沙漠の花 (四家文子)。
四家文子の歌う「沙漠の花」。山田せんし作詞、田中常彦作曲で、声楽家として活躍した四家文子が歌った数ある流行歌の一曲です。東京音楽学校出身の彼女は、デビューに際して「四谷文子」と云う名前を予定していたのですが、姓名判断に凝っていた母校の先輩山田耕筰の「四家にした方が人気が出る」という“有難い御告げ”に従い、その四家になったと言われております。昭和4年にビクターとポリドール双方に録音を始めますが、専属先として前者を選びました。その背景の一つとして、ビクターの主力歌手の佐藤千夜子がイタリアに行ってしまったので、後釜として四家文子が注目されたという事情もあった様です。映画主題歌の「不壊の白珠」が売れて好調なスタートを切り、続いて藤野豊子名義で入れた「アラ、その瞬間よ」が大ヒット。社の期待通りの活躍を始めたのでした🎼。
「沙漠の花」は(エジプト・メロディ)というサブタイトルがあり、陰旋法で書かれたスローでお淑やかな歌ですが、異国情緒溢れるアレンジが施されて中々飽きないサウンドです。三番構成の歌詞と旋律には旅情感が溢れており、聴く人をエジプトの沙漠へと誘います。伴奏はピアノ、太鼓、サックス、クラリネット、フルートに加えて作曲者田中常彦自身が奏でるマンドリンが間奏に流れ、四家文子の豊潤なアルトが歌の世界に彩りを添えました。田中常彦(1890〜1975)は日本に於けるマンドリン奏者の先駆けとされている人物で、同じ世界で活躍した武井守成とは同い年であり、かの古賀政男からすれば大先輩でした。近年田中の評価が進んでおり、彼の楽曲の新録音のCDも出たとか。カップリングは藤田清の「波止場の別れ」で、レコードは昭和8年春に発売されています😀。