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新解釈 コーポレートファイナンス理論――「企業価値を拡大すべき」って本当ですか? (著・宮川壽夫さん)
たぶん今年1番面白かった本。
— res (@rescale) November 12, 2022
ファイナンス理論の先行研究を丁寧に紹介しながら独自の視点を織り交ぜる。数式がほぼなく読みやすいのに内容の奥行きが深い。
NPV等基礎を学んだ後、エージェンシー理論を用いて、配当政策から企業の現金保有の合理性、ESGまで分析する様は読み応えあり。おすすめです。 pic.twitter.com/q2XU2ypwrL
res さんのこちらのツイートをきっかけに買いました、読みました。
今年こんな記事をつくりました。
「企業価値」というワードが響いたわけです。
「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?
本のタイトルのこの問いに吸い寄せられました。
非常に楽しい本でした。著者の宮川さんのボケ?ツッコミ?に相当する(カッコ)の表現、また、独特の喩えも楽しめました。
独特の喩えと(カッコ)なツッコミの一例ですけど
モデルが着ていたカナダグースのジャスパーはオシャレだったはずなのに、自分が着るとどうしてもひょうきん族の鬼瓦権蔵が着ている紺のジャンパーにしか見えない(ちょっと若い世代にはむずかしいたとえか)。
いわゆるビジネス書で「鬼瓦権蔵」は初見です笑
企業価値、キャッシュフロー、資本コスト。あらためて自分なりに整理することができました。
資本コストは、投下された資本をどの企業が使うのかではなく、どのような事業に使われるかによって決まるのが原則だ。
”「企」業”ではなく”「事」業”が資本コストを決める。そうだね、って、とかです。
そんなことより貸借対照表の左側、どこにどのような投資を行うか、キャッシュを生む資産に投資を行い、キャッシュを生まない資産への投資をやめる、という判断を行うことのほうが企業価値を高めるためには重要だ。企業価値を高めようと思えば、要するにカネの集め方よりもカネの使い方を真剣に考えなければならない。
ここでいう「そんなこと」とは、最適な資本構成のために資金調達の方策を考えること、つまり、バランスシートの右側について考えることを指しています。
資金を調達することは確かに大切ですし、それなくして事業は始まりません。しかし、資金を有効に配分して確かな実績を積み重ねる、それが企業価値を高める、ってことなんですよね。
第10話の「配当? 払ったことないですけどそれがなにか?」、
第11話の「現金? 持ってないですけどそれがなにか?」
は、多くの人に読んでもらいたいなあ、と思いました。
本は第13話までありますが、13のお話の後、最後にある「エピローグーゴーギャンの絵のように」が非常に印象的でした。また読み返したいな、と思いました。話の「まくら」が職務質問になっているところが、このエピローグをより強く印象づけた気がします。
企業価値の計算にとってむしろ重要なことは、企業特有の物語を経営者がどのように創造し、株主(市場)がどのように評価するかだ。
企業価値を探究することの面白さ、醍醐味はどこにあるのか、それを感じました。
エピローグを除く13の話のタイトルはすべて「問い」になっています。
「?」です。
エピローグの締めに向かっていく中でこう述べられています。
客観性や合理性のみが重視され、過剰に秩序化された社会からは価値が生まれない。生身の企業が価値を拡大するためには、経営者を含めてそこで働く人々のウザいくらいに主観的な主張や自立的なこだわりが必要だ。疑問や思考の末に「こうしたい」「こうありたい」という主観的な強い意思を
そして、エピローグはこの言葉で結ばれています。
疑問を抱き、考え続けること自体に意味がある。
企業価値に限らず、何かを探究するということは、疑問を抱き、考え続けることだと思います。疑問を持つためには関心のアンテナを広げることが大切。また思い込みに陥らない柔軟性も持っておきたいものです。
大変楽しい読書体験となりました。res さんに深く感謝です。
大阪公立大学商学部 宮川壽夫研究室
本を読む前に著者の「宮川壽夫」さんを検索したらHitしたのがこのページでした。
こんなページがありました。
学生のうちにこうした学びの経験、体験が得られるというのは素晴らしい。
企業価値を探究する、企業価値について考えてみる 学びの機会、場がもっともっと増えてくればいいのに。別に大学じゃなくてもいいと思うんです。
ちょっと脱線します。
NISA狂騒曲を聞いていると(見ていると)、思うことがあります。
「株式投資に税制優遇を増やせば、企業の競争力が高まるんだ」ってな筋があるように思われてなりません。が、お門違いだと感じます。
鎌倉投信の鎌田さんのツイート。
ただ、NISA制度の見直しを「企業の成長と資産所得の好循環の実現」に結びつけるには無理がある
— 鎌田恭幸 (@yui2101) November 30, 2022
主に上場企業に向かう投資マネーをふやすことと、企業の成長促進とは無関係だから
教育・研究分野、産業分野等の国際競争力を高め、人財もお金も自然と集まる国家にする構想を描き、実行することが重要
NISA制度の見直しを「企業の成長と資産所得の好循環の実現」に結びつけるには無理がある
無理がある、どころか、ありすぎる、と感じます。
コーポレートファイナンス の「学び」が足りないから、こんな筋違い、お門違いが出てきてしまうのでしょうね。
コーポレートファイナンスを学ぶ、自分なりの疑問を持つ。
それらに非常に有益な一冊でした。