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さえぎる、うつす、とおす(スクリーン・01)

 私の趣味は辞書を読むことです。読むと言うよりも眺めていると言ったほうがいいかもしれません。辞書をぱらぱらめくって、気になるページをぼっーっと見ていると時の経つのを忘れます。

 国語辞典では「うつる」「うつす」「かげ」をよく訪ねます。訪ねるたびに新しい発見があるのは、忘れっぽいせいでしょう。

 英和辞典でよく訪ねるのは「figure」「sign」「a」ですが、このところよく会いに行くのは「screen」です。

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 screen には、大きく分けると三つの流れがあります。さえぎる、うつす、とおす――。今回は、その三つの流れに沿って screen という語の日本語訳を並べてみます。

 ところで、英和辞典に載っているのは意味ではなく見出し語の日本語訳です。文字なのです。そもそも意味は見えません。

 英和辞典にかぎらず辞書に載っているのは意味ではなく、見出し語を言い換えた別の語であったり、見出し語を説明したフレーズや文であったりします。文字なのです。

 私は辞書に載っているのが意味ではなく文字であることに敏感でありたいし、できれば常に意識的でありたいと思っています。とはいえ、文字が文字であることを意識するのは難しいことです。きわめて難しいと言うべきでしょう。

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「リーダーズ英和辞典」(研究社)と「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)を参照すると以下の screen の日本語訳が目に付きます。

 1)さまたげるもの、さえぎるもの。ついたて、すだれ、びょうぶ、幕、とばり、障子、ふすま、仕切り、障壁、目隠し、遮蔽物、遮蔽、スクリーンプレー。おおい隠す、かくまう、かばう。

 2)うつすもの、うつされるもの。スクリーン、映写幕、銀幕、画面、映画。映画化する、脚色する、撮影する、網がけ・網どりする。

 3)とおすもの、ふるいにかけるもの。網、網戸、ふるい、編目、砂目、フィルター、百葉箱、審査制度、選択制度、選抜、スクリーニング。審査する、選抜する、排除する、除外する。

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 さまたげる、さえぎる、かくす、うつす、うつされる、とおす、ふるいにかける、すく、えらぶ。

 見ようによっては、あるいは言いようによっては、相反する身振りや動作が並んでいるところが興味深いです。

 さまたげながら、それでいて、とおしている。
 さえぎりながら、部分的にとおす。
 うつっているのは、かげだけ。
 これは、とおさないけど、あれは、とおす。

 このように、スクリーンという語のイメージは、なんだかすかすかして、どこか抜けています。まだらでまばら、テキトーで適当、いいかげんで好い加減。

 自分のことみたいで、親しみを覚えます。

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 人の作るものは人に似ている。人の作ったものに人は似ていく。そんなふうによく私は考えるのですが、スクリーンは人という存在のあり方に似ていると思います。とりわけ似ていると感じるのは意識です。

 これは、とおさないけど、あれは、とおす。
 まだらでまばら。
 うつっているのは、かげ。

 意識とはスクリーンではないでしょうか。目というか視覚機能もそうかもしれません。くっきりはっきり見えているようで、ゆがんでいたりぼやけている気が私にはします。

 こういうことは目が悪くなったり、認知機能が低下してくるとわかります。自分が信頼できない存在であると気づくのです。

 要するに、意識も目も、ふるいにかけてとおしているのです。何をって、世界を、森羅万象を、でしょうか。

 I screen therefore I am.

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 さまたげる、さえぎる、かくす、うつす、うつされる、とおす、ふるいにかける、すく、えらぶ。

 身のまわりを見ると、自分が広義のスクリーンと言えそうなものに満ちた世界に生きていることがわかります。

 まず今目の前にあるパソコンの画面というかモニターというか液晶ディスプレイがそうです。

 さえぎる、うつす、とおす。

 目の前にあるこの板状のものは、パソコンという機械の蓋も兼ねているし、蓋は本体を覆って守っています。この画面には文字や像がうつっていますが、液晶ディスプレイと呼ばれているくらいですから、光をとおしてもいるようです。

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 液晶と言えば、水晶体とレンズを連想します。レンズやレンズの役目を果たすものは、光――光と影の織りなす模様と言うべきでしょうか――をとおすことでふるいかけているようです。

 話が前後しますが、そう考えると、やっぱり目はスクリーンだという気がしてなりません。

 スクリーンでスクリーンを見る。おそらくそのスクリーンはこっちの目を見てもいる。

 目の前のスクリーンの上にはレンズらしきものが見えます。Big Brother is watching you. 私は手のひらに載るスクリーンも持っています。もちろん、レンズ付きです。

 スクリーンによるスクリーンのためのスクリーン。

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 そのほか、障子戸、ガラス戸、網戸、壁、カーテン、ふすま、ついたてといったスクリーンが私の身近にあります。

 スクリーンにそなわった三つの機能がわかりすいのは、なんと言ってもガラスでしょう。

 窓ガラスは、雨風を遮断し(さまたげる)、外の様子がうかがえるし(とおす)、外が暗いと鏡にもなる(うつす)。

 どう考えても、screen です。

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