一発屋芸人の不本意な日常(少しご紹介③)
かつて、「最高月収を発表する」という企画がバラエティー界を席巻した時代があった。
文字通り、一発屋と呼ばれるジャンルの芸人が、最も売れていた頃のギャラを公開するというもので、
「最高月収は……○○万円です!!」
と過去の栄光、懐事情を自ら暴露するという、なんとも下衆な場面が数多くのテレビで繰り広げられたのである。
当時、筆者が釈然としなかったのは、一発屋ではない出演者、即ち、番組のレギュラー陣が、
「え―――――――――!!!」
と驚愕の声をあげること。
いや、彼らはそれぞれの役割、仕事としてリアクションしているだけ。
むしろ筆者たちを“おいしく”するためにやってくれており、お門違いは百も承知だが、
(ウソつけぇーーー!!)
(アンタたちの方が、山ほど稼いでるだろ!!)
とふと頭を過ってしまう。
筆者の経験上、彼らの方が、我々の「最高」などより「今まさに」、「もっと」、そしておそらくは「これから先何年にもわたって」稼ぐのは間違いないのだ。
正直なところ、
「え―――!!!」
はコチラの台詞なのである。
大抵の場合、この手の企画は、最高月収の件(くだり)のあと今現在の月収に言及し、当時との落差、落ちぶれ具合を堪能していただくという流れを経て幕を閉じる。
以前、とある映画のPRイベントに出席した際も、取材に訪れた記者の方々と同様のやりとりがなされた。
一発屋芸人としての現状を聞かれた相方が、
「僕なんて先月18万円でしたよ~!」
とトホホといった表情でこぼす。
コンビとはいえ“ピン仕事”、単独での活動もあるので、給料は同じ額面ではなかったが、
(えっ!?そうなの?)
と筆者も多少衝撃を受けた。
彼なりに自虐的な線を狙った発言だったのだと思う。
しかし、その意図に反し、
「一発屋のくせに18万は貰いすぎだ!」
とネット上の極一部の方々から後日叩かれるという憂き目に遭った相方……不憫である。
どうやら、世の中には、我々一発屋など全てを失っていて当然、それでなければ到底納得がいかぬという人々が存在するようだ。
この話が一層悲しみを帯びるのは、相方の当時の「先月」は実際には17万円だったということ。
「本当はもっと稼いでるけど、それでは世間様の望む一発屋像にそぐわないので、少なく言いました」
ではなく、むしろ1万円上乗せし、見栄を張っていたのである。
彼が1万円の“粉飾”で守ろうとしたものの正体、それを、プライドと呼んで良いのか……筆者には分からない。