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ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来 (著・市川祐子さん)

今現在 会社員の人はもちろん、これから近い将来、会社員、というか社会ではたらく若い人たちにオススメの一冊です。

本の著者、市川祐子さん。前作の『楽天IR戦記』も読ませていただきました。

ESG、つまり、地球環境(E)、社会(S)、企業統治(G)の要素を投資判断に深く組み込まれることでお金、資本の配分が決まっていく。こうした流れがハッキリと確かなものになっていくことで、社会、そして、会社が変わっていく。どのように変わっていくのか、既に変わり始めているのか、が具体的な会社、対話を基に説明されています。

本の各章ごとに感想、気づき、発見等を書き残してみます。

第1章 なぜ、ESG投資が必要なのか?

ESGとSDGsとの違いが分かりやすく説明されていたり、ESG投資が、ごくごく当たり前のものになった(そう言い切ってもいいでしょう)ことが説明されています。noteでは再三書いていますが、ファンドの名前に「ESG」という言葉を銘打つこと自体がヘンです。でも銘打っちゃう。「個人投資家はESGなんて興味ないでしょ」、そう商品提供側が考えているのだろう、ってことか。

この第1章を読んで再確認、再認識したこと。
それは、投資の果実は未来からもたらされる。
もっと言うと、投資の果実は未来から”のみ”もたらされる。

過去の値動き(会社に対する市場の評価の推移)。
投資判断の参考にはなります。でもその過去の推移は投資の果実をもたらす源泉ではない、ってことです。過去にいくら評価されていてもその未来は分からない。これまで評価されていたものが未来は全く逆の評価を受けてしまうことさえある。

投資の果実は未来から”のみ”もたらされる。

地球環境も社会の課題も企業統治も、会社の未来、その会社が持続的に価値を創出、実現、提供できるか、に大きく影響を与えてます、関わっています。市場は長い目で見れば、その会社の創っている、創ろうしている価値を評価します。

お金をどのように配分するか、投資するか、お金だけではなく時間や情熱、どれだけの人を注ぎ込むのか、その判断にESGというのはとても大切な要素だ、ってことです。

第2章 「ステークホルダー資本主義」ってなんだろう?


株式会社とは? 株主とは?

「船」に喩えて、市川さんが分かりやすく説明されています。金融経済教育で教える側に居る人、もちろん教わる側に居る人にもお読みになってほしい、と思いました。

上場する意義、意味、責任についても分かりやすく説明されています。

「上場企業」とは、そこにいるだけで得られる単なるステータスではないのです。
資金調達や信用力などのメリットを享受するには、株主と向き合う責任があるのです。

「当たり前やんか」と思います。でもこの「当たり前」をどこまで果たせているか、追求されているか。以下の事例からも考えさせられます。

第3章 ESG投資は本当に儲かるのか?

まだまだ多いようです。この「問い」。
この本を初めから通読していれば、この問いの愚かしさに気づけるはずです。
この種の「問い」が霧消する日がいつやってくるのか、は個人的な関心です。

この章でのキーワード、というか、本を通してのキーワードが”Why"そして”パーパス”です。なぜ、この事業をしているのか?

船のたとえ話に戻ると、Whyは航海の目的であり、長く稼ぐためのエンジンです。船長は、どうしてこうの航海に出たのか。どんな景色を海の向こうに見たいと思って敷衍を走らせているのか。その動機こそが利益を生む源泉だと考えています。

非常に大切だと感じます。投資先の会社の「沿革」をできる限りちゃんと眺めてみるべきやわ、とあらためて思いました。一瞥はしないと。

「船長」(←経営者のことです)にしか見えていない景色を「船主(株主)」にも見せる、それが究極の株主との対話なのです。

その対話が投資家の妄想を引き起こせるか、その妄想に輪郭や色彩を与えられるか。投資家からすると、経営者の話から自分で妄想して輪郭を整えハッキリした色付けをできるか、その妄想力が大切だ、と指摘されています。

章の後半では、ESGを考慮した経営、事業活動が、市場での企業価値評価にどのように影響するのか、が具体例とともに示されています。

またESGを考慮しているか否か、に加えて、それを適切に発信、開示しているか否かで投資判断が変わった機関投資家の事例も紹介されています。機関投資家は既に変化している、ってことですね。

繰り返します。

ESG投資は本当に儲かるのか?

この問いが霧消する日がいつ訪れるのか、そこが気になります。

第4章 ESG投資が、日本の会社員の働き方を変える

こんな問いが掲げられます。

「人は財なり」か「人はコストなり」か

こういう「問い」がかつては現実に存在していたそうです。
今や「人は財なり」が圧倒的な多数派、常識になっていると思います。

これに絡めて、はたらく環境、ダイバーシティ、はたらきがい、人権への向き合い方が企業価値にどんな影響を与えている、与えうるのか、が説明されています。

「人」という観点で”顧客”についてもこの章で取り上げられています。その流れで「共感の経済」が登場し、その具体的事例で紹介されているのが

#IKEUCHI_ORGANIC さんです!

大事なこととして強調されているのが「誠実さ」です。

「共感」を獲得するよりも「共感に値する」責任と、その説明責任を果たすことに大きな労力を費やしているのです。

妥協なく細部を追求する、その姿勢は「誠実さ」と呼ぶことができるかもしれません。そうした姿勢の積み重ねが「スゴいなあ、仲間になりたいな」って思わせるんですよね、きっと。

第5章 10年後に効く、「教養としてのコーポレートガバナンス」

章のタイトルは「10年後に効く」とされていますが、「今すぐ」効くよ!って思いました笑

というのも、市川さんがこう説明されているからです。

ガバナンスが欠如している会社の経営陣は、「未来」を期待する社外の株主のために稼ごうという意識が低くなります。

上述の通り、

投資の果実は未来から”のみ”もたらされる。

僕はこう考えています。ですから「今すぐ」効くなんです。

コーポレートガバナンス・コードの基本原則がとても分かりやすく、船の喩えを駆使しながら説明されています。

基本原則 4つ目、取締役会等の責務でのこの指摘が上で述べたことと絡めて印象的でした。

企業価値向上に大事なことは、挑戦とリスクのバランスを取ることです。
ここでは、社外取締役が「独立した立場」、つまり「陸で待つ船主(一般株主)」の目線で、企業に適切なリスクを取らせることが、東証の期待する役割です。

ガバナンスというと「守り」を連想することも多い(実際「守り」も大事ですけど)わけですが、キーワードとして「リスクテイク」を挙げられています。

章の後半では、投資家側、スチュワードシップ・コードについてわかりやすく説明されています。市川さんが楽天時代に出会われた「良いアクティビスト」のお話が印象的でした(楽天IR戦記で出てきた人と同じだと推測します)。

この続きにキャピタル・アロケーションについての話になるのですが、この本、船の他に、ワイナリーも何度か登場します。市川さん、ワインがお好きなのでしょうね?

第6章 あなたの北極星、「パーパス」に向け、道のない旅を

本体の最後の章、ふたたび「パーパス」”Why”が登場します。

「パーパス」に似た言葉は色々ありますよね。「企業理念」とか「ミッション」とか。

大事なことは、自社がどう社会に貢献しているのかを表現し、伝えることです。

なぜ大事なのか。

強くて良いパーパスは、人とお金を引き寄せるのです。

「お金」が引き寄せられるのはもちろん大事ですが、ここで大切なのは、やはり「人」でしょう。はたらきたい!そう思う人たちを引き寄せるのがパーパスだということです。

248ページに社員ひとりひとりのパーパスを考えてもらう際のプログラム、そこで問われる「問い」が並んでいました。
この「問い」を見て、おお!と思ったことがあります。
最近、毎朝、ちょこっとずつ聴いている #こたつラジオ  がまさにこんな感じなんですよね。ゲストの皆さんの色んな「シーン」(みずPさんの”どんなシーンが思い浮かびますか?”という問いから始まります)はパーパスの話につながるのだなあ、と。

僕自身のパーパス、考えなきゃね、ということは思いました。ぼんやりとはあるんですけどね。

巻末には、対談が2つ。
一つ目の対談、メルカリ、そして、鹿島アントラーズの小泉文明さん。
続く対談、スタートアップに投資するベンチャーキャピタリスト、エムパワーの関美和さん。

大事なのは、中途でも新卒でも、全員が会社のミッション(使命)に共感していること。それが僕は大事だと思っている。

小泉さんのコメントで一番印象に残りました。このミッションはパーパスとも呼べるでしょう。

もう一つありました。

僕は資金調達も大事だけれども、調達したお金の使い方の方にセンスが出るなと思っていて。

どのように資本を配分するか、キャピタルアロケーションのお話。未来をつくるのはキャピタルアロケーションですもんね。

関さんのコメントでグッときたのがこのコメント。

エムパワーでは、30年後、50年後に、「あの会社に投資してよかった」「あのときはすごく小さかった会社が世界にインパクトを与えるようになったなあ」と思えるような会社に投資したいなと思っています。

あらためて再認識しました。

投資の果実は未来から”のみ”もたらされる。

「日本はもっと良くなる」

おわりに のパートで市川さんはこう提言されています。

「日本はもっと良くなる」キャンペーンをしましょう

と。

色々と課題はあります、ってか課題だらけ。日々、増え続けていると思います。
でも、僕も日本はもっと良くなる、未来は明るい、というか、明るくできるよ、って思っています。だから、日本の会社に投資しているんです(そのほとんどはアクティブファンドの力を借りて、ですけれど)。
ちょっとずつでも投資を続けることでその後押しをすることができる、と信じています。それには単にお金を投じて「あとはよろしく!」ではなくて、それなりにちゃんと見守ることも大事だと考えています。

何度も書きましたが、

投資の果実は未来から”のみ”もたらされる。

過去の結果、これまでがどうだったか、は参考資料にすぎない。過去の分析や検証は未来を妄想するための助けになる面があるのは確かですが、それよりもそれを組み合わせて想像力を働かせる方が遥かに大事なことだと僕は思います。

本の全体を通じて、非常にわかりやすく読み進めやすいと感じました。

金融や経済を学ぼうとする人にとって、また、金融や経済を教える側に立つ人にとっても大いに参考になる一冊だと感じました。

明るい未来を信じて自分のパーパスを見つけて働く若い人たちが一人でも多く増えるよう、若い人たちに手に取ってもらいたい、そう強く思いました。


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