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法政大学 沖縄文化研究所 「沖縄を考える」公開講座

 過日、12月6日(金)、法政大学沖縄文化研究所『沖縄を考える B 』元朝日新聞記者・ジャーナリスト・川端俊一氏『南西諸島「軍事要塞化」の現状と背景』公開講座へ。

 ※以下、講演にはない私見を含みますことをお断りします。

 現在、わが国の防衛政策は、冷戦時代の対ソから対中に主軸を置き、防衛戦線を北から南西に移行、想定している。これを、いわゆる「南西シフト」と呼ぶ。これに伴い、南西諸島(※)の軍事要塞化が近年急ピッチで進んでおり、同講座は、川端氏の当該安全保障最先端の取材報告だった。

※「南西諸島」は差別的な用語であり「琉球弧」とすべしとの見解もあるが、ここでは便宜上一般的と思われる同用語を使用する。

 沖縄県の石垣島、与那国島、鹿児島県の馬毛島などの自衛隊配備は、当然の如く環境破壊、戦場になることの懸念などから島の人々の賛否両論、分断を起こしている。

 石垣島では、住民有志が反対署名を募り、住民の約2分の1もの署名が集まるも議会はこれを否決、複数提起された住民投票の実施を求める行政訴訟も敗訴。住民が充分に議論、意思を示す場がないまま強行されている。与那国島では「レゾリュート・ドラゴン24」なる陸自と米海兵隊の共同訓練が行われ、小島の馬毛島では米軍再編交付金という「アメ」をぶら下げ、小島丸ごと要塞化、希少なマゲシカなどの野生動物は危機にさらされ、いわゆる「タッチアンドゴー」訓練による騒音被害も懸念される。

 これらの状況は、島々の自治、民主主義を踏み荒らすものであると川端氏は述べる。

 民主主義は、単なる多数決の論理ではなく、結論を導くに至る手続き保障でもあることは周知のことだ。さまざまな意見を自由に出し合う場が設けられ、結果的に多数意見が採用されても、少数意見にも誠実に耳を傾け、調整がなされ、双方が完全とはいかずも相応の納得感を得た上での結論を求めるものである。

 民主主義の軽視は、沖縄の辺野古、原発誘致など、わが国のさまざまな案件で指摘することができるが、近年の南西諸島の要塞化に関しては際立っている。

 適切な情報開示や大手メディアの報道も少なく、国民がよく分からないまま着々と進められる要塞化に疑念を禁じ得ない。

 川端氏によれば、米国は安全保障に関する情報をすべてではないもののインターネット上で開示しており、国民はそれを簡単に見ることができるという。わが国の政府は、軍事機密という名の下にできるだけ国民に知らせたくないようだ。

 それはなぜか。前者は国民の利益のためだから堂々と開示することができるのであり、後者は実は日本国民の利益ではなく、米国の利益が第一のものであるから開示することができないのではないかという疑念が膨らむ。

 実際、米国の作戦構想は、いざ有事となれば、沖縄のみならず日本全体が「捨て石」となって米軍の主戦力は前線から逃げていくものらしい。要塞化された島々のみならず、日本国民全体に関わる重大事項として、ひとり一人が自分事として考えなければならない。どこか遠い、小さな島々の出来事ではない。

 そもそも、莫大な国民の血税を注いで今、軍事要塞化が本当に必要なのかどうかも疑問だ。「抑止力」「地政学的見地」「台湾有事」といったぼんやりとした言葉で納得感を得たり、必要以上に不安感を煽られたりしていないか。言葉の中身を今一度考えたい。

 「抑止力」のためには軍拡が必要だという「識者」がいるが、こちらが軍拡すれば、あちらも軍拡と緊張関係が高まる「安全保障のジレンマ」については考え及ばないか。「地政学的見地」とは、米軍、陸海空部隊の有事の際のどのような具体的な動きを想定してのことなのか。「台湾有事」の現実味はどれほどのものなのか。

 情報が少ない中、川端氏の地道な現地取材に基づくレポートは、これらを考える有益な情報として貴重なものだった。

 同講座は年内あと2回開催予定。沖縄の軍事問題のみならず、文化芸能などさまざまな分野の視点の講座が設けられており、学生の単位取得講座であるとともに一般に無料公開されているという企画である。前期後期に分かれて、毎年行われている。



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