侍タイムスリッパーは映画館で見るべきである。
ネタバレなし感想
侍タイムスリッパーってどんな映画?
幕末の侍があろうことか時代劇撮影所にタイムスリップ、
「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描く。
コメディでありながら人間ドラマ、
そして手に汗握るチャンバラ活劇でもある。
※公式HPより引用。
見どころは?
テンポが非常に良くて、魅せたいところとカットするところが非常にきれいにまとまいる。脚本もわかりやすく非常に見てて気持ちのいい映画。
なんといっても主人公である高坂新左衛門(以下新さん)が見せるコメディの表情、日常の表情、侍としての矜持を貫く表情、移り変わりが非常に魅力的で感情移入しやすく、ラストシーンへと引き込まれる。役者の演技とカメラワークが非常に魅力的な作品でした。
映画館で見るべきって本当?
これに関してはネタバレを書かないと説明できない。
でも安心してほしい、普段映画なんてあんまりいかない一般人がNote書こうと思ったぐらいには面白くていい映画。
休日の2時間(映画館に足を運ぶのまで含めたら半日ぐらいだろうか)と幾ばくかのお金をかける価値は十二分にあるので、信じて映画館に走ろう。
以下しばらく空白
本題、ネタバレありでの感想と考察
映画館で見るべき、むしろ映画館でなくてはこの映画は面白くない。
ここまで言い切れるぐらいには面白い。
一言でいうと、ラストシーンの空気感。
映画館特有の音響と観客の息遣いが生み出す、独特の空気感というものは
何よりも映画館でしか存在しえない、そんなひと時であった。
恐らく家に人を集めてみたとしても同じようには感じとることはできないだろう。映画館という非日常と短くない時間同じ場にいた他人がいたからこそ成せる圧巻のラストシーンであった。
ラストシーンと真剣勝負
本作で最も象徴的で本作の肝であるラストシーンについて語ろう。
恐らく5分程度だろうか、ラストの新さんと敵役(実際の映画内映画では主役)の風見恭一郎(以下風見)の真剣を使った殺陣……否、死合。
その死合が始まるとき、これまで動き続けてきた時が止まる。長尺の静止。
実際は1分程度だろうか、体感は10分ぐらいあった静止。
この時、会場はしんと静まりかえった。
画面に映る二人は確かにそこに存在し、二人の息遣いを感じ取れた。
周りにいる映画館の観客たちは、その二人を撮影しているスタッフとシンクロ、そして自分自身もその一員として二人の死合を見届ける、見届け人であった。
本当にあの瞬間は映画館の音響とこれまでの演出、ストーリー運びによって生み出された計算された一体感がそこにあった。
そして動き出すと、真剣を使う=死と隣り合わせの本気の手合い。
今まで積み重ねて見せてきた殺陣とは違う、生死をかけた打ち合い、じりじりと命を削るやり取りと、結末がわからない刃のやり取りに観客全体が飲まれる。そして風見の刀を新さんが打ち落とし、決着の時。
画面に映し出されたのは、風見の血しぶきと斬られ役であった新さんが人を切ったシーン。最後に無念の姿を見せた風見と何処となく悲しさを帯びた新さんがそこに絵が描かれていた
が、
実は映画内映画としてのラストシーンでそこはフィクション。
ここで緊迫感が説かれ安堵の空気が会場を包む。
実際は、風見を切り伏せることはできず、自身を情けないと泣き崩れていた新さん。それに対して精一杯今できることをやったからよいではないかという風見が語り掛け、自身が生きる意味、そして時代劇というものに対する考えを奇妙な友情で語りあった二人が描かれ、映画のラストシーンとしての撮影に戻る。あくる日、いつもの調子で斬られ役として第二の人生を歩む新さんが描かれ物語は幕を閉じるのでした。
あの空気感はいかにして生まれたのか考えてみる
ということでラスト10分。この為だけに積み重ねた物語について語っていこうと思う。
ただ、これは素人の考えであり、あくまで個人の感想である。
実際に見た人それぞれに思いはあるだろうし、こういう考えがあるんだなぐらいの気持ちで読んでもらえると幸いである。
映画を見終わり、帰り道で記憶を辿り租借し思い返すと、非常に間の使い方がうまい作品だなと感じた。
本作は全体を通してすごくテンポよく話が進んでいく。
新さんが斬られ役として活躍するところはほぼダイジェストといっても過言ではない。まあそりゃ主役じゃないしセリフも少ないからしょうがないといえばそうなのだが……
その中でここ笑いどころですよ、というところは若干テンポが下がったりセリフではなく動きで見せていくポイントが非常に多かったと思う。
恐らく無意識下でこのスタート&ストップ(あるいはhigh&low)のリズムを刻み込まれていたのだと感じる。
ラストシーンの直前から見直したらたぶんダメ。ここまでの積み重ねであのシーンの生き遣い(誤字じゃないよ)を感じ取れるように訓練させられていたと感じる。
後は侍の魂ともいえる「刀」=真剣というものを非常に丁寧に短時間で描いていた。
初めて竹光(竹でできた演技用の模造刀)を握ったときに軽いという違和感を覚えた動き、殺陣の稽古をする中でやはり重量感に違和感を覚えている描写。重量感を出すための試行錯誤が見えるシーン。真剣を使用していて稽古を行うときの迫力。
真剣と竹光の大きな違い、人を殺せるか否か、命の重みを確かに描いていた。
これもラストシーンでの重厚感へとつながる伏線であった。
この間の使い方と刀への描写がラストのあの空気感へとつながったいたのだと私は感じた。
イマイチな点もまぁあるよ。
すごい映画であることは間違いないが、話の部分については目の肥えた現代人基準で並み程度かなぁと感じることは多かった。
尺の都合もあるから仕方ない部分といえばまあそうなんだが
30年も役者やるのに身元不明って無理がない?とか
助監督の女の子の夢はなんかとってつけた感あるなぁとか
恋愛描写がギャグっぽいからそもそも必要?とか
風見さんからの話を受けるならちゃんとそこは描いてくれよとか
それなりに気になる部分もありました。
良い作品には魂が宿り、哲学を感じ取れる。
それを差し置いて、侍としての生き方、命のやり取り、そして人としての生き様を描くという強いメッセージ、哲学といっていいものを感じ取れた。
映画内でも言われてたこっちも命かけて映画とってんだはおそらく監督自身の叫びなのではないかなと書いてて思う。
自主製作で人手も少なく、おそらく予算も潤沢とは言えない中で描かれた本作。単館上映から口コミで広まり話題となる力はある。
恐らくその力の源は、スタッフロールの隙間を埋めるかのごとく刻まれた監督の名前とその意志によって込められた魂から生まれたものだろう。
最後に
長々と書いてみたが、言いたいことは一つ。
配給がそろそろ終わりそうな雰囲気がしているので早く映画館で見てくれ。
たぶん、レンタルとか配信とかに落ちたらこの作品は数多あるちょっと面白いぐらいの邦画でしかなくなってしまう。
侍が未来に行ってしまう前に映画館で現代で生きることになってしまった侍の生き様と魂を是非感じ取ってほしい。