栄冠涙あり (藤山一郎)。
今日は昭和の大歌手、藤山一郎の30回目の命日です。平成5年8月21日の夜、無情にも伝えられた稀代の歌手の訃報は、前年の国民栄誉賞受賞の喜びの後だっただけに、一層寂しくそして悲しいものでした。昭和と云う日本の歴史の中でも多彩な時代を駆け抜けた彼は、歌手のみならず作曲家としても活躍し、また職場の若人の為に歌唱指導を行ったりと、常に大衆とその音楽の為に人生を捧げたのです。彼の吹き込んだ歌、その大半が流行歌なのですが、その中から今夜は初期の楽曲「栄冠涙あり」を。佐伯たかを(孝夫)作詞、谷口又士作曲で、同名不二映画の主題歌として書かれました。大学のボート部を描いた青春映画で、原作は久米正雄。これを川口松太郎が脚色し、鈴木重吉がメガホンを取り、出演は鈴木伝明、岡田時彦、池上喜代子、高田稔などで、全十巻の無声映画です🎞️。
主題歌はアメリカの学生歌「スタインソング」を範にした、マーチテンポの六拍子のメロディで、実際イントロを借用しています。作曲者の谷口又士はトロンボーン奏者で、当時はコロムビア・ジャズバンドで吹いておりましたが、後に新設されたPCL映画の音楽スタッフとしても活躍。まだ若手だった佐伯孝夫はボート競技に青春を捧げる学生達を六聯に分けて詩情豊かに描き、溌剌とした旋律を藤山一郎は明瞭に歌いました。此の時期の彼は古賀メロディ以外は殆ど忘れ去られた感がありますが、他に「青春図繪の唄」「輝く我等の行方」等、学生を主人公にした映画主題歌を多く歌っております。彼自身が青春只中の学生だった事もあり、若者らの共感を呼んだ事は想像に難くないでしょう。裏面には出演者らの挨拶が収められており、映画公開直後の昭和7年初頭に発売されました😀。