北飯豊はいいで! 北飯豊ガイド2024
北飯豊とは
飯豊連峰は磐梯朝日国立公園内に位置し福島、新潟、山形にまたがり、南北約20km以上にも及ぶ大山塊である。その中で「北飯豊」とはどこからどこまでを指すのか?この記事を書くために北飯豊について改めて調べてみたが、どうやら明確な定義はないようだ。最も北に位置する朳差岳から順に主なピークを辿っていくと以下のようになる。
朳差岳
鉾立峰
大石山
頼母木山
地神山
門内岳
北股岳
梅花皮岳
いろいろな意見はあると思うが、この記事では梅花皮岳以北の山域を「北飯豊」として紹介する。
北飯豊の魅力
飯豊は2000m級の峰々が連なる大山塊であり、その雄大さと険しさから東北アルプスとも呼ばれる。日本有数の豪雪地帯でありその多量の雪によって豊かな植生と特徴的な地形が作られている。
高山植物の宝庫
飯豊の雪が溶けゼブラ模様が残る5月下旬から6月中旬くらいまでは、稜線上でハクサンイチゲの群落を見ることが出来る。東北には飯豊以外にもハクサンイチゲで有名な山域は数多くあるが、北飯豊の朳差岳や頼母木山周辺は特に素晴らしい。この時期はシラネアオイやヒメサユリ、カタクリなども見ることが出来る。近年徐々に有名になってきたようで、この時期にハクサンイチゲ目当てに来る人も増えてきたようだ。
夏になると稜線上はまるで草原のような景観になり、登山道には無数の高山植物が我先にと咲き乱れる。北アルプスなどと比べると北飯豊はゴツゴツした岩肌が少なく、豪雪によって作られた優美な稜線がどこまでも続く。ニッコウキスゲやマツムシソウ、チングルマといった夏の花々が百花繚乱の如く咲き乱れる景色は圧巻だ。
夏に来た際にはぜひ飯豊の固有種である「イイデリンドウ」を探してみてほしい。星形の綺麗な紫色をした花がイイデリンドウである。運が良ければ見つけることが出来るだろう。
美しい稜線と日本海
北飯豊からは日本海を望むことができる。飯豊本山あたりでは主稜線に隠れてしまってほとんど見ることができないが、北股岳あたりまで来ればよりはっきりと日本海を認識することができるだろう。特に筆者がお気に入りなのは地神山付近から見る日本海と稜線だ。遠く頼母木小屋が小さく可愛く見え、青々とした長く伸びる主稜線が続き、その先には朳差岳が鎮座する。遥か先には新潟の街並みと日本海が広がり、天気が良ければさらにその先の佐渡ヶ島まで望むことができる。
もし泊まりで計画をしているならば、頼母木小屋に泊まって日本海に沈む夕陽を見るのをお勧めしたい。
おすすめのテント場
飯豊連峰はテント場が多い。ほとんどの避難小屋にテント場が併設されている(※一部テント場が無い小屋もある)。お勧めは以下のテント場だ。
頼母木小屋 (10~15張くらい)
門内小屋 (10張くらい)
頼母木小屋は例年5月の小屋開け作業後に小屋前まで水が引かれているため水に関する心配が無い。夏季は管理人さんも常駐しているので、ビールやソフトドリンクも買うことが出来る。小屋前からの眺めも良いのでお勧めのテント場である。
おすすめのルート
足ノ松尾根ルート
難度: ★☆☆☆☆ 体力度: ★★☆☆☆
北飯豊の雰囲気を味わいたいならば、足ノ松尾根ルートがお勧めだ。健脚な方なら日帰りもできる。他のルートに比べても朳差岳や頼母木小屋にアクセスしやすい。新潟県側の奥胎内ヒュッテに駐車してそこから登山口までは徒歩で約1時間ほど歩く。地元の方などは自転車を持ち込んでいる方も多い。途中水場があるがルートからは少し逸れる。
足ノ松尾根ルートは北飯豊にアクセスするルートとしては比較的歩きやすい。しかし一部危険な箇所(ロープ等が設置されている)もあるので油断は禁物だ。稜線が見えてくると大石山までもう少しだ。大石山から200名山の朳差岳に行くまでには前衛峰である鉾立峰を越えなければならないが、鉾立峰の頂上からの景色は格別である。雪解け後の春(5月下旬〜6月)にはハクサンイチゲの群落を見る事が出来るルートでもある。
梶川尾根、丸森尾根ルート
難度: ★☆☆☆☆ 体力度: ★★☆☆☆
山形側の飯豊山荘からアクセスするのであれば梶川尾根ルートか丸森尾根ルートになる。こちらも健脚者であれば日帰り可能。飯豊はどのルートから登ってもそれなりに急登であるが、このルートも場所によってかなり急な箇所がある。
飯豊山荘までの湯沢長者原線は冬季は通行止めになる。例年5月下旬〜6月上旬に通行止めが解除になる。この時期に行く場合は事前に小国町の公式サイトなどで最新の道路情報を確認した方が良い。
飯豊サーキット(大グラ尾根経由)
難度: ★★★★☆ 体力度: ★★★★☆ 1泊以上推奨
飯豊サーキットとは周回ルートである。飯豊山荘からスタートして大グラ尾根を登り、御西小屋を経由して北飯豊に向かう。稜線を縦走し、前述した梶川尾根か丸森尾根でスタート地点の飯豊山荘に下山する。トレランなどをやっている人はここを日帰りでいく人もいるようだが、通常は2泊もしくは3泊で計画した方が良い。
大グラ尾根は飯豊で最も長く厳しいルートと言われている。筆者は2023年の8月に登りで使った。大グラ尾根は「山と高原地図」などでは破線ルートとして表記されているが踏み跡は明瞭だ。草刈りなどの手入れも一応されているようである。一部岩場やトラバース等で危険な箇所があるため初心者におすすめ出来るような容易なルートではないが、登山に慣れていて体力があれば登れるルートだ。森林限界を越えると北側がひらけていて大パノラマが広がり、天気が良ければ遠く朝日連峰を望む事が出来る。夏場に登る場合は暑さに注意が必要だ。大グラ尾根は途中のエスケープルートが無く行程も長いので歩き切るための体力と余裕を持った行動が必要になる。
尚、大グラ尾根取り付きの桧山沢橋架橋は毎年7月下旬から8月上旬あたりの時期に踏み板が設置される。それまでは吊り橋が空中ブランコ状態なので渡ることは不可能。渡渉は腰を越える深さとなり大変に危険なのでやめた方が良い。大グラ尾根を計画している場合は橋が架橋されたかを確認してから行くように注意されたい。
私が2023年に歩いた時は初日に御西小屋で泊まり、2日目は朳差岳小屋に泊まって3日目に下山した。飯豊本山を経由しつつ北飯豊の美味しいところを楽しめるので、時間と体力のある方には是非おすすめしたいルートである。
飯豊連峰縦走(弥平四郎IN→大石ダムOUT)
難度: ★★☆☆☆ 体力度: ★★★★★ 3泊以上推奨
主稜線の縦走は飯豊好きなら一度はやってみてほしいルートだ。弥平四郎から入り飯豊本山を経由して北飯豊までの主稜線を縦走する。程よい間隔で避難小屋があるので、自分の体力レベルに合わせて計画してみてはいかがだろうか。詳しくは以下の山行記録を参考にしてみて欲しい。
夏に縦走する場合の注意点は暑さだ。飯豊はアルプスなどと違って標高がそこまで高くないこともあり夏はかなり暑い。登山口の標高も地上とさほど変わらない箇所ばかりなので、太陽が昇ってから行動を始めると暑さで体力が奪われてしまう。
筆者がこのルートを歩いた時は、野沢駅からのデマンドバス(※1)に乗って登山口である弥平四郎集落まで移動をした。デマンドバスの始発時間の都合上、一日目のスタート時間が午前9時過ぎになってしまった。真夏の太陽が照りつけ、うだるような暑さの中登るのは非常にキツかったのを覚えている。
この山旅で出会った同じルートを歩いた方は、弥平四郎の登山口にある祓川山荘に前泊をして日が昇る前の涼しい時間にスタートしたと言っていた。もし次同じルートを歩くとしたら私も同じようにするだろう。
あとがき
北飯豊に惚れ込んでからというもの、自分と山との向き合い方が明らかに変わった。北飯豊の山域に限ればそこに百名山はない。百名山を目指している方からすると北飯豊は本山(飯豊山)から遠いし、わざわざ行く価値が無いと思う方もいるだろう。以前は自分もそう思っていた。少なくとも北飯豊に初めて訪れるまでは…
日本百名山には多くの名峰があるし、その素晴らしさは疑う余地も無い。しかし、我々は「百名山」というラベルにいささか縛られ過ぎではないだろうか。その呪縛に囚われすぎて大切なものを見落としていないだろうか。
北飯豊はどの季節に訪れても唯一無二の素晴らしい景色を見せてくれる。アルプスや有名な百名山に比べれば登る人も少ないし、アクセスも決して良いとは言えない。しかし、そこにはゆったりと流れる時間と、厳しい自然が作り出した素晴らしい景観がある。それ以上に言葉では言い表せない魅力があるのだ。私はまた今年も北飯豊に行くだろう。
このnoteで少しでも北飯豊にいってみたいという方が増えてくれたら嬉しく思う。