今宵はいかが (奥田良三)。
奥田良三の歌う「今宵はいかが」。サトウ・ハチロー作詞、山田榮一編曲、彼が歌った外国映画主題歌の一つです。原曲は1931年のオーストリア映画「今宵こそは」の主題歌で、主演は歌手でもあるヤン・キープラ、マグダ・シュナイダー、オットー・ワルグなど。監督はアナトール・リトバク、音楽と主題歌はミッシャ・スポリアンスキーが担当しました。当時、オーストリアの映画はドイツのウーファー、或いはフランスのトビスなど会社を経由して、日本へと伝わって来ました。音楽と芸術の都たるウィーンを擁する同国の映画だけに、此の手の作品は自家薬籠中であり、特に此の「今宵はいかが」は高評価を得たとあります。主題歌は冒頭から流れて、OPから本編に変わる所でヤンの口元がアップされますが、歌っているのではなく実は歯の治療中と云う構図も見事なものでした😎。
映画の日本公開は3年後の昭和9年であり、早速ドイツ系企業であるポリドールから奥田が歌うのも自然の流れでした。既に「命かけて只一度」「マドロスの恋」「ボクサーの唄」など、ドイツ映画主題歌を手掛けており、この「今宵はいかが」も手慣れた感で歌っております。キープラのオリジナル盤がセミ・オペラ的で、スロー・リズムなのに対して奥田盤は幾分アップテンポであり、それでいて男性的で力強いテノールでマイクに向かいました。当時の奥田の歌唱は母音の伸びが実に美麗であり、二度に渡る欧州留学の成果が溝に刻まれた事は、それを後押しした会社にとっても幸いであったと言えるでしょう。映画と主題歌は日本でも好評であり、此の後上演された松竹少女歌劇団「巴里・モンテカルロ」の劇中で、井草鈴子が「今宵を君と」と云うタイトルでカバーしております😀。
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