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【ピアノ】チェルニーやハノンは有益なのか?~有名人の批判編
ピアノが嫌になる代表格といえるチェルニーやハノンの教則本。それらは本当にやるべき(やらせるべき)なのか?使うとしたら、どう使うべきか?
この問題について皆さんがご自身の意見を持つために様々な角度から情報を提供し、考察してみたい。
前回「人物と名声編」に続いて、今回は「有名人の批判編」。実績のあるピアニストや教育者はどのようにこの問題を考えていたのか、いくつかご紹介しよう。
ただし、必要な情報を網羅できなかったり、ときに主観的になることはお許し願いたい。
<1>理路整然と不要論を説いたドホナーニ
1-1:合理的なテクニック習得論の代表格
最初に、名教本として知られる「確実なピアノテクニックを得るために不可欠な指の練習曲集 (Essential Finger Exercises For Obtaining A Sure Piano Technique)」(1929年)を書いた、エルンスト・フォン・ドホナーニ(1877~1960)の意見を聞いてみる。
彼はテクニックの習得について総合的かつ合理的に論じており、ツェルニーやハノンに批判的な立場を知るよい導入になるだろう。
また、彼の論説にはテクニックを向上させるうえで大切なエッセンスが詰まっている。ここではチェルニーやハノン批判はあくまで一要素なので、包括的な視点で読んで欲しい。
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ドホナーニ。ハンガリー出身。(チェルニーの弟子である)リストの高弟ダルベールについたドホナーニは、バルトークと同窓で、比類ないテクニックでドイツの古典をユニークな解釈で演奏したことで知られる。また、ショルティ(20世紀を代表する指揮者として有名だがピアノコンクールで優勝した経歴をもつ)やアニー・フィッシャーなどを育てた名教師。
1-2:ドホナーニのテクニック習得論
上述の教本の序文においてドホナーニが主張していることを要約しよう。直訳ではなく、適宜わかりやすく言いかえた。
1)音楽学校において、たんなる機械的な練習に時間をさき過ぎている。生徒にたくさんの練習曲を与えても、(付きっきりで指導するわけでもないから)たいていの生徒はどのように練習すべきか分からず、その結果テクニックとして得るものも少ない。
2)テクニックだけの練習曲に充てる時間が少なければ、そのぶんをレパートリーの練習に費やせる。正しい演奏様式は、広いレパートリーを勉強することで獲得できるというのに、(大事な時期に)それが十分に出来ていない。
3)先生が生徒の上達よりも自分の声望を高めることに執心して、むずかしい幾つかの練習曲を弾かせることがあるが、そんなことをしてはならない。
4)テクニックの上達でいちばん大切なのは、楽譜を見ずに指に集中することである。この理由から、テクニックの向上という点では、チェルニーのような練習曲よりもハノンのような練習曲のタイプが好ましい。
5)もしも曲タイプの(つまりチェルニータイプの)エチュードを与えるならば、クラーマーとベルティーニから賢明に選択をして、補助的にクレメンティの「グラドゥス・アド・パルナッスム(パルナッソス山への階梯)」から選んでやらせるだけで、信頼できるテクニックを得ることが可能だ。他の曲タイプのエチュードをやる必要はない。
6)チェルニーでさえ余計なもので、やらなくてよい。なぜなら、指練習または(コンサートで弾く)通常曲のパッセージを入念に弾くことだけでは得られない重要なテクニックを何も含んでいないからだ。(=チェルニーの練習曲には、指練習や通常曲で使われていない特別なテクニックなど何もないから、指練習や通常曲の練習で事足りる)
7)ショパンとリストのエチュードはもちろん別格だ。バッハの「インベンション」をクラーマーとベルティーニと、「適正律(平均律はとんでもない誤訳なので筆者は使わない)」をクレメンティと連動させたうえで練習するのと等しいくらい、彼らのエチュードを弾くことは大切だ。
8)初見練習と室内楽の重要性。特に初見練習はなるべく早くから始めること。
9)テクニック練習では短時間で集中すること。楽譜に目が釘付けにならないこと。そして、いちばんシンプルな指練習であっても、指だけ動かすのではなく、全意識でもって指と脳を直結させながらやること。
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ドホナーニの教本より。楽譜を見ないで指に集中することを重視するので、ときに暗記するための手助けを図示している。
1-3:徹底した合理主義~「チェルニーは不要。ハノンより自分の教本」
ドホナーニの論説で見逃してはならないのは次の点である。
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