マガジンのカバー画像

カタリゴト

4
アンソロジーに投稿したものや、ちょっとした短編
運営しているクリエイター

#国語辞典

言葉の森(ショートストーリー)

「君は、偽善者だね」  夢の底から、私は必至で水面へ顔を出す。  心臓が全速力で走った後みたいに苦しい。  毛布を強く握りすぎて爪が痛かった。  あの日以来、夢で何度その言葉に貫かれただろう。  あの日、国語辞典くんが放った言葉は、棘みたいにずっと私に刺さったままだ。  小学三年生の時だった。 「あーちゃん、ごめん。今日はエミちゃんと帰るね!」  昨日もそう言って、サキちゃんはカナちゃんと帰った。 「ううん、大丈夫」  どうにか口だけは笑う。 「じゃーねー、明日は一緒に帰ろう