女川

【いつか来る春のために】㉒ 仮設からのリライブ編❸  黒田 勇吾

「ご参列の皆さん、今日は弟2人のために集まっていただきありがとうございます。私は話するの苦手でございます。だもって、簡単に話させていただきます。私の弟2人は今もって行方不明でございます。悲しいこってございます。私も含めておらだぢ3人はみな独身でございました。ですから私たちの代で安部家の血縁は途絶えてしまうでしょう。それは、いだし方ないことでございます。父も母もとうに亡くなり、この度は弟2人も失うということになりますた。私も一時は死ぬことばっかり考えておりますた。んだども、ここにいる山内美知恵と嫁さんにこの1年間いろいろ励まして頂き、今日まで来たわけでございます。本当にありがたいこってす。私の故郷、夢川も本当に変わり果てた姿になりました。しかし今は負けてはなんないという気持ちになってきました。私も70歳を過ぎて何も希望と言えるものはなかったのですが、故郷の友達や若い衆ど、この1年いろいろ付き合ってひとつ希望が持てるようになりました」ここでおじさんは一息ついた。参列している皆さんの顔をひとりずつ見渡してから、やがてまた話し続けた。
「私は今まで自分の為だけを考えて生きてきました。んだども今は実家の浜の若い衆のために残りの人生は捧げるつもりです。それが生きがいであり希望であります。今日も参列してもらってる浜の皆さんのためにこれから頑張ります。だもってどうか皆さん、これからもよろしぐお願いいたしたいです。本日は来ていただいで本当にありがとうございます。明日は浜に行って、若い衆どともに、3.11を迎えいまいちど出発していぐ所存です。ありがとうございますた」康夫おじさんはそう締めくくって深々と礼をして席に戻った。

「それではご遺族を代表して、もう一方、山内美知恵より挨拶があります」司会の言葉で美知恵が立ち上がった。と同時に加奈子も光太郎を抱いて隣に立った。2人で参列者に深々と一礼すると、美知恵が話し始めた。

           ~~㉓へつづく~~