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今のままじゃダメ!?スペイン風邪と新型コロナウイルス(COVID–19)の対比分析からみえる出口戦略

 新型コロナウイルスの影響を測る際に、100年前流行した通称「スペイン風邪」と致死率を比較して語られることがあります。実際、日本における新型コロナウイルスの致死率は、新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年5月8日版)の情報から算出すると「3.6%」、後述するスペイン風邪の致死率は「1.6%」ですので、比較的近い水準です。

月刊総務:感染症流行の分類
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また、この二つには致死率以外にも、蔓延期間や感染経路など、いくつも類似している点がみられます。そこで、新型コロナウイルス(COVID–19)とスペイン風邪を見比べて、出口戦略のヒントを得たいと思います。

1.感染状況の対比

 新型コロナウイルス(COVID–19)とスペイン風邪をいくつかの軸で対比分析しました。

<感染状況の対比表>
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この対比から、感染経路や国民の対応は、さほど違いが見られません。

しかし、死亡者の年齢分布は、スペイン風邪が若年層メインだったのに対し、新型コロナウイルスが高齢者メインですので、大きな違いがみられます。

また、GDPベースでの経済的な打撃についても、スペイン風邪は1919年から1920年にかけてのみマイナス成長(わずか▲6%)だったのに対し、新型コロナウイルスでは、それを遥かに超えるマイナス成長が予測されていますので、違いがあるといえます。

さらに、蔓延期間についても、スペイン風邪が約3年かかりましたので、新型コロナウイルスでも2~3年はかかるかもしれません。それを念頭に、スペイン風邪の当時の状況をより詳細に分析することに加えて、現在の新型コロナウイルスの出口戦略につながる考察をしていきます。

2.スペイン風邪の国内感染者数

 東京都健康安全研究センター:日本におけるスペインかぜの精密分析(表2)によると、スペイン風邪の国内感染者数は2,400万人弱、死亡者数は40万人弱にものぼります。

<スペイン風邪の流行状況>
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スペイン風邪の流行状況をもとに、各回の流行における感染者数と死亡者数を、流行期間から1918年~1921年に按分したうえで、当時の日本の人口(1918~1920年1921年)を追加して「致死率(感染者数に占める死亡者数の割合)」「人口に占める感染者割合」を算出。

<スペイン風邪の致死・感染状況>画像6

致死率は、1920年が5.1%で他の年よりも著しく高く、4年間の平均では1.6%です。また、人口に占める感染者割合は、1919年が24.3%で最も高く、それ以降は著しく減少し、4年間の感染者割合を足し合わせると人口の43.3%にもなります。

つまり、スペイン風邪の収束までに日本人口の半数近くが感染したことになります。

3.死亡者の年齢分布

 スペイン風邪の死亡者について、東京都健康安全研究センター:日本におけるスペインかぜの精密分析(図2)では、世代マップを公開しています。

<スペイン風邪による死亡者の世代マップ>
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上記世代マップについて、同センターは次のように評価しています。

男子では1917-19年においては21-23歳の年齢域で大きなピークを示したが,1920-22年には33-35歳の年齢域でピークを示している.男子では1917-19年と1920-22年との両期間で年齢ピークの位置が異なっているのに対し,女子ではいずれの期間においても24-26歳の年齢域でピークを示している.また,女子のピークが男子に比して高いことも特筆に値する.

つまり、スペイン風邪の死亡者は、男性が20代前半と30代前半で集中し、女性が25歳前後で集中しています。

一方、新型コロナウイルスの死亡者については、東洋経済:新型コロナウイルス国内感染の状況の情報をもとに、日本の年代別の死亡者占有率(不明を除く)を算出。

<新型コロナウイルスの年代別の死亡者占有率(2020.5.7時点)>画像12


この結果から、死亡者の94%は60代以上の高齢者であることがわかります。

また、京都大学レジリエンス実践ユニット:リスク・マネジメントに基づく「新型コロナウイルス対策」の提案では、死亡率/重症化率の推計を公開しています。

<新型コロナウイルスの死亡率/重症化率の推計>
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上記推計について、同ユニットは次のように評価しています。

医療崩壊が起こり、重症化した人に十分な治療ができない状況では、死亡率はこの表の「a+b」と記した値に近づいていく点には留意されたい
若年層と高齢層では死亡率・重症化率は格段に異なるのであり、感染を特に注意すべきなのは、死亡リスクが50歳未満の約20倍から50倍もの水準にある60歳以上の高齢者だと推定される。

つまり、医療崩壊が起こると死亡者数は4倍超に増え、その多くは60歳以上の高齢者であることを定量的に示しています。

※「経済的な死者」と「新型コロナウイルスは暖かくなったら終息(?)」の分析結果と考察については、別記事で近日投稿予定。

4.スペイン風邪による日本の経済的な打撃

 スペイン風邪当時の日本のGDPについて、Maddison Project Databaseをもとに、国民一人あたりのGDPと人口をかけあわせて算出。

<日本のGDPの推移>画像4

GDP推移より、1919年から1920年にかけて6%低下しています。

しかし、スペイン風邪の感染のボリュームゾーンは1918年と1919年であるにも関わらず、1918年から減っているという動きはみられません。むしろ、1919年のGDPは前年から10%以上も増加しています。この増加は、第一次世界大戦の特需景気で、繊維・造船・製鉄などの製造業や、海運業が大いに発展したことがプラス要因として考えられます。

つまり、1919年が好景気だったために、翌年が反動してみえているだけであり、結果的に、スペイン風邪の経済的な打撃は、さほど大きくなかったと思われます。

実際、当時の日本政府は、ほぼ無策。流行性感冒予防心得(気をつけてほしいポイント)の公開など、ゆるやかな対策にとどまり、店舗の閉鎖、都市閉鎖、(神戸市等の一部自治体を除いて)小中学校の全面休校、勅令による行政戒厳(日比谷焼き討ち、関東大震災、2.26事件で発令されたもの)、大規模な国債発行などの措置はとられていません。さらに、1920年のアンワープオリンピックにも日本選手団は参加し、銀メダルを2つ獲得しています。

<流行性感冒(国立保健医療科学院 所蔵貴重書)>
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なお、1929年から1930年にかけてのGDPの低下は、世界大恐慌による影響です。

5.ワクチン、治療薬に期待がもてるか

 パンデミックの収束には、「ワクチン」「治療薬」「免疫」の3つが有効と考えられています。

「ワクチン」「治療薬」については、Beyond Healthレポート:新型コロナ、ワクチン・治療薬の開発状況一覧で、開発・製品化までの状況を公開しています。しかし、完成形のワクチン・治療薬はまだ無いというのが現状です。(2020年3月時点)

その後、ギリアド・サイエンシズ株式会社のレムデシビルが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として承認取得を発表しました。

6.最終的には集団免疫か

 ワクチンや治療薬が開発できたとしても、効果は軽症者向けか重症化向けか、副作用はあるか、生産・配給・浸透までどれくらい時間がかかるか等、課題はあります。その期待はもちつつも、ここでは集団免疫について検討してみます。

MEDLEY:集団免疫のイメージ図(閲覧日:2020.5.8)>
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スペイン風邪の当時よりも日本の人口が2倍以上になっていますので、もし同じ動きを繰り返すとすれば、新型コロナウイルスの日本人の死者数は100万人にも膨れ上がります。しかも、当時よりも「致死率の高い高齢者が多い」「東京一極集中による3密リスクが高い」「医療体制が充実していない過疎地の増加」などの要因により、さらに増える可能性もあります。また、スペイン風邪の当時は、第一次世界大戦の真っただ中であり、その前には日清戦争や日露戦争があり、40万人弱もの死者数は今ほどのインパクトは無かったかもしれません。

マスクをつける日本の女性たち
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しかし、戦争から距離を置いた現在の日本では、死者100万人はとても許容できるレベルではありません。

そのため、無作為に死亡者数を増やして集団免疫を獲得するのではなく、死者数を最小限に抑えたうえで集団免疫を獲得することが求められます。

そして上記で紹介した「新型コロナウイルスの死亡率/重症化率の推計」をふまえると、「計画的・戦略的に感染者を生み出すこと」「医療崩壊させないこと」「高齢者に感染させないこと」が鍵といえます。

その上で、京都大学レジリエンス実践ユニット:リスク・マネジメントに基づく「新型コロナウイルス対策」の提案~緊急事態宣言・出⼝戦略編~によると、現在の西浦教授の「接触8割減」論を批判しつつ、死者数を激減させる「5つの対策」を示しています。

<集中防御戦略における5つの対策>
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つまり、5つの対策を通じて、感染爆発を防ぎつつ、ゆっくりと感染者を増やし、円滑に集団免疫の獲得を促すことを主張しています。また、経済を平時に近い状況で回すことができるとも主張しています。

新型コロナウイルスに対する日本政府・行政の対策は、内閣官房HP厚生労働省HPで公開していますが、現在のような均一的な対策ではなく、もう一歩踏み込んだ現実的な対策が必要かもしれません。

以上、スペイン風邪を教訓とし、データ等に基づいて適切に対策を取り、一日も早い収束を祈るばかりです。

参考:分析のバックデータ

分析で使用したバックデータです。セルの色については、青字が「ベタ打ち」、黒字が「関数あり」、緑字が「別シート参照」です。コンサルや投資銀行などでよく用いられている方法です。

(公開:2020.5.8)


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