「家族クエストッ‼︎」(1)
「一体、どうするんだよ、これ…」
眼前の光景に目をやり、茫然と呟く。舞い上がる砂埃の中に浮かぶたくさんの黒い影を見て、また目眩がしてきた。
事の始まりは一枚の張り紙だ。
ー 勇者ギルド「銀の猫」元サブマス
求)魔王城までのパーティー
当方、女騎士 ー
たかが張り紙一枚で、誰がこんなに大勢集まると思うだろう。この中から、たった数名を選ばなければいけないのかと考えると、頭が痛くなってくる。
「はぁ…一体、これ、どうするんだよ…」
大きなため息が口から漏れる。
が、いつまでも頭を抱えていても仕方がない。
そこで、この元凶を作った私は、大鉈を振るうことにした。
ーーーーー
「そんな条件があるなら、最初から書いておけよな!」
「そんなの、聞いてないぞ!」
そんな怒鳴り声を口々に浴びせながら、それでも私の前を通り過ぎ、さっきまでの集団が次々に移動していく。
この世界の冒険者たちは、忙しい。
おいしい話があるなら、どんどん次へ行く。
自分たちには、不利な条件だと分かって、あっという間に解散していってくれた。そこだけは、本当にありがたい。
彼らをあっという間に解散させた条件は、ただ一つ。
「自分で料理が作れること」
これだけだ。
この世界では、職種という物が本当に重要で、冒険者たちを始め、みな自分たちの職業に誇りを持っている。
つまり、一つの職を極めることが大事なのだ。
剣士は、剣にだけ精通していればいいし、魔法使いは魔法にだけ特化していれば良い。
町には、それぞれの職人がたくさんいて、服(装備)を作る人、武器を作る人、それを売る人、と分かれているのだ。
当たり前と言えば当たり前かもしれないが、そうなってくると、野営をする勇者パーティーは自然と大所帯になってくる。
勇者は料理を作れないから料理人を連れて行くし、傷を癒すための聖職者も連れて行かなくてはいけない。
服が破れた時のために、裁縫士を連れているパーティーさえあると聞く。
そんなことすらも普通のこの世界で、
「料理も出来る人」
なんて条件を付けるのは、ちょっと意地悪なことだったかもしれない。
でも、あの人数を一瞬で捌き切るためには、これしか思いつかなかったのだ。
最悪の場合、誰も残らない可能性だってある。
どんどん私の前を通り過ぎていく人たちを見ながら、一体何人が残るだろう、もし誰もいなくなったら、また募集の掛け直しだな、などと、とりとめのない思いがよぎる。
どんな文章にすれば、ちゃんとした人物が集まるのだろう、とうっすら悩みかけた時、数人の影が動かずに、じっとこちらを見ているのに気がついた。
(つづく)
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