推しのいる日々ーその29 推しのグラミー
推しは強運だった。三月後半にコロナに感染したにもかかわらず一週間で無事に復調して隔離解除となり、四月二日には韓国を出国して滑り込みでグラミー賞授賞式に間に合ったのだ。私は奇跡を見たような気がした。
いや、実際奇跡だったんじゃないかと思う。
実は彼よりも先に渡米したメンバーの一人が、渡米後のPCR検査で陽性判定を受けた。そのメンバーもその後症状が悪化することなく5日間(アメリカではそれで済むらしい)の自主隔離だけで済んだのだ。二人が間に合うか間に合わないのか、私もずっとハラハラしながら見ていた。
そして、授賞式当日。グループは見事にショーアップされたそれは素晴らしいステージを見せてくれた。もう何十回となくステージで見た彼らの大ヒット曲ではあるけれど、久しぶりに相当気合の入った作り込みようだった。とりわけ見事だったのは曲の途中に挿入されたダンスブレイクタイムで、レーザー光線の隙間を縫うように通っていったかと思うと、ジャケットを脱いでのダンスプレイ。これは抜群にカッコ良かった(つい、何回も再生してしまった。)。
私の推しであるK君☆は緊張のあまり舞台に上がる際に、階段でつまづいて転びそうになるという彼にしては珍しいミスをしたけれど、ちょっと体のバランスを崩したもののすぐに立て直してパフォーマンスに入った。怪我がなくて本当によかった。
彼のミスにはちょっとした兆候があった。こうした授賞式の常でステージに上がる前にはレッドカーペットで様々なメディアから取材を受ける。化粧でうまく隠してはいたけれど、K君☆の目の下にはかなりはっきりと隈ができているのに私は気づいていた。時差のせいか、それとも晴れ舞台に上がるという興奮のせいなのか、おそらくはよく眠れていないんだろうなぁと思っていたのだ。
全てが終わった数時間後にはメンバー全員によるVLIVEが行われて内幕が明かされた。今回のパフォーマンスは薄氷を踏むような感じであったらしい。K君☆は隔離中でメンバーと一緒に振り付けを受けることができず、全員がそろってこのダンスを練習したのは、授賞式前日のリハーサルが初めてだったそうだ。しかも三回中二回はメンバーの誰かがどこかで失敗していたのだという。
本番ではダンスブレイクのジャケットプレイで満面の笑みを浮かべてみせたK君☆も内心ではかなりヒヤヒヤであったことだろう。そんな素振りは微塵も見せなかった。いやー、度胸があるというか腹が座っているというか、流石です。恐れ入りました。
グラミー賞授賞式は現地ラスベガスでは日曜の夜に行われた。その週末から二週連続で彼らはコンサートを行った。場所はアレジアントスタジアム。アメリカン・フットボールのラスベガス・レイダースというチームのホームスタジアムで、屋内型のドーム球場なんだそうだ。金・土の夜を二週続けて、というスケジュールはちょっと意外だった。NFLって今オフシーズンなんだっけ?
一回で5万人、4日間のコンサートで20万枚というチケットは瞬殺だったそうだ。セットリストは3月のソウルとほぼ同じであるらしい。「同じなら見る必要ないじゃない」という理屈はエンタメには通じない。ライブは一回ごとに違うのだ。叶うものなら全部見たいものだが、今回はラスト、4回目のコンサートがライブ配信されることになった。
ありがたいことだ。私のようにどこにも出かけず家に引きこもっているような人間でも推しがラスベガスでスポットライトを浴びている姿が見られるのだから。
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