空覚の唄 (徳山璉・四家文子)。
徳山璉と四家文子の歌う「空覚(くうかく)の唄」。鈴木賢之進と云うあまり聞かない人の作詞作曲で、阪本勝原作の小説「洛陽飢ゆ」の主題歌です。また本作は阪東妻三郎が興したプロダクションである「大日本自由映画」にて映画化されており、監督は東隆史が担当。主演はもちろん阪妻で、他に近松久美枝、若月孔雀、堀川浪之助、児島三郎など。残されている本作のポスターでの阪妻は武骨にして妖艶な面持ちであり、現代の俳優と比較しても引けを取らない程で、往時の人気振りが窺えます。勉強不足で此の「洛陽飢ゆ」が如何なる物語かは分かりませんが、どうも中国の洛陽市とは関係なさそうです。曲名にある空覚と云うのは阪妻が演じる風間覚之進を指しており、また登場人物の“おしま”が夜鷹である事を考えると、江戸時代を舞台にした男女の物語ではないかと思われます🎬。
主題歌「空覚の唄」は、全四番構成によるスローテンポのメロディ。心現れる様な上品な歌で、一番を四家、二・三番を徳山、四番を再び四家が歌います。歌詞には「衆生」「彼岸花」「華厳」「曼荼羅華」などの仏教用語が並び、曲名にも空覚とあるので最初は江戸時代のお坊さんをテーマにした伝記的な歌かと思った次第。伴奏はフルート、ピアノ、バイオリン、鐘などが使用され、全体的に室内音楽風のサウンドとなっています。作者の鈴木賢之進(1896〜1970)は音楽関連の洋書の翻訳者であり、幾つかのクラシック関連の書籍に名前が確認できます。その彼が何故時代劇のテーマ音楽を手掛けたかは不明ですが、芸術性に富んだ佳曲であり、優秀な声楽家の徳山・四家の歌声で残ったのは幸いでした。裏は藤本二三吉の「おしまの唄」で、レコードは昭和6年秋の発売です😀。
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