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✦✦vol.1〜大阪桐蔭野球・誠実な野球の咲かせた大きな花✦✦

【REN's VIEW〜“その価値”についての考察】

✦大阪桐蔭野球・誠実な野球の咲かせた大きな花✦

✦球児たちが実証してくれたこと

「ここが正念場です」、「もう暫くが大事です」。そう言われ続けて早2年が経つ。しづらい事、できない事だらけの様に思われて、段々と気力も萎えて来る今日この頃……。
だがそんな時にでも、現状を受け入れ、自らのすべき事を全うすれば、制約のない時に見劣りしない素晴らしいパフォーマンスを発揮できる。自分の好きな道を深めることもできる。
そんな希望が、今春の選抜甲子園を通しての大阪桐蔭の野球から感じられた。

✦状況から浮かぶ仮説

甲子園の出場が決まっても練習試合はできず、球場入りもぎりぎりのスケジュール。ほぼ “ぶっつけ本番”でのトーナメントとなる。
平時における完全な野球は難しいだろう。複雑なことは失敗しやすいだろう。
準々決勝の『対 市立和歌山戦』を見終えて、恐らくは2つの指針があったのではないかと、僕は考えた。

1、試合前には、一人で打ち込める練習を心ゆくまでやり抜く。
2、試合に入ったら、決めごとの数は最小限にとどめ、替わりにそれを全員で強く共有し、そこだけに意識を固め徹底する。


1については、“自らのスイングを作り上げる”こと。
2については、強くまっすぐに打ち返すこと、見送るべきボールはしっかり見送ること、常に次の塁を窺うこと、“一つの作戦には一つの目的”を据えて確実に実現すること、ボールは腰を落として補球しキビキビと送球すること。
と言った辺りが、試合の中での選手たちの動きからは見て取れた。

✦凄みを増した伝統のスイング

大阪桐蔭ファンなら馴染みのある、バッターボックスに立つだけで体現される威圧的な構え。ベース音のよく効いたブラスバンドの演奏が、その迫力を後押しする。
腰をグッと落とし込んで、おもむろに足をスッと上げて、強い体幹で軸を残したまま、足腰のバネを効かせて振り抜く。
球は、投球の威力を根こそぎ刈り取られた様に、まるで最初から無力だったかの様に、スイングの軌道に乗ってまっすぐに鋭く弾き返される。
根尾・藤原(君)の大阪桐蔭の時は、そのスイングが直に見たくて甲子園にも行った。“素振りにも殺気を込めているのではないか”と思わせられるほどの迫力があった。

今年の大阪桐蔭打線は、1番から9番までが、この威圧感を顕に漂わせていた。中止になった練習試合の分だけ、空いた時間があったハズだ。そこで彼らは、どれ程の時を、どれ程の濃度でバットを振り続けて来たのだろうか。

✦“見”の威圧

次に目を引いたのが “ボールに対する目利き”、即ちボールの見送り方だった。
最後まで目を切らず、ややもすれば身体の軸を球筋に寄せて、バットを振ることだけを堪える。
少なかった実戦を取り返すかの様に、一人一人が、一球一球喰らい付くようにしてボールを見ている。
そうした仕草を何度も見続けている内に、見送るという所作は、スイングをするのと同じくらい“能動的な行為”に思われた。

✦残像の蓄積、波状の威圧

威圧的な構えから繰り出される強烈なスイングと、腰の座った能動的な見極め。
相手投手は、投げられる箇所が段々となくなっていく。投球が狭まる。痛打されない領域を探しながら、鮮烈な残像に追い込まれていく。
それでもストライク・ゾーンに投げ込めなければ、フォアボールになる。塁上が埋まって、ストライク・コースを投げさせられて、タイムリーヒットになる。ホームランが更なる大量得点を生む。

意識を共有した個々の連なりは、全体の波動になっている。野球がチーム・スポーツであることを立証して行く。
対峙した投手たちは軒並み、打たれたと言うよりかは、一回り大きな何かに呑み込まれたかの様に思われた。

✦犠打の心構え

強打のみならず、バントも印象に残った。
作戦は隠さない。最初からオーソドックスに構え、ここでもやはり腰を落とす。三塁線上ぎりぎりを狙うというよりかは、“ここに転がせばランナーの進塁は叶う”というラインに綺麗に転がす。
それを、殆ど初球できっちりと決める。

送りバントが予想され得るケースでは、相手側の守備に微かな綻びが生じない限りバントヒットにはならない。
大阪桐蔭は相手のミスを期待しない。“自分たちの最善”を、最も堅実に遂行する。
他のチームではボールにバットを当てながら一塁に走り出す選手が多いなか、彼らは、想定のラインにボールを転がしてから、つまりは任務を遂行してから、一塁に向かって走り出していた。
送りバントで、あわよくば自分も生きようとはしなかった。

✦現された誠心誠意

人間が成長するためには、大きく分けて2つのやり方があるだろう。
相手との関連で体得できること。そして、自分一人でできること。
その片翼がもがれた様な数年間。思えば今大会の選手たちは全員、“ずっとコロナ制約の中で”高校生活を過ごしてきたことになる。
厳しい、高校生には気の毒と思われる裁断も多々ある状況の中で、彼らは試練に打ち克ち、それに耐え抜いた。
最善と言って良いであろう “舞台に立つための準備”をした。
そしてその晴れ舞台を迎えた選手たちに、監督は言った。
「心から野球をしよう」

調整不足などのせいもあって本塁打のなかなか出なかった今大会にあって、試合数は一つ少ないにも関わらず(2回戦は不戦勝)、清原・桑田(KKコンビ)のPL学園の有していた1大会最多本塁打記録を、およそ40年ぶりに3本も更新した(8本→11本)。

誠実な野球が、その結実として大きな大きな花を咲かせた。
“試合に勝るとも劣らない練習”というのは確かにある様だ。
それを示す準々決勝の後の勝利監督インタビューでの一言。
「明日一日、休養日ということで、練習ができますんでね。えぇ、しっかり練習して、一日やって強くなって、準決勝に挑みたいと思います。ありがとうございました」

野咲 蓮
メッセージ・コンサルタント(人物・企業のリプロデュース) 著書:人間を見つめる希望のAI論(幻冬舎刊)


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