再々開発は古くて新しい"京都 新風館"
エースホテルが入ることで話題となった「新風館」。
建物のデザイン監修は隈研吾氏。
10歳の娘と豊島区庁舎に行った際に、ここと国立競技場設計した人一緒だよね?と言っていたが、新風館も同じ人だよね、となるだろう。彼がつくる建物に込められたメッセージは一貫しているし、むしろ年々シンプルになっている。
1926年、新風館は前身となる「旧京都中央電話局」が竣工した。設計は近代モダニズムの先駆者と呼ばれた吉田鉄郎氏。連続したアーチ状の窓が印象的な建物だ。1983年に京都市指定・登録文化財一号に登録され、きれいな状態で保存され現代にその姿を伝えている。
そして2001年、建築家リチャードロジャースが増築建物を手掛けた商業施設がオープン。京都に新しい風を吹かせたいという想いから新風館と名付けられた。
確かパタゴニアも入っていて中庭を中心とした賑やかな商業施設だったように記憶する。
ただ、こちらは将来的な開発を前提とした建物であり、15年の営業を経て閉館、今回の再々開発に至った。
2020年6月コロナ真っ最中にオープン。店舗、ホテル、映画館からなる複合施設だ。
私はオープン当初訪れたが、2年経った状態を今回じっくりと眺めることとした。
京都の中心地に、歴史的建造物の保存と共に行う再々開発。色々なアプローチが可能なプロジェクトに対して、誰にでもわかりやすく解いたのではないかと思う。
そのポイントは、
1.現代の技術が可能にする伝統の復元
場所は烏丸御池からほど近い京都のど真ん中。建物のファサードは、特に京都では街並みを形成する一部として注意深く考え、造られている。ここでは、酸化鉄を混入した墨色のプレキャストコンクリート、アルミ製のランダムに振幅するルーバー、木で組んだ斗栱が外装とパサージュと呼ばれる内部通路に用いられている。コンクリートやアルミルーバーは色みや質感が綿密に調節されることで落ち着いた表情を作り出し、京都で古くから使われている木材との組み合わせにより、グンとそこに長く存在している感が醸し出される。そして各素材がゴテゴテせずに軽やかに浮遊して見える意匠は、現代の技術を持ってなし得た賜物だ。
2.京都で古くから親しまれる中庭の存在
新風館は三方の道路に接道し、それぞれの入り口はパサージュで繋がり中庭へと導かれる。庭は京都において重要な役割を果たす。著名な庭師によって京都の寺社仏閣に繰り広げられた荘厳な庭、その考えや手法はその後の庭作りのあり方に多大な影響を与えている。その点でこの庭は、京都の庭の発展系であり、回帰である。庭を中心に人々が集い、憩う。庭に降り注ぐ雨や日差しを感じる。庭に面する店舗の前面には縁側的な機能を持つ、木の柱と梁で構成された回廊が存在する。中庭には蛇行した小径と名和晃平氏によるアートワークも粋だ。
3.文化と人が集う場所、エースホテル
新風館を象徴するのがエースホテル京都の存在だ。エースホテルは、仲間のミュージシャンやアーティストが集う場所をコンセプトに1999年ポートランドで誕生したホテルだ。京都では「イースト・ミーツ・ウェスト」東西の出会いだ。内装デザインはコミューンデザインが手掛け、国内外のアーティストによる作品が惜しげもなく展開されている。中でも客室で柚木沙弥郎氏の作品が見られるのは贅沢だ。様々な文化や人が交錯する場所、という点で古くからの京都での慣わしと通じている。そしてそれがあらゆる世代の人たちに居心地の良い空間、として受け入れられている。
古いものやコトを用いて新しさを表現する、新しい技術を持ってして初めて古き良きものの表現が可能となる、そんな循環を楽しめる空間だ。