原田大輔の60秒~私が引退試合を見て感じたことについて~
はじめに
1分間、60秒
この記事を読んでくださっている方の中に、もしかしたら「1分1秒を大事にしろ」みたいな言葉を、誰かしらから見聞きした経験はあるだろうか?
私にとって、1分という時間は非常に短く感じられてしまう。
その一方で、TVの15秒CMが4本(30秒でも2本)打てるくらいの情報を、1分には詰め込むことが出来る。
1分間で、人は何をどれだけ残せるか?
最近、そんなことを考えさせられる機会が私に訪れた。
全てを詰め込んだ、原田大輔の60秒
2023.3.9、プロレスリング・ノア後楽園ホール大会で行われた、原田大輔の引退試合。
精密検査により判明した首の負傷でドクターストップがかかり、突然の引退発表となった原田大輔。
現役ラストマッチは、医師立ち会いの下、【1分間限定のエキシビジョン形式】という制約の中で実施された。
私自身、5分1本勝負とか、エキシビジョンマッチ3分間とか、30分1本勝負でも1分以内に決着がついた試合とかは、過去に見た経験がある。
でも、最初から1分限定で行われる試合は初めて見た。
これまで、趣味の範疇でプロレス会場の客席から約4年ほど写真を撮ってきた私だけど、試合時間1分という限られた時間の中で、ここまで神経を研ぎ澄ませながら写真を撮った経験は未だかつて無かった。
プロレスファン注目のカードでも、大スターの引退興行でも…。
試合時間が残り10秒前後というところで、原田が必殺の片山ジャーマンスープレックスホールドの体勢に入るも、自らロックを解き、程なくして試合終了のゴング。
試合後、時間切れドローで手を上げられる原田と小峠を見て、「片山ジャーマンを決めなかったのは、この画の為だったからではないか」と勝手ながら解釈してしまう私がいた。
試合後、原田は小峠に感謝の意を伝えた。
あまりに短いと思われた、最後の1分間。
しかし、その1分間には、得意としていた素早い変則ロープワーク、強烈な腹部エルボー、自身の代名詞であるニーアッパーと、原田大輔の今までが間違いなく詰め込まれていた。
1分間は短いようでいて、其の実は長かった。
まさしくキャリアの総決算とも言うべき内容に、私は感動を禁じ得なかったのである…。
まとめ~私は貴方みたいになりたい~
2006年にデビューし、2013年のプロレスリング・ノア入団以降、同団体のJrヘビー級をトップに立って牽引し続けた原田大輔。
大会ポスターに刻まれた、原田の「オレみたいになるな!」という、同業のレスラーに対するメッセージ。
しかし、それを見て私は「貴方みたいになりたい」という言葉しか浮かんでこなかった。
ノアが実施していた定期健診で症状が発覚し、医師からドクターストップがかかっての引退。
この非情と言える告知にも、「生きる」事を選んだ原田に、大きな声援や拍手ではとても足りない称賛の気持ちしか出てこない。
リング禍という危険が伴う中にあって、今回のようなノアと原田の決断は、必ずや先進的事例として評価される事だろう。いや、評価されなければいけない。
プロレス業界としても先進的事例の一歩を踏み出す事が出来たのは、原田大輔という人の勇気なくして成り立たなかったと私は思うのだ。
そんな、真っ直ぐで勇気のある原田大輔みたいな人に、私はなりたい。
本当に、今までありがとうございました。
第2の"航海"が素晴らしいものになることを願って止みません…。