エンコ節 (藤本二三吉)。
藤本二三吉の歌う「エンコ節」。柳水巴作詞、ビクター文芸部作曲とありますが、それぞれ前者は西條八十、後者は松平信博の変名です。曾我廻家五郎原作のシナリオを元に、曽根純三監督がメガホンを取った帝キネ映画「ルンペン熊公」の挿入歌で、主演はその曾我家の他に中野英二、鈴木澄子らがキャストに名を連ねております。映画公開は昭和6年9月8日で、それは満州事変の起こる10日前の事でした。世は今よりも一段と厳しかった格差社会。内外ともに不景気の真っ只中では大学を出ても行く当てがなく、失業者や一家離散の憂き目に遭った人が大勢いました。歌や映画の世界にも貧困をテーマにしたものが現れ、例えば二村定一の「浮浪者行進曲」や、馬場晴子の「センチメンタル・ルンペン」が書かれ、また先週述べた「ルンペンとその娘」などが歌われておりました🎼。
『エンコ節』は、当時一の人気を誇っていた藤本二三吉が歌うコミックソングで、いつもの純邦楽や三味線調流行歌とは違った、明るくすっ飛ばした愉快なメロディです。全三番構成で、金管楽器を主体とした伴奏に、ウッドブロックやバンジョーに弦楽器も加わった、全体的に響く賑やかなサウンドでした。またサビの箇所では♬ははははは、ハックショイ!でもルンペン呑気だね!“と楽しく決めて、芸者ならぬ芸達者な一面も見せています。曲名の「エンコ」とは、後年の「ナンパ=パーナン」と同様に公園の事かと思われますが、一説では浅草を指す隠語とも。これのA面こそ徳山璉のヒット曲「ルンペン節」ですが、此の時はさして話題にならず、数年後にリアクションを入れた新録盤が大ヒットしたので、残念ながら「エンコ節」は埋もれました。レコードは昭和6年秋の発売です😀。
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