愛馬の別れ (音丸)。
音丸の歌う「愛馬の別れ」。西條八十作詞、江口夜詩作曲で、有名な「塩原多助一代記」の世界を歌謡化したものです。塩原多助とは江戸時代中期の豪商ですが、決して裕福な家の出ではなく、奉公人の身からのし上がって行った成功者でした。江戸へ出て味噌屋を手始めに奉公を重ねて、40歳を前にして店を構えて一定の成功を収めます。その後も私財を投じて土木事業を行ない、また鳥居や玉垣の寄進も実施して数々の徳を積みました。時は流れて明治に入ると、塩原多助のサクセスストーリーは架空の設定も加わり、娯楽作品としても語り継がれる様になります。その一つが、故郷上州での手塩に掛けて育てた愛馬(通称青)との別れのシーンであり、落語や講談では繰り返し演じられ、近年では「ドリフ大爆笑」でも加藤茶が多助、志村けんが青に扮してコント化もなされました📺。
「愛馬の別れ」は民謡出身で、既に「船頭可愛いや」「下田夜曲」などのヒット曲を持つ音丸の名唱曲の一つです。彼女を高く評価していた江口夜詩の楽曲ですが、敢えて三味線調ではなく他の洋楽系流行歌手と同じく洋楽器伴奏で録音に臨みました。三味線の爪弾きを模したバンジョーの乾いた音色、笛やサックスの音色は上州の冷たい夜風と月明かり寂しい宵闇を思わせます。音丸はやや低音でマイクに向かい、語る様な歌唱で多助と愛馬の青の別れを歌いました。当時、こう云った感じの日本調流行歌はポリドールが覇権を握っていた感があり、無論他社も負けじと専属の綺麗処を活用して応戦したのでしょう。コロムビアには豆千代や赤坂小梅がおりましたが、郡を抜いて人気が高かったのが、花柳界出身ではない音丸だったのは興味深いものがありますね。昭和12年初夏の発売です😀。