あーあ、今日もまた人知れずいいことした。 さぞやビールが旨かろう。

銀行でのひと悶着…じゃなくて、ひと暴れ…、じゃなくて、面倒くさいひと用事が終わって、買い物しようと街まで出かけたら、財布を忘れて愉快なサザエさん！みんなが笑ってるぅ。お日様も笑ってるぅ…　るーるるるるっるぅ〜。
って、シドニーはこのところ雨模様で、お天道様はちっともお顔をお出しにならねえ。

さてさておやつは何にしようかなと、キリリとしまった表情で今にもチャツウッドの街をブラつこうかとしたその時、後ろから慌ただしい空気がぐーんと押し寄せてくるのを感じた。なになになに？？と思って振り向くと、制服姿の男子高校生が物凄いスピードで走ってくるではないか。

「おお、こええ…」と慌てて道を譲ると、その後ろから今度は鬼のような顔のようなポリスマンが、これまたビックリするような威圧感でドスドスドスと走ってくる。

「なんだなんだなんだなんだ？捕物か？」
という思いが頭をかすめようとしたそのとき、
ポリスレディ（でいいのか？)がゼイゼイいいながら遅れて駆けてきた。
完全に息が切れている。日頃の鍛錬のたまものだ。

学生は脇目もふらずに怒涛のごとく横断歩道を突き抜けたが、それに勝るとも劣らぬ迫力でポリースマンが追う。二人共結構速い。

しかしこのままじゃ、やもすれば逃げおおせてしまう。うーん、こんなところで何なのだが、ちなみに「やもすれば」は「ややもすれば」が正しく、漢字を当てると「動もすれば」と書く。

仕方がないから俺は例の「チカラ」を使うことにした。左手の人差し指と中指の二本を揃えて眉間に当て、いつものように念じる。

以前はショッカー（書っ家ー)に変身してからじゃないと使えなかったが、血のにじむような修行のすゑに、普段のままでもチカラを使える能力を得たのだ。主に信号待ちのときの赤信号を青に変えたり、フードコードの３チョイスのランチを前の人より多めによそってもらったりしている。

すると走っている高校生の足が絡まってスピードが落ちる。そこですかさず後ろからのポリスーマンのアタックアンドキャッチ。そのまま店の脇の壁に押し付けられて見事に御用。

ポリスレーディも漸く追いついてゼイゼイ言いながら高校生のリュックをひったくり、少し距離をとって中身を調べ始めた。とすると罪状は万引きの現行犯なのか。

しかし不思議だ。こんなTVドラマみたいな捕物はめったに見られるものではないのに、街ゆく人たちは我関せずのオーラを纏って歩いている。携帯で写真を撮っている者もいない。

待てよ。
もしかして、これって誰にも見えていないのか。
俺だけに見えている異次元の出来事ってことか？
未来に起こっているのことが現在にトリップしたのか、過去が未来に現れたか。はたまたパラレルワールドから横滑りしてきたのか。
うーん、どれもしょっちゅうあることだからな。

高校生は既にカンネンしたらしく、雨で濡れた地面に座り込んでしまった。ポーリスマンはそれこそ仁王立ちで睨んでいる。かなり恐い。見ている俺の方がなんだか白状しそうだ。

どの時代の者かは分からぬが、とにかくこの高校生もこれに懲りて悪事はやめるだろう。

そんなことより、ここでの問題はデブデブで走れもしないポリースレディだな。俺の例のチカラで毎日10km走るようにさせよう。3か月もしたらナイスバディになっちゃうな。

あーあ、今日もまた人知れずいいことした。
さぞやビールが旨かろう。

※写真はデザート