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組んで汲む"KUMU Kanazawa KISSA&Co."

12月の豪雪のタイミングで行った、日帰りの金沢。
頻繁に降る霰は身体にあたると痛いし、時折雷も鳴る。大通り以外は除雪されておらず、足をズボズボと雪に埋めながらしか歩けず体力の消耗が激しい。
温かいものを求めて入ったのが、"KUMU Kanazawa"の1階にあるティーサロンだ。
ここは築44年のオフィスビルをリノベーションしたホテルで2017年に完成。企画・プロデュースはリビタによるもの。空間のデザインは関祐介氏だ。
このホテルは「金沢の伝統を汲む場所」と位置づけられ、加賀百万石として栄えたこの地で育まれた工芸や芸術、それらの美意識を現代の工芸作家」アーティストらと共に未来へ繋いでいく拠点となる。
ティーサロン「KISSA&Co.」では、地元の金工作家の竹俣勇壱氏の制作による茶釜や茶器が並ぶ。他にも地元陶芸作家の作品やテキスタイルデザイナーの布地が使われるなど、その一貫したコンセプトが空間全体を引き締めている。

エントランス外観

1.誰にでも伝わる深さとシンプルさ

エントランスのカウンター
共有ラウンジ

近江市場や兼六園にも近くホテルや商店が並ぶメイン通りに位置し、通りからも1階の天井一面に施された木組みの気配が感じられる。そして建物内に入るとそれは圧倒的な存在感を放っている。
金沢は日本人のみならず、外国人にも人気の観光地だ。ホテルや店舗では、外国人をもてなすために日本らしさや伝統文化を内装デザインに取り入れるケースが多く見られる。
しかし、その表現が安直だったり、日本人が違和感を抱くような空間にたまに遭遇してしまう。
ここでは寺社仏閣でよく用いられる日本の伝統技術の木組みが天井に表現されている。シンプルだが、3層程の深さがありダクトや照明器具を格納する機能的な役割も果たしている。
その他の内装や家具はミニマルにまとめられているため、より天井部が際立っている。空間全体におけるインパクトはあるが、椅子に座って寛いだり会話する際にはさほど気にならない。
あらゆる人へシンプルに伝統文化を伝える術として、またその文化を汲む場所、という意図の掛け合わせも深みがあって面白い。
日本に複数拠点を持ち、海外でも活躍する関氏ならではのデザインだ。

2.アートが過去と未来をつなぐ

nerholによるアート
写真の展示

ホテルに限らず建築空間の中でアートが活用されるケースが増えている。アートは強いメッセージ性を持ちながら、空間にリズム感を生み出す。
共有部のアートは高山健太郎氏監修の基、金沢の伝統文化を汲み取ったアート作品が13点展示されている。
ティーサロンの壁にはnerholネルホルのアート作品が掲げてあり、空間に潤いを与えている。
ネルホルはグラフィックデザイナーでアイデアを「練る」田中氏と彫刻家で「彫る」飯田氏によるアーティストデュオだ。
何百枚もの写真を束にして彫り進め、その歪みやレイヤーにより多彩な表現が可能となっている。
客室フロアへ行けなかったのが残念だが、宿泊する際にはギャラリーのように点在する、金沢の文化を未来につなぐアートを楽しみたい。

3.建物の記憶との共存

既存建物の名残
室内からの眺め

リノベーションでは新たに手を加える部分と既存建物の表情を残す部分とのバランスが全体の印象に影響を与える。
ここでは天井を際立たせるために、床や壁は最低限の補修としている。壁ははつった部分の断面が露わになっているのも空間を構成する味わいになっている。
また円形にくり抜かれた管理室の窓と御影石のコロンとしたカウンターなど当時オフィスビルの特徴的な意匠も残されている。
新たなコンセプトに基づいたデザインと既存の意匠が上手く共存させるのは難しいが、リノベーション空間ならではの楽しみでもある。


抹茶ときんつば

往復5時間かけて移動して、金沢なのに豪雪でほぼ街の景色も見られず。次回は宿泊して美術館なども堪能したい。



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