片づけと買い物から思い出したこと
年の瀬なので家の片づけをする。大掃除というと少し大げさのような気がしてならないので片づけとしておこう。自分の部屋を見渡し,私物を適切な場所にしまい,要らない印刷物を処分する。こうして言葉にしてみると,確かに大掃除とのたまうほど大がかりなものではない。しかし,紛れもなく年末恒例の生活行為である。
自分の私物において適切な場所に整理整頓をすべきものの大半は文庫本だ。市立図書館に置いていない小説は本屋で,時には古本屋で探すことが多い。ちなみに,古本屋とはブックオフのことである。地方に格式ある古本屋はほぼ存在しないものだ。悲しい事実だが,ここは決して神保町ではない。悲しい。
ダンス・ダンス・ダンス。これは今年の二月頃にブックオフにて購入したものだ。流行りの感染症のせいで市立図書館が閉館していた時期に本屋を渡り歩いてやっと購入できた作品だった。(どの本屋にでも置いてありそうな有名な作品ではあったが,なぜか見つからなかったのだ) 上下巻合わせるとそれなりに厚い部類に入る長編小説で,それぞれ別の店舗で入手した。南の島,謎の少女,芸術家。
当時のことである。―下巻を読もうとした時だった。真ん中のページから十センチ四方の紙が挟まっていることに気が付いた。厚めの広告の裏面か,カレンダーの裏面か,そんなところだろう。小さく数字が並んでいる。三桁とか四桁の数字が足し算の筆算のように並んでいる。この数字はなんだろうか。誰がどのつもりで書き起こしたものなんだろうか。
母親に何気なくこのメモらしきものを見せると,「預金算じゃない?」と軽く返された。預金算。知らない誰かが,通帳を見返しながら書いたもの。羅列していた数字を預金算として考えたときに,その額が大きいのか小さいのかは思い出せない。ただ,個人の財産というよりは漠然とした資本主義に重きを置く印象の村上春樹の作品の中に預金算を思わせるメモが挟まれていたことは非常に興味深いことだった。
片付けの時に見返したダンス・ダンス・ダンスの下巻にはもう既にメモは無かった。おそらく,メモを見つけてすぐに捨ててしまったのだろう。中古で本を購入することはあまり推奨されることではないが,中古の本を購入すると,時に不思議な出来事が起こるものだ。
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