見出し画像

【講座】ベートーヴェンの修業時代から学ぶ!バックグラウンド編(学習ノート付き)

「楽聖」とまで呼ばれるベートーヴェンは、若年時に一体どのような教育を受けていたのか?

音楽家にとって若い時に受ける教育はまさに運命を分けるものですが、この興味ぶかいテーマについて今回から数回に分けて考察していきます。

関連する音楽史や理論の基礎を学び直しながら、クラシックの演奏家にとって必要な素養や訓練とは何か、あらためて考えることが目標です。ベートーヴェンの理解のみならず、自分のスキル向上やレッスンで成果を出したい方の参考にもなることでしょう。

なお、きちんと学びたい方のために、本稿の内容を元にした教材である「学習ノート」も下に付けました。マスターすべき内容を追加補足し、用語やポイントなどを空欄にしているので自分で埋めて下さい。この記事を見ながら埋めてもいいですし、テストとして使ってもいいでしょう。適宜、YouTubeへのリンクも付けています。

第1回は、まずベートーヴェンのバックグラウンドをまとめます。受けた教育に具体的に踏み込みませんが、前提となる知識です。


1:ベートーヴェンのバックグラウンド

1-1: 家庭環境と、それが音楽に与えた影響について

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン1770年にドイツのボンで、音楽家の家庭に生まれました(彼の生没年1770~1827は音楽史の指標なので覚えましょう)。

祖父ルートヴィヒ(ベートーヴェンと同名)はボンの宮廷楽長まで務めたほどの有能なバス歌手&鍵盤楽器奏者。父親ヨハンにしてもテノール歌手です。両者ともに次項で述べるケルン選帝侯の宮廷に雇われていました。文字通りの音楽一家です(下に肖像画)。

父ヨハンと母親マリアは3人の息子をもうけました。つまりベートーヴェンには二人の弟(カールとヨハン)がいました。後に、自殺を考えたベートーヴェンが遺書を宛てた相手もこの二人の弟です。

父ヨハンと母マリア

祖父ルートヴィヒ

以下は私見であり音楽史としては重要なことではありませんが、ベートーヴェン理解のポイントだと思うので心にとめて下さい(作品例や楽曲へのリンクは学習ノートで補足しています)。

1)父親はアルコール依存症&うつ病で子供たちに虐待をしたこと。特に長男ルートヴィヒの才能が明らかになってからは、金づるにすべくスパルタ教育を施したこと。

なお、祖母マリア(祖父ルートヴィヒの妻・父ヨハンの母)もアルコール依存症で、ベートーヴェンが5歳になる前に死去しており、遺伝的なものがあったようです。ベートーヴェン自身もお酒が大好きでした。

2)今でいう中学生くらいの年齢で、廃人のような父親にかわり、弟二人を養うべく大変な苦労をしたこと。

3)その幼少期における凄惨な体験が彼の気難しい性格を形成し、当時としては過激なまでに反権力的かつ闘争的な音楽内容に反映されていること。

4)しかし、本心では慰めや無条件の愛を渇望していたこと。3歳でお別れした祖父を終生尊敬しており肖像画を飾り、16歳でお別れした母親については「本当に愛すべき母親で、最良の友でした」と書き残している。その純粋な気持ちは音楽でも現れて我々の胸を打ちます。

ちなみに、幼少期の家庭環境から、自由への渇望、不器用な愛までを描いた映画に「ベートーヴェン 不滅の恋 (Immortal Beloved)」があります。米英合作の映画で、ゲイリー・オールドマンがベートーヴェン役を好演。流れる曲も素晴らしいです。フィクションを交えているので音楽学者には不評らしいですが、私に言わせれば「アタマが堅い」。皆さんぜひ一度観てみましょう。

5)弟二人(カールとヨハン)とは成人後も深い結びつきがあり、良くも悪くもベートーヴェンの人生に関わってくること。特に、カールには同名の息子カールが誕生(ベートーヴェンにとっては甥にあたる)し、この甥っ子カールをベートーヴェンが晩年に引き取ったことは重要で、後期作品の理解に関わる。[➨学習ノートに補足]

甥のカール(晩年の写真。彼はベートーヴェンの死から31年後の1858年に51歳で死去。拳銃による自殺未遂の傷跡[こめかみ]を隠すための髪型が特徴的)

1-2: 生まれた街(国)について

ここから先は

5,670字 / 5画像

スタンダートプラン

¥500 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

執筆活動へのサポートを賜ることができましたら幸いです!