋で買ってくるという、何一つ合っていないチグハグさ。しかしこれもまた旅の一興。
それにしてもなぜ、駅の所在地にないお土産が売られているのだろう……。赤福があるのは三重に行くのに名古屋を経由することが多いから、というのはなんとなく想像はつくが、うなぎパイはさすがにいかがなものか…と責任転嫁をする始末。いえ、私が悪い。
しかし名古屋駅のうなぎパイの需要、とても気になるところだ。たしかに周りでは私しか買っていなかった気がする。
字数が多くなってしまったので、続きはまだ今度。次はマツダスタジアムでの観戦、球場飯について書こうと思う。