FACE of NOAH~2024.11.2『宮脇純太vsYO-HEY』~
はじめに
2024.9.8、私は渋谷で行われた写真展・【PHOTO THE LIVE! 2024】の会場にいた。
『プロレスリング・ノア×宮木和佳子 共同開催 写真展』と銘打たれた12日間の会期中、写真展では様々な選手イベントが行われた。
上記の発言は、この日行われたトークショー・『宮木と宮脇』に出演した宮脇純太が、イベントの最後に発した一言である。
普段、私の方から選手のトークイベントに出向く機会なんて中々無いのだけれども、諸々の要因が重なって、このトークショーに足を運んだのである。
最大の決め手は、写真展主宰の告知ツイートだった。
私の中にある宮脇純太という選手のイメージは、【真面目】とか【真っ直ぐ】という言葉に集約される。
2023年1月に海外遠征から凱旋帰国を果たし、2度目の海外遠征⇒帰国の際、自身のバックボーンでもある柔道をベースにしたファイトスタイルから、ルチャやジャベを取り入れたモデルチェンジに取り組んだり、
試合でタッグを組んだパートナーが不慮の怪我で長期離脱した時に、人知れず責任を抱え込んだり、
弟子入りした先輩レスラーから「腹筋を割れ」と厳命された時も、しっかり腹筋を割って肉体改造を果たしたりしたことが、その主な理由である。
だからこそ、トークショーの時の宮脇の話しっぷりを見て、私は驚きを隠せなかった。
所謂、武勇伝的な語り方は皆無だったにもかかわらず、「何故、この面白さをリング上で今まで隠していたのだろうか…?」と感じてしまうほど、彼の語る話が面白い。
そんな面白いトークショー中に、「プロレスを辞めたいと思った事は一度も無かった」という芯の強さだったり、「NOAH Jrで生え抜きは僕しかいない」というNOAH生え抜きJrの矜持だったりを垣間見せるギャップも堪らない。
気がつけば私は、宮脇純太という選手に対しての興味が一層強まっていた。
NOAH Jrの顔として…
2024.9.30、新宿FACE。
メインイベントで行われた『YO-HEY&HAYATA vs 小峠篤司&大原はじめ』のGHC Jrタッグ王座戦で王座防衛を果たしたYO-HEYが、試合後にマイクを握った。
現GHC Jrヘビー級王者であるダガをリングに呼び込み、ダガがマイクを握った刹那、宮脇がリングに入ってYO-HEYからマイクを掻っ攫う。
この流れで、YO-HEYが他のJr選手を呼び込む形となり、Jrヘビー級王座の次期挑戦者を決めるJrトーナメントの開催に発展。
全8選手参加で行われる、Jrトーナメント1回戦の舞台で組まれたのが『宮脇純太vsYO-HEY』だった。
私自身、2017~2018年頃からNOAHの興行を観戦するようになって、第1試合の舞台で何度か見てきたカードでもある。
当時は第1試合とかで【若手の宮脇に胸を貸すYO-HEY】という構図ではあったけれど、そんな2人の一戦が大会のメインイベントで組まれることに、私自身感慨深いものを覚えていた。
GHC Jrヘビー級王座を欲して止まない2人の思惑が交錯する、トーナメント1回戦。
私には、この一戦が天王山のようにも映っていた…。
『宮脇純太vsYO-HEY』
2024.11.2横浜ラジアントホール。
Jrトーナメント準決勝進出4枠の残り1枠を決めるシチュエーションで、『宮脇純太vsYO-HEY』は行われることになった。
宮脇はこの一戦に向けてコスチュームを変更してきた。
2度目の凱旋帰国以降使ってきた青基調のロングタイツから、デビュー当初から宮脇の代名詞になっていたオレンジ色のショートタイツへの大幅なチェンジ。
とはいえ、元々宮脇はオレンジ色のショートタイツで試合をしていたので、"変化"というよりも"原点回帰"という表現が適切なのかもしれない。
試合開始前から「YO-HEY!」、「じゅんた!」という声援が客席中から木霊する。
リングと客席の距離感が非常に近いラジアントホールならば、この声援の凄さは何倍にも増していく。
そして、試合中は絶えず2人への声援が聞こえてきた。
序盤から積極果敢に仕掛ける宮脇。
そんな宮脇に、一発一発強烈な技を当てて反撃するYO-HEY。
数年前に見た、若手の教育マッチ的な雰囲気は最早皆無。
そこにはただ、世代を超えてNOAH Jrの頂点を目指すライバル同士の闘いがあった。
中盤以降は、YO-HEYの容赦ない攻めが宮脇に襲い掛かる。
コーナートップからの顔面Gを敢行しようとするYO-HEYを、間一髪で食い止めた宮脇もすかさず反撃に転じる。
試合終盤、起き上がって額を突き合わせた宮脇とYO-HEYの姿を見て、私は確信した。
「今日、この試合を現地で観に行って、心の底から良かった」と。
その後、YO-HEYがコーナートップからの顔面G、強烈なトラースキックで攻めるも、宮脇は3カウントを許さない。
フィニッシュに向けてギアを上げたYO-HEYに、宮脇も冷静に丸め込みで対処するもカウントは2。
その場飛びでYO-HEYが宮脇に顔面Gを決めたタイミングだった。
宮脇がYO-HEYをキャッチすると、その体勢から一本背負いの体勢でYO-HEYをマットに叩きつけたのである。
すかさず、宮脇が一本背負いの体勢からYO-HEYにファルコンアローを決めると、レフェリーの手によって、場内の悲鳴と共にカウント3が叩かれた。
それは、宮脇がキャリアで初めて、シングルでYO-HEYに勝利した瞬間でもあった。
若手時代から散々やられてきた先輩相手だからこそ、文句なしの内容で勝利を収めた事実が鮮明に光る。
試合後、宮脇はマイクを握った。
冒頭のトークショーで表明した「NOAH Jrの顔になる」宣言は、宮脇の中では1㎜も揺るがない信念でもあったのだ。
トークショーから約2ヶ月後、彼の信念が横浜のマイクにも繋がっていた瞬間に気付き、私は震えが止まらなかった。
その震えは、伏線を回収しようとする宮脇という漢の、ブレない信念と矜持に対するカッコ良さから来ていたのだと私は思う。
まとめ
"FACE of NOAH"
EitaがNOAH所属になる以前より、「NOAH Jrの顔になる」というフレーズを度々使ってきた事例はあるものの、その強い意思表示を生え抜きのJr選手が表明した事は大きい。
一時期、選手の大量離脱に伴い迎えた冬のNOAHを、他団体からNOAHに入って支えた選手がいるからこそ、NOAH Jrは今も続いている。
そこにようやく、ライバル視されるだけの生え抜き選手が、実力を以て入ってきた。
この事実が私は嬉しいのである。
今回のYO-HEY戦は、宮脇にとってキャリアのターニングポイントになりそうな一戦だったと私は感じている。
地道に取り組んできた肉体改造。
一時は封印していた柔道殺法とオレンジ色の復活。
YO-HEYのハイスピードにも負けず劣らずのロープワーク。
入場時に子供達へシャツをプレゼントするファンサービス。
前述したトークショーで見せた、明るくも面白いパーソラリティ。
試合終了後、退場口に直行することなく、物販ブースに向かってサイン会を開催した姿勢。
そして、その積み重ねの全てが、今ここで噛み合おうとしている予兆。
NOAH Jrの顔になるのは、決して簡単ではないだろう。
事実、対戦相手であるYO-HEYも、過去に何度もJrタッグ王座を戴冠してきた実力者でありながら、未だにJrヘビー級王座を獲得できていない。
残酷なまでに立ちはだかる難関…。
仮にもし宮脇がJrトーナメントを優勝したとしても、(一時陥落した時期はありながら)2023年から現在まで約1年にわたりベルトを保持してきた、現王者・ダガという高く険しい壁に挑まなければならない。
だからこそ、今の宮脇に吹いている追い風と確実性を増す実力に、私は期待せずにはいられないのだ。
この壁も越えてくれそうな期待感。
NOAH Jrにようやく吹いてきた橙色の新風を、私は秋の横浜で感じることが出来た。