摩天楼 (佐藤千夜子)。
佐藤千夜子の歌う「摩天楼」。時雨音羽作詞、佐々紅華作曲で、同名日活映画の主題歌です。本作は“移動派文藝同人”という複数の作家グループ(土師清二、池津勇太郎他)の原作で、監督は村田實が担当。出演は中野英治、高木永二、三桝豊、入江たか子、佐藤圓治、英百合子など。もちろん無声映画でして、昭和4年10月17日に「摩天楼・争闘編」(全10巻)が、続いて翌年1月14日に「摩天楼・愛欲編」(全8巻)が封切られております。内容は不明ですが、題名や歌詞に残されたスチール写真などから察するに、摩天楼が並ぶ大都会=帝都東京を舞台にした男女の愛憎交じる人間ドラマではないかと思います。歌詞紙には高級車の後部座席から御御足を露わに座る洋装の入江たか子に、主役の中野が縋っている写真がプリントされまして、何とも刺激的な印象を覚えました😳。
さて佐藤千夜子と云えば、昭和初期を飾った歌姫であり、また主要曲の殆どは中山晋平が手掛けていますが、何曲かはもう一人の雄である佐々が携わりました。「摩天楼」はその曲名同様に威圧感さえ感じる重厚かつ荘厳な旋律でして、六番まである歌詞を三番づつ両面に分けています。陰旋法のスローテンポのメロディ、夜のムード溢れる伴奏をバックに佐藤は格調高いソプラノを響かせました。前間後奏が全て同じなのは当時の佐々楽曲の特徴、ピアノ、拍子木、バイオリンなどが使用されております。ソロプレイはなくシンプルな編曲ながらも、映画の世界を上手く音楽で現していて、言いしれぬ禍々しい雰囲気を漂わせていました。モダンな歌詞ですがベースは舞踊小唄調でもあり、続く裏面では三味線伴奏で藤本二三吉の吹き込み。レコードは昭和4年初秋に発売されています😀。